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王女様のご乱心

「ガルシア、エドモンド、ついてきてよ」

「おう、荷物持ちくらいはできるぞ」


歴史ある「婚姻の間」を開けようと思ったらさすがの私にも準備がいる。

数種の薬草を煮詰めた液と上等の墨をすったものを混ぜ入れた壺をガルシアに持ってもらい、魔獣の毛でできた大小の筆、念のために数種の魔術具もそろえてエドモンドに持ってもらう。

そして最後に自分の背中に大筆を背負って3人で一瞬で王宮へ飛んだ。


「ファルスールが参りました!婚姻の間はどこでしょうか?」

「え?ファルスール様?え?」


 土まみれの小猿だった印象が強すぎて、いきなり飛んできた(もう自分で言ってしまうが)美少女がファルスールだと分からないらしい。

 元竜使いの騎士のガルシアとエドモンドが一緒にいたことと、メリが駆け寄ったので、ようやく信用してもらえた。

 結婚式だというのに主役であるサーリーム様とマリヌエラ様までいらっしゃる。

 大事件なのだ。


「いにしえの古老たちが知恵を集めて作った魔法、大丈夫かしら?」

「開けてくれないと困る!」

「いや、ぶち壊していいのかなって」

「それどころじゃないでしょう!」

「あ、そうか」


 結い上げられたつやつやの髪がはらっと乱れる。

足のスリットの開く限り私は腰を落とし大筆をかまえた。

 

(身なりに構っていられないよ)


 大きなガラス窓の向こうにアルブランドにすがってねだる裸の王女と着衣のままで拒み続けるアルブランドが見える。

 向こうからは見えない。こちらは確認のために見えるような細工になっているのだ。

 アルブランドが、女体を拒む姿を見る日が来るとは思わなかった。奇跡である。

 私の魔術、すごい。


「カムパネルラ国の王子はここにおられるのかしら?」

「王女は抜かりなく王子のお酒に睡眠剤を入れたようなの。ぐっすり寝ていらっしゃるわ」

「なんていうか、力強い王女様だな」

「気さくで庶民派で人気がある方なのよ」

「ううう……気さくにも程があるわ!」


 メリと軽口をたたきながら魔力を流し、部屋にかけられた紋様を浮き立たせる。

 男文字と女文字の組み合わせは複雑で、解除には時間がかかりそうだ。

 ただ、できなくはない。


「破壊の魔術具は効かなかったの。傷一つつかなかったわ」


 メリが申し訳なさそうに言う。

あああ。この筆頼りになっちゃった。

ガルシアが捧げ持ってくれた壺に筆を浸す。

エドモンドは取りやすいように大小の筆を示してくれた。

 薬液と墨を混ぜた液を含ませた魔獣の筆で紋様に小さく、大きく男文字と女文字を書き足していき、意味を変えていって効力を少しずつ弱めていく。

 汗が全身ににじんできた。

 密閉が弱まるにつれガラス窓から漏れてきた催淫剤の匂いの濃さにぞっとする。

 これは慣れていないと急性中毒を起こして死んでしまうレベルなのではないか。

 戦場で使われ慣れていたアルブランドはいい。王女がどうにかなってしまったら!


「大丈夫、そういう点でも気さくな王女で有名だから」

「ただれているな、王宮……!」

「うらやましいな、王宮……!」

「戻りたいな、王宮……!」

「いや、こんなことが続くならちょっと嫌だろう」


 ネリの言葉に私とガルシアとエドモンドは口々に言いあいながら気持ちを張り詰め続けた。

 タイムリミットはカムパネルラ国の王子が目覚めるまでだろう。

 何時間かかるかは分からないが、とにかく一刻も早く解除しなくては!

 ガルシアが捧げ持つ壺に何度も筆を浸して、壁の紋様を崩していく。

 エドモンドの持つ筆の中には使い物にならない状態のものも出だした。

 小筆や中筆で準備をして、大筆で大きく意味を変える。

 魔力と体力と集中力が削られていく。

でも、あの決戦の日に比べればなんてことはない。


「液がもうすぐなくなる」


 ガルシアが告げるころには、婚姻の間の中の音が聞こえてくるくらいに紋様が解かれていた。

 今まで向こうからはこちらが全く見えなかったはずだが、少し見えるようになっているはずだ。


「あともう少しだから大丈夫なはずよ……」


 私が大筆をかまえた瞬間、中にいるアルブランドがふっとこちらを見た。

 

(あっ、やばい)


 本能でそう思った瞬間、ガルシアが壺を放り出して左手で私の身体を引き寄せて背後にかばった。

 私と目が合った一瞬で、発情したアルブランドの少しとろんとしていた目が大きく見開かれ、べりっと裸の王女を引きはがし、そのままずんずんと私だけを目がけて歩いてくる。

 エドモンドは迷ったせいで少し反応が遅れたものの、剣を抜いてアルブランドに向かう。


(イ~~~~~ヤ~~~~~!!!)

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