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デイル=ペルギウル

―――デイル=ペルギウル視点―――


俺はデイル=ペルギウル、31歳だ。

俺がオーデンスを授かったのは19歳のころ。

初めての出産はこの村ではなかったが、オーデンスを産んですぐに田舎の村に住もうと考えた。


子供を育てるのに王国都内は非常に便利であり、食料や交通の便には特に困らなかっただろう。

問題は他にあったのだ。

俺ならレイナやオーデンスに不自由な生活をさせることなく、裕福に暮らせて行けるが、問題は以前からある王国都内の不穏な空気である。

そもそも王国都内とは貴族の住処でもあり、貴族ではない俺からしたらあまり良い存在だとは思わなかった。


貴族は平気で国民や下民、奴隷を見下して自分の欲望のためなら秘密裏に部下を動かせて女や子供を奪う。

そして当然家柄が良いため金も持っていて非常に厄介な存在だ。

だが、そんなクズな奴らも魔族がいるという噂があればあまり動かなくなる。

魔族というのは人間の敵ではあるが、魔族という言葉には非常に力がある。

貴族が悪さをする雰囲気があればだれかが魔族が来ているという噂を流す。

貴族も噂が全部本当のことだとはさすがに思っていないだろうけど、噂の真偽を確かめる術はない。

魔族をあまり見たことがない俺からしたらありがたい抑止力となっている。


だが、そんな貴族よりも不穏なのが英雄養成学校だ。

国民は英雄養成学校から生まれる卒業生から英雄がでてくることを期待している。

たしかに、英雄養成学校の卒業者は戦いの猛者だ。

簡単には卒業できず、卒業する前に死んでしまう人もいると聞く。

たしかに凄い、そんな奴らが魔族と戦ってくれるのだ、頼もしいと思った。


だが何かがおかしかった。

俺はその時までは卒業者の顔を見たことはあまりなかったが、昨日初めて見たやつらに顔はなにか機械的なものを感じ取った。

たったそれだけで俺は不気味に感じてしまった。

たったそれだけのはずなのに、俺は直感的にここに居てはいけないと思えてしまった。

俺の勘は当たるのだ。

それにオーデンスをここで育ててしまえば、憧れの的である英雄養成学校に行きたいと言いかねない。


「オーデンス…」


俺は家でオーデンスの面倒を見ていた。

オーデンスはとても可愛かった。

今まで子供はあまり好きではなかったのだが、自分の子供となるとここまで愛せるようになるものなのか…。

俺は守らなければいけないと切実に思った。


「レイナ」


「なに?デイル」


「俺らここからもっとも離れた村で住まないか?」


俺は妻であるレイナにそう伝えた。

せっかくこんなに幸せそうなレイナを悲しませたくなかったが…


「…どうして?」


レイナはすこし困惑の表情を浮かべていた。

当然だろう、俺らは今に至るまでは充実した新婚生活を送れていたのだ。

だがなんて言って説得すれば。

なにせ理由などここは何か不穏だという直感でしかないというのに。

けど、レイナ俺の顔を見てな何かを察したように言った


「ま、いいわよ」


「え?」


続いて俺が困惑の色を浮かべた。

そんなあっさり了承していいのか?

俺はこの都内に来てまだ1年くらいだが、レイナは生まれた時からここにいたはずだ。

どうして…。


「えって…、デイルが先に言ったんでしょう?」


レイナはおかしな人ねと言いだしそうな顔で苦笑していた。

確かに俺から言ったがそんな簡単に了承するとは。


「そ、そうなんだけどな…」


どうするべきだろうか。

俺はしっかりとレイナに相談するべきじゃないだろうか…。

何かレイナに無理をさせていないだろうか。


「はあ。あなたについてくと決めたのは私なんだからもっとしゃきっとしてよね」


「わ、わるい…」


ごもっともだ。

俺は父親として今後オーデンスの前で振舞っていけるだろうか…。

心配になってきた。


「あなたの勘は当たるんでしょう?」


「!」


レイナは笑みを浮かべながら言ってきた。

なんだ勘ってわかってたのか。


「まったく、お見通しってわけか」


「ええ、おなたのことは何でもお見通しよ」


「はは、これじゃ悪さなんてできないな…」


「できるわけないでしょ。私が怒るとどうなるか覚えてるでしょう?」


怖い。

レイナは確かにニコニコしているはずなのに!

あんなにいい笑顔のはずなのに!


「はは、確かにあれはもうこりごりだ」


お母さんは怒ると怖い。

それをちゃんとオーデンスに教えとかないと…。


「じゃあ準備しますか」


「ちなみにどこに行くか決まっているの?」


「ああ、俺が昔お世話になった良い村だ。名前はヤルド村だ」


「そう、デイルが言うなら本当にそうなのかもね」


こうして、ヤルド村に行くまでにもいろいろあったが、今では家族でこうして裕福とまではいかなくても幸せに暮らせている。


そして今日も仕事だ。

俺の仕事はこの村の守護者である。

この村はヘラクレス王国の端にある小さな村ということもあり、王国の中で魔物と最も近く狙われやすいという特徴があった。

そのため守護者という役割が村では設けられた。

強いものでないといけないということで、俺は剣術の上級を持っていて、昔になじみがあった人たちも俺を推薦してくれて守護者を任されることになった。


報酬は金貨2枚で、この村ではかなりの好待遇らしい。

金貨2枚もあればしばらくはなにもしないでもやっていけるが、村を守るということは家族を守るということと同義だ。

なので俺は守護者になってからは毎日欠かさず村の外へ出て、何か異変がないかを調査していた。

今日も同じことの繰り返しだ。


「さて、今日もしっかりと調査をして帰るか…」


村が最も狙われやすい場所だとは言っても、毎回魔物が現れるわけでもない。

就任した当初は何度もあったが俺がそいつらを撃退していくうちに現れなくなった。

要は俺の強さに恐れをなしたのだ。


「はは、強さとは時に孤独なものだな」


だが俺は強さという言葉を口にしたあと少しばかりため息を吐いた。


「オーデンスのやつ、今日はちゃんと修行に行っているだろうか…」


俺は最近オーデンスが何か大きなショックを受けて、やる気をなくしてしまっているということに気づいていた。

どうするべきか…。


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