忘れて、忘れないで
領地経営とか分からんし、もらっても困るよ、と思っていたが、一応それはいただくことにした。
「国の宝」にもなることにした。
名誉文官というか、王宮に通わなくてもお給料が出るらしい。
アルブランドと二度と会わないで済む計画もみんなで一緒に立ててもらった。
「以後私、ファルスールの情報をアルブランドに漏らしてはならぬ」というお触れを出してもらう。
もろもろの手続きを終えて、文官棟から出てきた私を待ち構えていたアルブランドを先手必勝ガンッ、と魔獣の筆でしばりつける。
私の魔術は油断している英雄を奇襲すれば圧倒できるくらいにはあるのだ。
そのまま人気のない王宮の森の隅に飛んだ。
王宮ではこれから祝賀会が行われるようだ、浮かれた楽団の音楽が遠くに聞こえる。
魔紙を取り出すと念入りに用意していた文字が飛び出す。文字は輝いてアルブランドを繭のように包んだ。
『さあ深く眠って。ファルスールという者はあなたの夢の中の人。アルブランドには唯一で真実の愛があります』
アルブランドはしばらくもがいていたけれど、力をなくしてすうすうと眠り始めた。
「……いいのかい?」
後ろから声がしたのにビックリして振り返ると、長い間つけっぱなしだった額の飾りを外したサーリーム様が困った顔で立っていた。
「僕らと君たちと二組で国を挙げて式をしようと話をしに来たのだけれど……」
(どいつもこいつも頭沸いてんな)
私はサーリーム様の首元をひっつかむと無理矢理に唇を奪った。
びっくりしたサーリーム様を見て、ふふっと笑う。
「お忘れください……いえ、一生忘れないで。私は王宮には二度と参りません」
サーリーム様は私を追ってこなかった。