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4.遭遇 ★

挿絵ありますので、見ない方は非表示の設定をお願いします。

 

 ――つめたい――。


 ひんやりとした空気に包まれた私は、ぼんやりと辺りを見回す。


 草木、鳥、雲、空……そらの瞳――?


「――……っ……!」


 ようやく視点が合い、目に飛び込んできたのは透き通る空のようなクリアブルーの瞳だった。


「気付いたか」


 まだ意識がぼんやりとしていて状況が理解出来ていない。


「――あ……」


 言葉を発しようとした時、自分の中にある違和感に気付いた。


 何、この(ちから)……。まさか――!


「すまないが――」


 自己の世界に浸っていると、また声がして、ハッとする。


 そうだ……ここは森で、私は実験中で、失敗して、魔力が暴走して、気を失って――今、目の前に――人……っ!?


「も、申し訳ありません……っ!! お怪我は?」

「いや」


 慌てて起き上がろうとしたが、何かに阻まれ動けない。


 ――う、腕……!?


 私はようやく目の前の青年に抱きかかえられている事に気付いた。しゃがんだ青年に上半身を支えられている。

 濃紺の前髪がクリアブルーの瞳の前で小さく揺れている。



挿絵(By みてみん)



「あの。助けて頂きありがとうございました……。もう大丈夫ですから――は、離して頂きたく――」


 青年は抱きかかえた腕の力を緩めない。男性に抱き締めらるという慣れない状況に鼓動が速くなる。


「すまないが、この魔術陣は貴方が……?」


 私と彼は、二人の足元に広がる魔術陣を見下ろした。もう全て起動した後だろう。緑色の砕け散った宝石が視界に入った。


「はい……そうです。起動し終えた後ですが……」

「それなら大丈夫か。もしまた魔術陣(これ)が発動して同じ事が起こるといけないからと……。嫌な思いをさせてすまない」


 青年は魔術陣が発動してしまうことを警戒し移動出来なかったと言う。

 彼は少し目を伏せてゆっくりと力を緩めると体を離した。


「い、嫌な思いなど……! お気遣い、心より感謝しております……!」


 口早に伝えると、すぐに起き上がる。恥ずかしさから一刻も早く立ち去ろうとするも、目眩を起こしてふらついてしまった。

 自分の体の中にある()()に慣れない。


 ――っ!


 倒れる前に、青年が支え、再び胸に飛び込む形になってしまった。


 ――うぅ……何度も何度も恥ずかしい……。


「た、度々申し訳ありませんっ! ありがとうございました……」


 ――顔が熱い。


 バッと体を離し、赤くなった顔を見られたくなく俯いたまま答えたのに、クリアブルーの瞳が覗いてきた。


「無理はしないで」


 私の顔を覗き込だ表情は心配しているそれだったが、冷静な青年の対応に余計に恥ずかしさが増していく。


 早く戻りたい――!


 これ以上醜態を晒したくない思いでいっぱいになり、辛うじて感謝の意を伝えると、砕けた宝石の欠片をひとつ拾い上げ、逃げる様に彼から走り去った。



 直ぐに、この行為に後悔することとなる――。






 研究室に戻るという一心でいたので、走っていた事すら気が付かなかった。学園を目前にだいぶ息が上がってしまい、木陰に座り込み息を整える。


 やってしまった……。


 ふと、冷静になると様々な事が浮かび上がる。

 即興で術式を変えてしまった事、それによる魔力の暴走に対応出来なかった事。そして、青年への対応――。


 ――そういえば、どうしてあの場所にいらしたのかしら……。


 あの森は人払いの申請をしていた筈。学園に届くほど魔力が暴走したのだろうかと考えたけれど、学園内の異変に単独では行動はしないだろうと考えを改める。不測の事態に対応出来るように複数で行動するだろう。


 確か、青年は騎士団の制服を着ていた。上着の腕の模様に見覚えがあった。お兄様も着ていたから覚えている。きっと騎士団の方だろう。


 ――腕……。


 離れない腕を思い出し、再び顔が熱くなるのを感じた。

 異性に抱き抱えられる事なんて初めてだった。お兄様もその様な事はしないから――。

 あの場を離れる事しか考えていなかったけれど、自分自身の名前すら名乗らず、満足な感謝も伝えていない、更には相手の名前さえわからない。

 私はとても失礼な対応をしてしまったのだ。


「――会わないと……」


 まずは会って謝罪がしたい。

 あのまま倒れていたらどうなっていたのかわからないと考えると、彼は命の恩人かもしれないのだから。

 そして、実験の顛末すら自分自身でわからないなんて、研究員としてもひどすぎる。

 謝罪と実験中の事を聞かなければいけない。彼が、いつから何故あの場所にいたのかすら謎のままだ。魔術の発動を気にしていたが、何か見たのだろうか。


 よし! 決めたわ。彼を見つける!


 私は決意をした。わからない事だらけではどうしようもないので、まずはあの青年に会う。きっと、研究の為になる有益な情報を持っているに違いない。

 今からあの場所へ戻っても彼が留まっているとは考えにくいので、日を改めて探すしかない。



 私は起き上がり、再び学園を目指して歩きだした。


ようやく彼が出て来ましたが少しだけで、名前すら出て来ない不憫な子になってしまいました。

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20210919 挿絵追加しました。


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