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3.魔法制御訓練

 

「……癒しを……!!」



 レイリアナはシエルラキス講師の指導で、魔法制御訓練を行っていた。


「ああ、良くなってきましたね」


 監視兼、被検体のヴァシーリが目を細めて微笑むと、レイリアナはふぅと一息ついた。

 ヴァシーリは庭園の中の東屋へ移動し、休憩を促した。


「放出量の調節がこんなに難しいと思っていませんでした……」

「レイリアナ様の場合は例外ですね。魔力放出の間口が大きい分、調整も難しいでしょうから」


 レイリアナの魔法の放出量もまた上限が分からない程膨大だ。


「シエルラキス様。だいぶ出来るようになりました!」

「お疲れ、レイリアナ」


 エアラムザとイオディアムの訓練を見ていたシエルラキスは、一段落ついたらしく、庭園の広場から戻ってきた。

 レイリアナを労る声を掛けると、額に軽くキスを落とした。シエルラキスはそのまま隣へ座り、レイリアナの魔力を回復させる為に腰へ手を回した。


 ――ち、近い。


 訓練の終わった護衛の2人も何やら楽しそうに話しながら戻ってくる。手合わせをしている内にだいぶ打ち解けたようだった。


「エアラムザは歳のわりに実戦慣れし過ぎだよ。特に魔法と剣術の使いどころが良いね」

「赤の学園に入る前から、シエルラキス殿下と魔獣狩りに明け暮れて、正式な騎士になる前からひたすら戦地へ行ってますからねー」

「……マジかよ。そんなに駆り出されるの? 殿下の側近……」

「あはは。大丈夫ですよー。殿下はもうそんな事しないと思いますし」


 エアラムザはニコニコと笑いながらレイリアナに視線を移した。


 ――彼女がいる限り、シエルも無理はしないだろうな。あれはあれで楽しかったんだけどね……。


 2人も休憩として、レイリアナ達のいる東屋のベンチに腰を下ろすも、話は止まらなかった。


「イオディアム卿こそかなり強いですよね。でも、手加減とかいらないですよ?」

「――気付いたのか……」

「相手の勢いを使うのが上手いので、実力が計りにくいですけどねー。殿下にもバレてますよ。きっと」

「あ……」


 エアラムザがシエルラキスを覗き込むようにそう言うと、イオディアムは焦ったように顔を強張らせた。

 シエルラキスは小さく息をつき、イオディアムを見遣った。


「そうだな。まあ、自分の力でも他人の力でも上手く使えればいいさ」

「――はい!」

「イオディアムの実力は相当だな。騎士団では小隊を任されていたのだろう? 周りの状況を読むのも上手い。流石にラフタラーナ王妃陛下が選んだだけある」

「ありがとうございます。殿下」


 氷の騎士としての活躍を騎士団で聞かされていたイオディアムは、レイリアナの護衛になるまでシエルラキスに対して畏敬の念を抱いていた。

 しかし、実際に話してみると全く印象が変わっていた。


 ――こんなに柔らかい雰囲気の方だとは思ってなかったな。


「ただ、護衛の際に手抜きはいらない。――わかっているな」

「はい……!」


 シエルラキスは釘を刺すのを忘れなかった。


 ――やっぱ、前言撤回……。


「イオディアム様。やはり騎士団と護衛騎士ではだいぶ勝手が違いますよね。不便はありませんか?」


 レイリアナがイオディアムに向き、目を細めながら尋ねる。


「不便などありません! 違いでいえば……そうですね。騎士団はこの国を守る者ですから、守備範囲が広いです。でも、護衛は護衛対象のみなので、守りに集中できます。他の公務も、兄の領地経営の手伝いをしていた時の経験が役立っていますから」

「それならば良いのです」


 シエルラキスの発言に、少し緊張した面持ちのイオディアムだったが、レイリアナと話をしてその緊張も和らいだようだった。少し涼し気な風が吹き、銀色の髪がサラサラと光を弾きながらなびく。

