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宴のあれこれと、そして

 無事に全員分の部屋を確保し、子どもの頃から通っている食事処に無理を言って貸し切りにさせてもらって、みんなが身体を清めて衣服を整えている間に、母さんは私を飾り立てた。

 つやつやと光る茶色の髪は繊細な細工の金と銀の髪飾りで結い上げられ、黒の総レースのドレスは華奢な身体にぴったりと沿う。

 化粧だってやり直して、私らしくありながらさらに不思議に魅力的に見えるように仕上がっている。


「こんなことしても無駄なんだから!」


 私が何度言っても聞いてはくれない。


「どうせアルブランド様には求婚されているのでしょう?今さら隠れても無駄よ。それよりもサーリーム様をぎゃふんと言わせてやるのよ!」


 と、息まく母さんを父さんがあきらめた顔で見守っている。

 

「我が家の宣伝にもなるしね」


 娘の失恋を商機に変える母がたくましすぎる……!

 みんなには父さんのアドバイスで衣服を買うよりもちょっと多めにお金を渡した。

 女性は何かと物入りだし、男性は夜のお遊びにも行きたかろうという配慮だそうだ。

 ちなみに化粧品の類は消費期限が間近なものを格安で譲った。

 

 そのような訳で、食事処に集合した私たちご一同様は、「騎士です」と言っても不自然ではないくらいにそれなりの体裁になっていた。

 前もって屋台などで何かお腹に入れておいたらしく、食べる前から下品にがっつく者もいなかった。

 ただ、ひとたび宴会が始まれば物凄い量を食べて飲んだ。

 そして歌うわ怒鳴るわやかましい。これはもう仕方ない。慣れている。


「気持ちのいい食べっぷりねぇ。さあ、これも飲みなさい」


 母さんは良く食べる人が好きである。

 父さんと母さんは全員にお酒を注ぎ渡して会話を交わしていった。

 しかし、ただ挨拶をしているだけではない。

 その人がどれくらい忠実か、機転が利くか、などを見定めているのだと私は判っている。

 統率をとれる人も必要だし、人間関係も把握しておきたいようだ。


(みんなが母さんのお眼鏡にかないますように!)


 という私の気持ちなどまるで関係なく、飾り立てられた私を見て、酔っぱらったガルシアが


「もったいない」


 と言い出した。


「あのいつも薄汚れた土まみれのファルスが今夜は王女様みたいなんだぞ?アルブランド様だって

『自分があんな小猿を好きなはずはない』

なんて自分の気持ちから逃げずにお前に求愛していればよかったと悔やむはずだよ」


 その言葉にみんなが同調する。


「よくそんなこと言っていたわねぇ、あの人」

「しかしこの姿を見てみれば見る目があったということか」

「いや、アルブランド様は外見関係なく何かと自分を支えてくれるファルスに惚れたようだったからな」

「王宮に乗り込んじまえよ!」


 中途帰郷して式典に参加しなかったみんなが知らないだけで求婚はされたのだ。

 しかし、面倒を見てくれるから結婚してほしいなんて男は願い下げ。

 それにしても私は好き放題言われ過ぎである。

 さすがに見かねて口を開こうとした瞬間、食事処の玄関がバンと開け放たれた。


「宴の席に押しかける失礼をお許しください!……って、お前ら久しぶりだな!元気そうで良かった!」


 王宮の竜使いの騎士の一人である。

 「まあお前も飲めよ」など陽気に騒ぐ一同に使者は一瞬流されかけて、しかし彼は思いだし叫んだ。


「アルブランド様が第2王女に婚姻の間に閉じ込められてしまったんだ!」


***


 相性の合わない二人が結婚しなくてはならない時もある。

 平民ならともかく、王族となれば離婚などご法度である。

 この国では夫が複数の妻を持つことが認められているが、他国では一夫一妻しか通用しないこともあるし、相性の悪い夫婦にそれをさせていれば家庭崩壊まっしぐらだ。

 この問題を解決するために昔の魔法使いたちが作り上げたのが「婚姻の間」である。

 その部屋に男女が一度入ったら、契りを結ぶまで扉が開くことはない。

 そして、その部屋で契りを結んだが最後、お互いにしか発情できない身体になってしまうのだ。


「……確認しようか。アルブランド様が第2王女を連れ込んだのではないの?」


 声と話し方で私がファルスールだと気づいた使者は「お前化けたなぁ!」と、くだけた笑顔を浮かべた。それどころじゃないでしょうが!


「違う。第2王女は同盟国のカムパネルラ国の第3王子に嫁ぐ予定が決まっていた。しかし、凱旋パレードのアルブランド様を見て一目惚れしてしまわれてな……」


 勘が鋭くて頭の回る武人のアルブランドをよく連れ込んだものだと思うが、王女の権力と彼女の初恋に同情的だったアホ侍女の助けがあってアルブランドは薬の入った酒をしこたま飲まされ、酔っぱらわされてそこが婚姻の間だと知らずに閉じ込められてしまったらしい。


「扉の開錠にはお前の力がいる、ファルス。不本意だろうが王宮に来てくれないか」

「……本当に不本意なんだけど!」

「あら、今日のお披露目にちょうどいいじゃない?」

「スールがファルスールだとばれてしまうよ!」


 父さんの言葉にはっとする。

 トーミや厨房の人たちとの日々はつつましくも楽しかった。

 せっかく築き上げてきた関係が途切れてしまうのは悲しい……が。


「全部終わったら王宮を辞して領地に行きましょう、ファルス。温かい領民たちが待っているわ。人手が足りないから助かるし」


 母さんは背中をそっと支えてくれた。


「第2王女が傷物になったら国際問題だ。急いでくれ、ファルス!」

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