アイリ=ノイルロット
「オーデンス、今日も修行に来ないわけ?」
その少女の名はアイリ=ノイルロットだった。
今最も会いたくない人が来てしまった。
「なんだ、悪いのか?今お腹が痛いから後にしてくれないか?」
僕はその場でとっさに思い付いた嘘を言った。
だが、
「悪いわよ、あとそれ噓でしょどうせ」
長く一緒にいるだけはあるな。
すぐに見破られる。
いや多分本当にお腹が痛くても信じてくれないだろうけど。
「ほう、悪いのか」
「ええ、悪いわ。せっかく英雄養成学校に通えるから張り切って修行しようと思ったのにオーデンス来ないんだもん。とってもつまんないわ!」
そんな理由かよ。
英雄養成学校さん、本当にこんなやつでいいんですか?
今ならまだ間に合いますよ!
「つまんないって…。はあ、いいから今は一人にしてくれ」
アイリといるとなぜか胸の中のモヤモヤが強くなる。
本当にどうしてしまったんだ僕。
「いやよ!一緒に修行するわよ!あと私まだ祝福の言葉もらってないんだけど!まだオーデンスだけには祝ってもらえてないのよ!」
祝福なんてできるわけないだろこんな状態で。
やばい、これ以上近くにいるとどうにかなってしまいそうだ。
「わかったよ…。おめでとう…」
「なによそれ!まったく祝福している人の顔じゃないんだけど!オーデンス、なにかあったのなら言って!」
言えるわけないだろ、お前のことで悩んでるなんて…。
お願いだもうどっか行って、…!?
「ねえオーデンス、なんかあったなら言ってほしいな」
アイリの顔は僕のすぐ近くに来ていた。
近い…、なんかいい香りするし。あれ、なんかすごいドキドキしてる?
と、とにかく早く離れないと!
「ち、近すぎるだろ!別になにもないから離れてくれ!」
俺は少し強い力でアイリを押してしまった。
そしてアイリは地面に座り込んでしまった。
「あ…ごめんアイリ」
アイリの目にはみるみる涙がたまっていた。
罪悪感がすごい。
「もういい!オーデンスなんて知らない!オーデンスが謝るまで話してあげないんだから!」
そしてアイリは走って帰ってしまった。
やってしまった…。
アイリを守れと父さんには言われていたのに…。
逆に傷つけてしまった。
とにかく謝らないと。
でもただ謝ってもまた同じ過ちを繰り返してしまうだろう。
謝るよりも今はモヤモヤの正体を突き止めないと。
そしてまた一人で考え事を始めた。
ただ一向に答えは出ず、ただ時間が過ぎていった。
そこでまた誰かが僕の目の前に来た。
「よう、オーデンス」
「あ、農家のおじさん」
そう農家のおじさんであった。
ここの周辺は畑だらけであり、ほとんどがおじさんの畑だったのだ。
「どうしたんだ?こんなところで一人でいて」
「別に、ただ考え事をしていただけ」
「どうせまたアイリと喧嘩でもしたんだろ?」
どうせとはなんだ、どうせとは。
まあ間違ってはないんだけど。
僕は農家のおじさんは嫌いではなかった。
むしろ好きの部類には入るだろう。
こうしてアイリと喧嘩をしてはここにきて不貞腐れて、そのたびに農家のおじさんが話を聞いてくれていた。
とても話しやすい存在だ。
「ま、そんなとこ」
「まったく、いつも懲りねーなお前らは。アイリはもうすぐ旅立つんだろ、最後は仲良くして送ってやればいいじゃねーか」
「わかってるよ。今回は僕が全面的に悪い」
「おお、やけに素直じゃねーか今日は」
「うっせ」
僕らはこんな感じでなんでもない出来事を語り合った。
近所の子供たちが最近悪さしてるからお灸をすえてやったとか、おいしい果物が収穫できたから今度やるよとかだ。ほんとうに他愛もない会話である。だけど僕はそれが心地良くも感じていた。
「そういえばアイリの入学祝いパーティはいつやるんだろうな」
え、?
「入学祝いパーティってもうやったんじゃないの…?」
「いーや、やってねーよ。なんでかはわかんないがアイリがまだやりたくないと言い張っているらしい」
どういうことだ。
あの日アイリの父さんは今日やるって言ってたじゃないか。
そういえば、あの日からもう何日たっている…?
3、4…、5、もう5日だ。
いつの間にかもうそれくらい経っていた。
「なんで…」
「俺の考えはこうだ。お前らが喧嘩してアイリはお前からの謝罪を待っているんじゃないか?」
「そうなのかな…」
ありえる。
あの頑固なアイリなら。
あの日あんな別れ方をしてしまったんだ。
それでこじらせてしまったに違いない。
あいつ…、俺が謝罪しないとパーティをする気も王国都内に行くつもりもないわけじゃないよな…。
「オーデンス、お前本当にそれでいいのか?このままで後悔しないか?」
「後悔は…すると思う」
だけど、このモヤモヤの正体がわからないとまた同じことを繰り返してしまう。
「はあ、まあお前のことだ。謝りたいとは思っているがなかなか行動に移せないんだろ」
この農家のおじさんナニモンだ。
さっきから僕の心の中見透かされているのか?これが経験の差というものなのか…。
「まったく…、農家のおじさんには敵わないね」
「はは、当然だ。なめてもらっては困る」
「あとな、オーデンス…」
「ん?」
「何かを守るときは、守らなきゃじゃない、守りたいと思うことが1番力を発揮できるんだ」
な、なんで急にそんなこと…?
「急に何言って…」
「じゃあな。俺は他に予定があるからもう行く。さっきの言葉ちゃんと肝に銘じとけよ」
おじさんは僕の質問に答えてくれず、立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってよ!どういうことか教えてよ!」
おじさんは僕の子のモヤモヤの正体に気が付いているんじゃないのか?
そう思わずにはいられなかった。
「その答えはお前自身が見るけるべきだ。今日もありがとな、楽しかったぜ」
そして立ち去ってしまった。
僕は追いかけることもできたがなんとなくこれは自分自身で答えを見つけないといけないような気がした。
だから考えた。
だけど答えは見つからなかった。
「あーあ、やっぱり追いかけるべきだったかな」
そう思い至り追いかけなかったことに後悔した。
もう空は夕焼け色だ…。
「もうこんな時間か…」
今日は帰ろう、そうして帰路につくのであった。
こうして僕が悩んでパーティや都内にいくのが遅れても申し訳ない。
ここは一旦謝ってちゃんとパーティにも参加するべきだ。
俺個人の理由で多く人を困らせてしまうのはいけない。
村の皆は言わないが、心の中ではアイリの祝福パーティをしたいはずだ。
そうだな、早いほうがいい、今からでもアイリの家に行って謝りに行こう。そう思い、進行方向を変えてアイリの家の方向へ向かった。
この頃は知らなかった。まさかこの先で悲劇の事件が起きようとしていることを…。