 イオディアムはそのままレイリアナから視線を逸らさない。




「――恐れながら、殿下。私もイオディアム卿と手合わせしてもよろしいでしょうか」


 話を聞いていたヴァシーリが神妙な顔つきで名乗りを挙げた。


「それは構わないが、イオディアムは良いか?」

「殿下にお任せ致します」


 シエルラキスがヴァシーリの提案を受け入れると、イオディアムは右手を胸に当て軽く礼をする。そして、顔を上げると視線をヴァシーリに向けた。


「トゥルマリー嬢。初めての手合わせですね。よろしくお願いします」


 普段は青の学園へいるヴァシーリとイオディアムがお互いに訓練をすることはなかった。イオディアムは普段、以前に所属していた騎士団と混ざって訓練している。


「イオディアム卿。私のことはヴァシーリで構いません。これからレイリアナ様を共に守る為、私の実力を知っていて欲しいのです」

「わかった」


 ヴァシーリは少し俯きながら話を続ける。


「私はエアラムザやイオディアム卿のように威力のある魔法を使えません……。しかも、研究員との兼務です。これからはイオディアム卿が中心になってレイリアナ様の護衛を行って頂きたいのです」

「……いいのか?」

「はい。レイリアナ様の為に働けるのならば、私はどのような立ち位置でも構いません」


ヴァシーリの言葉に驚いたのはレイリアナだった。ヴァシーリが自身の魔力の少なさの為に研究員になった事は聞いていたが、どの様な立場でも側で仕えたいとは初耳だったのだ。


 ――ヴァシーリがこんなにも私の事を考えていてくれたなんて……。


「イオディアム卿は騎士団でも小隊長とし立ち回っていたのですから、妥当かと。恥ずかしながら、私は騎士としての経験が浅いので……。それを踏まえた上で、私がどの程度使えるのか測って欲しいと思っております」

「……わかったよ。殿下、公女様。ヴァシーリをお借りします」


 イオディアムがそう告げると、シエルラキスは小さく頷く。そして、シエルラキスはレイリアナの方へ向くと、ニコッと微笑んだ。


「ああ。その代わり、手合わせ中にレイリアナがヴァシーリに防御魔法を掛ける予定だから、そのつもりで」

「わかりました」

「……いきなり実戦ですか!」


 レイリアナはぐっと手を握った。




「2人共、適当に始めていてくれ」

「はい」


 ヴァシーリが青の学園のローブを脱ぐと、その中は騎士の装いだった。研究員として招かれていても、登城するときは不測の事態に備えていつでも護衛として動けるようにしているのだ。


「素晴らしい忠誠だな。ヴァシーリ」

「イオディアム卿。私にも手加減はいりません」

「そうさせてくれるかは、君次第だな」


 イオディアムが薄く笑いながらそう言い終えると、ヴァシーリが先に仕掛けた。

 彼女は得意の素早い剣技でイオディアムに詰め寄っていく。イオディアムは自身から攻めることなく、全ての攻撃をいなしていった。


 ――久しぶりのヴァシーリの剣技はいつ見てもキレイ!


 レイリアナがヴァシーリに見とれていると、シエルラキスが肩を叩く。


「レイリアナ。見ているだけではいけないよ。早く彼女に防御魔法を掛けてやらないと」

「あ、はい!」


 シエルラキスの言葉にハッとして、レイリアナは自身の目的を思い出す。


 ――まずは、物理防御から……。


「――護りを!」


 レイリアナから発せられた光が、剣を合わせている2人を包んだ。


「……あぁっ……」


 レイリアナは思わず落胆の声をもらした。ヴァシーリだけではなく、イオディアムにも防御魔法が掛かってしまったのだ。


 ――動いている相手だとどうしても広範囲に掛けてしまう……。


「もう一度いきます!」


 次も物理防御を掛けるも、同じ様な結果になってしまった。レイリアナは両手で頭を抱えた。


「……難しい」


 隣で見ていたシエルラキスが肩をぽんぽんと叩き、助言を与えた。


「レイリアナは魔法を掛ける際、効果範囲を()で行う癖がある。()()で考えた方が良い場合があるのがわかるかい?」

「……あ!」


 レイリアナは目から鱗が落ちた気分だった。

 魔術で効果範囲を記述する際も、範囲は次元で考える。0次元の【点】から3次元の【立体】を用い、必ず記載しなくてはいけない術式のひとつだ。


 魔術も魔法も考え方は同じ……!


