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8.ビドテーノ領地・ターディ

 翌日、メネセリークに別れを告げ、レイリアナ達はジョカリタ()が幽閉されいるビドテーノ家の別荘があるターディの街まで向かった。ビドテーノ侯爵邸から別荘地(ターディ)まではそこまで遠くはなく、馬車で1時間も掛からずに到着した。

 ビドテーノ家の別荘は丘の上にそびえ立ち、ターディの街とその後方にある鉱山山脈が一望できる。


 別荘に到着すると、その屋敷の執事長(ハウススチュワート)が大勢の使用人と共に出迎えた。


「お久しぶりでございます。イオディアムぼっちゃま。ますます大旦那様の若かりし頃に似ていらっしゃいましたな。わたくしは嬉しく思います」

「私に挨拶はいい。あと、ぼっちゃまは余計だって……」


 白髪交じりの好々爺たる執事長が、目を細め嬉しそうにイオディアムに言葉を掛けた。イオディアムは未だに子供か孫の様な扱いをしてくる執事長に、苦笑いを浮かべながら長い前髪をかき上げた。


 ――仲が良さそうね。


 その光景を見て、レイリアナはクスクスと笑みを零した。

 イオディアムは小さく咳払いをし、気を取り直してレイリアナ達を執事長に紹介する。


「こちらが第2王子殿下と私の主のサクリフォス公女様だ。すぐに案内して欲しい」

「――仰せつかりました」


 執事長はレイリアナとシエルラキスに向かい柔らかく微笑み、早速邸宅内へと案内をした。






「レイリアナ様。イオディアム卿をしばらくお借りしてもよろしいでしょうか」


 レイリアナが案内された客室に、エアラムザが声を掛けた。

 彼女の護衛であるイオディアムは客室に案内したあと、そのまま客室に留まり、ビドテーノ家の使用人に指示を出していた。


「はい。もうだいぶ片付きましたので、わたくしとヴァシーリだけで構いません」

「ありがとうございます。その間は、私が部屋の外に控えていますから、何かあったら仰って下さい。ヴァシーリも中にいるから大丈夫だとは思いますが、念のため」


 エアラムザはにこにこと微笑みながら早口で伝えると、早々にイオディアムを客室の外へ連れ出してしまった。


 ――シエル様だわ……。


 残されたレイリアナは、ほんの少しだけ不満げな表情を見せた。これまでシエルラキスが作戦や計画を練る時にはレイリアナを同席していたが、今は呼ばれなかったせいだ。


 ――わたくしとジョカリタのせいで、皆神経質になっているのかもしれない。わたくしを心配させない為に、またわたくしのいない所で……。


 レイリアナがソファに座り、俯いたまま考えていると、目の前のローテーブルにコトリと鉱石が置かれた。


「――ヴァシーリ?」

「レイリアナ。ビドテーノ侯爵から頂いた鉱石の検証をしよう? なかなか珍しい物もあったよね」


 涼しげにそう言うと、ヴァシーリはレイリアナの隣に座った。ポンポンとレイリアナの肩を軽く叩く。

 レイリアナが顔を上げると、切れ長な綺麗な瞳のヴァシーリが微笑んでいた。


 ――この綺麗な笑顔に何度救われただろう……。


 そこにいるのは【護衛騎士】ではなく【研究者】のヴァシーリだ。元気のないレイリアナを気遣っている事が、レイリアナにも伝わる。


「そうですね」


 小さく微笑みを返したレイリアナは、テーブルに置かれた鉱石を手に取った。ヴァシーリも鉱石の効用の書かれた書物を手にしながら、レイリアナとは違う鉱石を拾い上げ、比較していく。


 ――後でシエル様に直接聞いてみよう。


 レイリアナはふっと呼吸を整え、笑顔を作り、目の前の鉱石に集中する事にした。






「執事長。侯爵家へ勤めて長いと聞いたが」


 夜の食事はイオディアムが主催となり、晩餐会場へとレイリアナ達は案内された。現在、このターディの邸宅には主がいないので、イオディアムが食事の時間だけ護衛の任を解かれ、ビドテーノ家人としてレイリアナとシエルラキスの食事に同席する事になった。


