プロローグ
この世界は争いに満ちていた。
それは人間と魔族との戦い。
自分の大切な人を守りたいもの、富を求めるもの、魔族に対して恨みがあるもの。
理由は人それぞれだ。
誰であれ自分の幸福は奪われたくないのだ。
だから戦う、理由はそんな簡単なものだ。
だがどうだろう。
魔族との戦いで人間が勝ったとしてそのあとはどうする?
次は魔族の国に乗り込み国を亡ぼすのか。
なんのために?
人間たちに復讐をしようとするものを消すためだろう。
それはつまりまだ罪のない子供を虐殺するということになる。
仮に人間が幸せに生きるために子供を虐殺して十字架を背負ったとしよう。
それで果たして争いは消えるのだろうか。
次の敵はだれだ?
それはきっと今まで切磋琢磨して一つの夢のために一致団結してきた仲間たちであろう。
なぜなら人間の共通の敵である魔族がいなくなったとき、敵は身近にいる人間しかいなくなってしまうからだ。
利権争い、領土抗争、功績の奪い合い、人間という生物は本能的に争いを好み、争いなしでは生きていけないのだろう。
「ああ、この世界に希望なんてなかったのだ…」
薄暗い空の下、地上には何万もの人と魔族の死体が転がっていて、血を何百時間も浴び続けた男がそこで立っていた。
気づいてしまった。
気づきたくなかった。
こんなことに気づかなければ、今まで通り人間らしく、馬鹿みたいに生きて行けたのに。
気づいてしまった以上、今まで通りに戦うことはできない。
「このままどこかの田舎でこっそりと一人で暮らしてみるのもありかもな」
なんて、そんなことはできないなんて最初からわかっている。
言ってみただけさ。
さて、どうしたものか。
やはりあいつに言う通りにするしかないのかもな。
確かに理解できる、とても理にかなっている。その真実にさえ気づかなければ魔族の国、人間の国は平和が訪れるだろう。
だが、その真実に気づいてしまった人がいてしまったら、人々は絶望するだろう…。我々はその真実を隠蔽しなければならない。
人々を騙し続けないといけない。
「まったく、骨が折れそうだな…」
まさかこの俺と、最大の敵であった魔王が世界の平和について語り合い、協力することになるとはな。
世の中予想がつかないことばかりで本当に恐ろしいよ。
…よし、決心はついた。
「俺はお前と契約するぜ。世界の平和のために世界を騙す覚悟はついた」
絶対に裏切るんじゃねぇぞ…。