「シエルラキス様! ありがとうございます!」

「もう一度やってごらん?」


 レイリアナはゆっくりと魔力を込める。淡い光が彼女を包み込み、ゆらゆらと輝いていった。


「……護りを……!」



 ――パアアァァ……!!



 発せられた光が頭上へ飛び出し、上空からヴァシーリ目掛けて降り注いだ。


「!?」


 非常に強い魔法防御魔法がヴァシーリのみに掛かった。その光が余りに強すぎてヴァシーリは一瞬動きを止めた。

 その一瞬の隙に、イオディアムの剣が彼女目掛けて振りかかるが――。



 ――バシ……ッ!!!



「なっ!!!」


 レイリアナが掛けた防御魔法が発動し、その反動でイオディアムは後方へ思い切り吹き飛ばされた。

 レイリアナが驚いて声を上げる。


「イオディアム様!!!」


 イオディアムはバク転をするように地面に手をつき着地しすると、驚いた表情で呟く。


「――あんなに弾かれる物理防御があるのか……」


 そこにいた全員が動きを止めレイリアナを見つめた。


「イオディアム! ヴァシーリ! 2人共、一度止めてくれ」


 シエルラキスは制止の声を掛けると、小さく溜息をついた。


「レイリアナ。効果範囲は合格だよ」

「シエルラキス様のお陰で出来ました!」


 レイリアナがキラキラと満面の笑みを浮かべて喜びを表した。シエルラキスを見つめるレイリアナの淡いピンク色だった瞳は、いつもより赤みがかかっている。


「ただ……魔力の放出量が多すぎる」

「……解決策が見つかって、嬉しくて、つい力んでしまいました……」

「次の課題は放出量の制限だね」

「はい……」


 淡々と課題を見つけその対策を伝えて来るシエルラキスを見て、レイリアナは一瞬怯んだ。


 ――やっぱり、厳しい……!


「ラムザ。レイリアナの訓練は終わりだ。少し休んでから戻る。それまで3人で適当に手合わせしていてくれ」

「わかりました」


 護衛の3人は右手を胸に当て騎士の礼をし、レイリアナとシエルラキスを見送った。






 シエルラキスは遠くで控えていた使用人にお茶の準備をするように言いつけ、2人は再び東屋に戻った。

 すると、シエルラキスはレイリアナを抱き上げ、そのまま椅子に座った。


「し、シエル様っ!?」

「少し魔力を使い過ぎたようだから、補充だよ」

「でも……これは……」


 レイリアナはシエルラキスの膝の上に横に座っている状態だった。お茶が届くまでだからと言って離して貰えない。


 ――これは、恥ずかしいのだけど……!


 シエルラキスはお構いなしという様に、レイリアナを抱きかかえて座ったままで、ぎゅっと抱きしめる。先程大量に消費した分の魔力を補うようにと、シエルラキスはその手に力を込める。


「レイリアナ。君が無事でよかった」

「?」


銀色の髪に顔を埋めながら、シエルラキスが神妙に呟いた。レイリアナは何のことかわからずに、首を傾げる。


「吸収魔法とその()に蝕まれる前に、こうして再び出会えた……」


 先程ヴァシーリが告げたように、レイリアナの魔力を奪っていたのは彼女自身の吸収魔法と魔力を貯める為の器だ。


 ――もし、魔力発生量よりもその消費量の方が多かったとしたら、今ここにレイリーは……。


 シエルラキスは考えただけでゾッとしていた。


「わたくしが今こうして居られるのも、幼い頃、シエルラキス様が隣にいて下さったお陰かもしれませんね」


 ――シエル様に出会えて良かった……。いつも、わたくしの悩みの全てを拭い去ってくれる……。


 レイリアナは目を細め柔らかく微笑んだ。その瞳は元の淡いピンク色に戻りつつある。


「わたくしはシエルラキス様に生かされていたのですね……」

「――それならば、この呪われた体も救われる……」


 シエルラキスはレイリアナの頬に口付けをし、一度離すと今度は唇を奪う。




 お茶が運ばれてくる短い間、2人は永遠のように抱き合った。


少し長くなってしまいました。分けるにも微妙な文字数だったので、ボリュームあったと思います。

第2章もレイリーとシエルはらぶらぶしてます。ただ指導は厳しい殿下です。

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