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活力を失った日

「今日はとても気持ちがいい天気だ」


ここはヘラクレス王国という国の端にある小さな村。

各々が自分の役割を果たすために日々汗水を流しているとても活気あふれた村だ。

そんな活気あふれた村で、必死に働いている人たちを見ながら少しばかり大きい木の下で気持ちよく寝ている少年がいた。


その名はオーデンス=ペルギウル、12歳である。


活気づいている村、嫁のために汗水流して働いているおじさんたち、旦那が帰ったときに最高のご馳走をしようと試行錯誤しているおばさんたち、そしてその仕事を将来受け継ぐために学んでいる子供たち。

それを暑すぎず涼しすぎずの最高に気持ちのいい気温の木の下で眺める。


ああ、神様は僕にこんな素晴らしいものを授けてくれるなんて一体なにを考えているのだろうか。そうかーー


「やっとわかったよ。これが僕に与えられた役割なんだね…」


と、人々の明日を生きるために頑張る姿を目に焼き付けながら再び眠りにつこうとした。

そこで誰かがこちらに近づいてくる音がした。


「俺はそんな役割を与えた覚えはないぞ」


その人はデイル=ペルギウル、僕の父さんだ。


「父さん、違いますよ。僕は神様に与えられたんですよ。神様は僕にここで怠けていることを許してくれたんです」


「いやいや神様が許しても俺が許さないぞ。神様は先ほどこう申していた。私はオーデンスに試練を与えた。このままあそこで寝て過ごすならいずれ天罰が来るだろうなってな」


「ほほう、父さんにも神様のお告げが来てたとは。よしわかりました、その天罰甘んじて受けましょう。なのであと1時間はここで寝させてもらいます!」


先ほど閉じかけたまぶたを再び閉じようとしたときだった…。


「おいおい、本当に知らねえぞ?母さんがさっき怖い顔しながらお前のことを探していたぞ」


「え…」


それは絶望的な言葉だった。

母さんが怖い顔しながら僕を探しているだって?

それ絶対僕が何か悪いことしたじゃないか…。

神様のお告げとかそんなしょうもないこと言っている場合じゃない、今から自分の人生の危機に立ち向かわないと!いや、もしかしてこれが神様からの天罰なのか?


「どどどどどどうすれば…!?」


「こっちに来て仕事手伝え。そしたら後でフォローしといてやる」


「大好きー、父さん!」


やっぱり僕の神様は父さんただ一人だ。

そして父さんの仕事が終わり、その後はしっかり母さんに怒られた。

ちなみに母さんの名前はレイナ=ペルギウル。

なんとお掃除をすっぽかしたことについて怒っていたらしい。

まったく…、お掃除を忘れるなんて僕もかわいいところがあるじゃないか。

まあ、ただサボっただけなんだけどね。


「まったく、目を離したらすぐどこか行っちゃうんだから」


「まあまあ母さん、忘れただけなんだから今日はこれくらいで勘弁してやれよ」


「まあ、ちゃんと仕事を手伝っていたわけですし、今日はこれくらいにしましょう」


父さんナイス!そして最後はこの1手だ。


「母さん、ごめんなさい。もう同じことはしないように努これから頑張っていきます」


「はい、ミスは誰にでもあります。反省することが大事です。オーデンスは今それができた。とてもえらいわ!」


ふっ、相変わらず怒るのは怖いけど健気な姿勢にはちょろいぜ。


「うん!母さん大好きー!」


「やっぱり可愛いわ、うちのオーデンスは!」


こうして今日も1日が終わるのだった。

そして朝になればいつも通りの日常がやってくる。

父さんと母さんは生きていくために自分の役割を全うする。


俺は今日も修行と噓をつき昨日と同じところでぼんやると考え事をしていた、もちろん自分の将来についてだ。

この世界には英雄養成学校というものがある。

その学校で魔族を倒す術と力を身に着け、世界の平穏を守るための未来の英雄を養成するところだ。

俺はその英雄養成学校に興味があった。

しかし、魔族を滅ぼして世界を救おうなんてそんなたいそうなことは考えてない。

そんなのは他のもっとふさわしいやつにやらせればいいのだ。


俺には幼馴染であるアイリを守るという使命がある。

だが今のその使命も、もはや必要ないのかもしれない。

なぜならアイリはもうすぐここからいなくなるからだ。

俺が修行をサボってこう怠けているのもあの日がきっかけだった。


数日前にアイリの家に一つの手紙が届いたのだ。


「あれ、家に手紙が届いてるなんて珍しいな。…!?」


その時僕はアイリと一緒に修行をしていた。

アイリに悪いものが近づいてきても守れるように。

そんな時にアイリのお父さんは家に届いた手紙の内容を見て唖然していた。


「これは、ヘラクレス王国英雄養成学校からの招待だ!アイリやったな!」


英雄養成学校からの招待とはつまり、特待生で入学することができ、授業料と入学料が免除されるということだ。

この田舎な村で特待生としての招待が来るなんて史上初の出来事であった。


「え、父さんそれ本当!?」


「ああ、よかったな!今までの努力が報われたんだ!」


「……う、うええええん!よかった、よかったよお…」


「…」


僕は祝福の言葉を言えずに固まったままで、心はここにあらずだった。


「(ということは、アイリはこの村からいなくなってしまうということか…)」


僕はアイリがこの村からいなくなってしまうのは嫌だった。

アイリが英雄養成学校に行き反対するものは僕くらいだろう。

僕は今までアイリを守るという使命のために修行をしてきたのに、これじゃああんまりじゃないか…。


「オーデンス、父さん、私頑張るから!村のみんなが誇らしいと思えるような英雄になるから!」


「ああ…」


僕の言葉は徐々に力を失っていた。


「よし、こうしてはいられない!今から村中の皆に報告だー!」


「ええ!?父さんそれは急すぎてまだ心の準備が…」


「いや、早いほうがいい。ヘラクレス王国の都内には早く馴染んだ方がいいはずだ」


「そ、そっか…。そうだよね、私早くあっちのお友だちがたっくさんほしい!!」


「そうだよな。父さんはアイリと離れ離れになるのは寂しいが、特待生ということは英雄になれる素質を持っていると認められたということだ。こんなところで縛るなんてできん!」


「アイリ!今日は村中でパーティーだ!きっと皆大喜びだぞ!」


「うん!私も寂しいけど、村の皆を守れるように強くなるから!」


「ああ!さすが俺の娘だ!わはははは!」


「はは…」


僕はつられて笑おうとしたが、全く笑えていないことに気づいていた。

なんだろ、喜ばしいことなのに全く心から喜べない。嬉しくない…。


「オーデンス、どうかしたの?」


「え?」


「なんか無理…してる?」


僕はバレていないつもりだったが、アイリにはバレていたようだ。なんでこういう時に鋭いんだ。


「べ、別に無理なんかしてない!」


「よし、今日はもう疲れたから帰るよ」


「え…パーティーは?」


「ごめん、行けそうにないかも」


そして僕はアイリに後ろから呼び止められたが振り返らず、その場を去った。

それからはというもの、アイリの家へ向かう気力をなくし、修行と嘘ついてはここで寝ていた。

もうなにもかもどうでもよくなってしまったのだ…。


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