 食事が終わる頃、食後の飲み物を持ってきた執事長にシエルラキスが問いかけた。


「はい。当家は代々ビドテーノ家に仕えております。わたくしも生まれた時からビドテーノ家で過ごしておりまして、先々代――イオディアム様のお爺様の代に本邸の執事長をしておりました。ですので、メネセリーク様やイオディアム様が赤子の時から知っておりますよ」


 後ろにぴっちりと流した白髪交じりの髪と体格の良さで、一見怖そうに見えるが、目尻に皺を作りながら、懐かしむ様に執事長は微笑んだ。


「イオディアム様は幼少の頃から、それはそれは活発でしたねぇ。直ぐにどこかへ隠れてしまうのでこちらも探すのが大変でした」

「俺の話はいいから……」

「大切にされていたのですね」


 レイリアナがそう言うと、イオディアムが前髪を掻き分けながら、恥ずかしそうにばつの悪い顔をしながら溜息をついた。

 微笑ましそうにレイリアナがくすくす笑っていると、隣にいるシエルラキスが、再び口を開いた。


執事長(スチュワート)、単刀直入に聞こう。()()()()()()()()()()使用人で今回の件に関わっていそうな人物を教えて欲しい」

「新しく入った使用人ですか……」


 執事長は顎に手を当て、ふぅむと考える仕草をした。


「ああ。誰かが侵入するとなれば、事件後だろうからな。今すぐでなくていい。今夜中にイオディアムに伝えてくれないか」

「了解致しました」


 それから間もなく晩餐はお開きとなった。






「シエル様。少しお話したいのですが……」


 食事の後、自身の客室に戻ろうとしたシエルラキスにレイリアナが声を掛けた。

 彼女から声を掛けられると思っていなかったシエルラキスは、一瞬驚いた表情を作るが、直ぐに目を細め、レイリアナの髪を撫でた。


「いいよ。おいで」


 自身の客室の扉を開け、入室を促した。


「先程、イオディアムを呼び出していた件なのですが……。私には知られたくない事だったのでしょうか……」


 部屋のソファに掛けると、レイリアナは早速要件を述べた。

 それに対して、シエルラキスは少し困った顔をして微笑み、彼女の手を取った。


「知られたくないという訳ではないよ。イオディアムに確認したい事があったから、わざわざ貴方に来てもらう程ではなかったんだよ。それと、ビドテーノ家に関する調べものを頼んだんだ。食事の時にここの執事長に頼んだ様な内容だからね。――気にしていたのか……」

「――実は、3人だけで幽閉場所へ行っているのかと……。ジョカリタとわたくしの件で皆神経質になっていて同行させてもらえないのかと思いました。神経質になっていたのはわたくしの方だったんですね……」


 彼女は少し俯くと、自身の狭量さを恥じた。


「いや、聞いてくれてありがとう。悶々とされるよりはよかったな。貴方に隠し事をすると後が大変だからね」

「シエル様……っ!?」


 何も知らされなかった挙句に勝手に暴走されたら困るとシエルラキスは笑った。


「丁度良い、ビドテーノ前侯爵等(彼等)の件だけど――」




 ――――ガシャ……ンーーーーッ!!!!



「ギャーーーーー!!!!」





 シエルラキスがレイリアナに告げようとしたその時、何かが壊れる音と叫び声が、邸宅に響き渡った。


「な、シエル様っ!?」

「ラムザ!!」


 シエルラキスは客室の外に控えていたエアラムザを呼びつけると同時に、彼とレイリアナの護衛の2人が部屋に飛び込んできた。


「殿下! 叫び声は幽閉区域からです」


 合流したイオディアムが短く報告をする。


「イオディアムは屋敷の使用人達の人払いを。ヴァシーリはレイリアナを頼む。ラムザは私と――」


 シエルラキスは素早く指示を出し、イオディアムは直ぐに部屋を離れた。


「まずい。これ程直ぐに行動に出るとは……」


 眉間に皺が寄せ、シエルラキスは苦々しく呟いた。

 そして、シエルラキスはエアラムザを従えて、物音のした方向へと早々に走り出した。


「わたくしも行きます!」

「レイリアナ様――!」


 一拍遅れてレイリアナがシエルラキスの背中を追い掛ける。ヴァシーリもレイリアナに追従した。


お待たせしました。物語がようやく動き出します。

イオディアムはいろいろなところで可愛がられるタイプですね。

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