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結婚式の夜

 メリが持っていた私からのカードから私の香りがしたのだという。犬か。


「スールは厨房を担当しているのだな!地味な仕事だろうに楽しいと書いてあって感心した」

「本当に楽しいのですよ」


 竜使いの騎士御用達というちょっとだけお高い食事処で私はひらりとスープを飲んだ。

 アルブランドがウキウキそわそわしている。

 店中の注目を集めてもいる。

 これでは好きな人を作る暇がないぞ。


「サーリームの結婚式のパーティーだが……予定はあるのか?」

「あります」


 即座に応えた私にアルブランドは切ない顔をした。

 無視である。


***


「私の準備は助かっちゃったけど、ファルスの支度はどうするの?」


メリは嬉しそうに鏡を見ながら私を気遣った。

 人気の店で選んだドレス、母さん直伝の私の美容術で格別にきれいになったメリは自分の姿に満足そうである。


「大丈夫よ、予定があるの」


 何の用事なのといぶかしむメリを馬車に押し込み、手を振って見送った。

化粧品一式を入れた重たいトランクを転移させて家に送り返す。

屋台で串焼きの肉や揚げ餅、果実酒を気まぐれに買って、家路をたどった。

浮かれたお祭り騒ぎのエリアを過ぎると、光も少ない寂しい小路にさしかかる。

そう、一人傷心宴会という予定を立てていたのだ。

サーリーム様とマリヌエラ様の結婚を祝う歌が響いてくる。

何とも言えない切ない気持ちで油断していた。

がばっ、と、頭から袋をかぶせられる。


(なんたる失態!)


あろうことか「大魔法使い」ファルスールは攫われてしまったのでした。


***


「まあ、えらく綺麗な子がいたもんだよ」


 その、右手のない男は人のよさそうな顔で困ったように笑った。


「可哀相だが、こっちも食い詰めているんでなぁ」


という男は左足がない。


(ええと、ガルシアに、エドモンド……)


私の入った檻に見張りについたのは、元竜使いの騎士たちだった。

傷痍軍人というやつだ。

 

「あんまり話すな、情がわいちまうぞ」


 と、言いながら現れたのは戦闘魔法がピカ一だった文官ノーリッヒだった。


「戦しかできない俺たちにはこういう事しかできないとギョレム様が言ったじゃないか。諦めてこの道を究めるしかない」


 この道って……犯罪者になるってこと?

 この三人はいい奴らだった。

 ギョレムは従軍時代から気の合わなかった魔法使いのジジイである。

 とにかく口がうまくて、戦場では使い物にならなくて、私は大嫌いだった。

 この檻に入る前、檻が入れてある馬車が何台も集まっているのを確認した。祭の浮かれ騒ぎに紛れて大勢の女の子をさらい、奴隷として売りさばきに行くつもりなのだろう。

傷痍軍人も戦闘魔法しか使えない魔法使いも確かに戦が終わればお荷物だろうが、こんな大所帯になっているなんて。

メーユ王宮人事部~!杜撰すぎるぞ!

私は魔獣の毛の小筆を取り出し、果実酒を少し浸した。

串肉を食べて、串をそっとしまう。

ああ、爆発の魔術具も持ってくればよかった。

本当にただの女の子だと思われたらしく、檻にはカギがかけてあるだけで、魔法などもかかっていない。


(どうしたもんか)


ガチャリ、と、鍵が開いてガルシアがすまなさそうな顔をしながら現れた。


「ギョレム様が一番かわいい子を連れて来いというんだ」


 と、言いながら私に手を伸ばしてきた。

 ……え、私?

ガルシアはあくまでも優しい。

というか気が優しすぎて仲間をかばって腕を失ったんだったよ。

しかし一番かわいい子が、私か……。

化粧は相変わらず崩れていないらしい。


複雑な気持ちで立派なテントに入れとうながされるままに布をめくる。

テントの中にはじゅうたんとクッションが敷き詰めてあり、ギョレムは既に2、3人の女の子を侍らせて上機嫌だった。

女の子たちは下着姿にされて震えている。


「ほう、また上物が来たものだ。早速服を脱いでもらおうか」


 ……この外道。

 私は素早く慣れた手つきで魔獣の毛の小筆で緊縛の魔法陣を描いてギョレムにかけた。

 声すら出せなくなったギョレムの喉ぼとけに取り出した串を突き刺す寸前で止める。


「ガルシア!ギョレムを殺されたくなかったらこの強盗団全員をここに集めるのよ!」


 私の声にガルシアが気づいて驚く。


「ファルスール?!」

「そうよ、いざとなったらいっぺんに全員殺せるファルスールよ。早く!」


 魔術具もないのでハッタリだが、戦場の私を知る人は信じてしまうだろう。

 ガルシアが慌てて馬車を飛び出した。すかさず女の子たちが逃げようとする。

 その背中に小筆でトトン!と記憶を消す文字を書いた。

 果実酒、多目に買ってよかったなぁ。

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