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なんたるぐだぐだ

バリンッ!

 大きなガラス窓が内側から破られた。

 まだ婚姻の間の魔術はほどこされたままだというのに、素手の力技で粉々にしてしまった。

 アルブランドらしいと言えばアルブランドらしい。

 婚姻の間に焚かれていた催淫剤がどっと廊下に流れ込んだ。

 やはりとんでもない濃度である。

 周囲の人たちの目がトロンとしてきたのが分かった。

慣れている私はいいが、ギャラリーは危ないぞ!

ほら、むつみあい始めた人たちまでいる。


「窓を開けて!」


 と、私が叫んで換気をさせようとするが、催淫剤はなかなか薄まらない。

 第2王女は裸の自分が大勢の人間の目にさらされていることに気づいて悲鳴を上げた。

 しかし催淫剤でメロメロになったアホ侍女たちは使い物にならない。

 自業自得である。さらされとけ。

 それはともかく催淫剤の煙の中からアルブランドがどんどんこちらに近づいてくる。

 

「ファルス!俺たちが盾になるから逃げろ!」


 ガルシアの叫びを聞いて我に返った私は、二人の前に回り込む。

 この男たちも強いがやっぱり傷痍軍人だし、私の方が段違いに強いのだ。

 しかしアルブランドへの勝算などない。

敵に回したくないとずっと思っていた男に相対する私はもう何も考えられない。


(怖いこわいこわい!)


 戦場でも誰にもこんな目を向けられたことはないのだ。

 熱くて凶暴だ。

 食べられる。

 アルブランドの手が私の頬に触れようとした瞬間、二人の間にすっと人が割り込んだ。


「僕の第2夫人候補に手を出しちゃだめだよ、アルブランド」


 深い碧眼はなぜか愉快そうな光をたたえていた。

 

「……サーリーム様!」


 一同唖然としたのである。


***

 

 アルブランドは一騎当千の「英雄」である。

 私だって向かうところ敵なしの「大魔法使い」である。 

 そんな私たちが歯向かえない相手がいた。

 第3王子のサーリーム様である。

 サーリーム様が白と言えば黒も白となった。


 だから、サーリーム様のお言葉は絶対だった。

 ずっとあこがれ続けてきたお方でもあった。

 しかし、サーリーム様は作戦を立てる時も駐屯する時も私たちを尊重してくれ、さらにマリヌエラ様一筋で、美々しい娼婦はおろか小猿の私などには目もくれない潔癖な方だった。

 そんな方から今さら「第2王妃」。

 ご乱心である。


「サーリーム様は戦地でも女性に見向きもされない方で……」

「マリヌエラが額の飾りの魔石でずっと監視していたからね」

「は?!」


 ずっと外されることがなかったサーリーム様の額の飾りは彼の視界をマリヌエラ様の魔紙に映すための魔術具で、自由などみじんもない状態であったらしい。


「私も武勲を立てて自分のやりたいようにできるようになった。何人か妻をめとり、愛妾を持っても良いと思うのだ。ファルスがずっと私を慕ってくれていることは判っていた。ファルスは乙女だろう?」


 碧眼が甘く光る。


「こんなに美しく変わるとは嬉しい予想外だ」


(……男って、男って!!!)


 私が今まで心の宝箱にしまっていた、サーリーム様の温かい笑顔や細やかな心遣いがぽろぽろと零れ落ちてゆく。

 小汚い小猿と思いながら戦力として重用していただけなのだろう。

 全身泥まみれでぐしゃぐしゃな髪だった私に惚れてくれとは言わない。

 しかし、国の宝になり、身なりを整えただけで第2夫人候補と言い出すなどと、私の内面を見ていないのと同様ではないか。

 ピタリと動きを止めたアルブランドは不機嫌な顔でサーリーム様の手を丁寧に、そっと除けた。


「彼女は私の唯一で真実の愛です。譲るわけにはいかない」


 それは私の魔術の文言だ。


「唯一で真実の愛の根拠をお聞かせくださいますか?」


 たずねると、アルブランドは少し考えて、


「そのように教えられた気がするのだ」


 と、答えやがった。


……あーもー!

 男なんてバカばっかりだよ!


「私は今日で王宮を辞します。お二人の気持ちに応えられない傲慢をお許しください」


 二人とも見かけだけは特上なのが余計腹立つ。

 アルブランドは知る限り女をとっかえひっかえだったし、私の魔術を解けばすぐにただれた生活に戻るだろう。

サーリーム様はこれから愛欲の生活に飛び込むつもり満々らしい。

 こんな猿どもに私がかかわりあう気はサッパリない。

 もう、一生乙女でもいいくらいだ。

 

美しく結い上げた髪はすっかり乱れて、艶を失っている。

 総レースの華奢なドレスはすっかり汗と埃まみれだ。

 何よりもうこの場に居たくない。

 筆に残った最後の液で、アルブランドにかけた魔術にほころびを入れた。

 強い男である、時間はかかっても私の魔術を解いてしまうだろう。


「ガルシア、エドモンド、帰るよ!私につかまって!」


 二人がすばやく私の腰にタックルしてきた。

 王宮から一瞬で我が家へと舞い戻ったのである。

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