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閑話.僕の主と忠誠のワケ (エアラムザ視点)

エアラムザ視点です。レイリアナがシエルラキスと森で出会うずっと前。エアラムザとシエルラキスの白の学園生活の一部です。

恋愛ものと言うよりはアクションファンタジー寄りの内容かつ、流血表現がありますので苦手な方はご注意ください。

 

「――さわらないで!!」


 これが、僕がシエルの声を聞いた最初の言葉だった。




 初めてシエルに会ったのは、僕がまだ白の学園2年目の入学式。


 父上から第2王子が入学するから、学園にいる間の護衛をせよと仰せつかった。王からの勅命だと言う。なぜ、伯爵家の次男に第2王子の護衛の話がまわって来たのか今になっては疑問に思うが、当時は大抜擢だと思って大喜びした。

 実際は、護衛と言うよりは彼の監視係だったように思う。


 王子に紹介するからと指定された場所で待っていた僕は、彼から発せされた言葉に呆然とした。

 彼を連れてきた護衛騎士が誤って体に触れようとしたらしい。護衛騎士が平謝りしている。どうやら未遂に終わったようだけど、険悪な空気が流れた。


 ――いきなり拒絶されたかと思った!


「――あの。エアラムザ・スラグディと申します。これから学園でシエルラキス殿下の護衛をさせていただきます……」


 シエルが僕を見ていたのに気が付き、僕は焦って挨拶をし、右手を胸に当て礼をした。


「シエルラキス・ラトゥリーティアです。これからよろしくお願いします。先ほどはびっくりさせて、すみません。――聞いていたと思うけど、私には絶対にさわらないでください……」

「はい。わかりました」


 父からも第2王子の体に触れてはいけないと忠告を受けていた。

 僕が返事をすると、シエルは少し影を落としたような顔で笑った。


 ――機嫌が悪いってわけじゃないんだな。たださわられるのキライなのか? まあ、問題ないか。


 その頃はまだ、素直で柔らかい印象だった。




 僕は忠告通り、彼に触れることなく過ごしていった。

 シエルはほどんど他人に話し掛けず、感情を表に出さなかった。こちらが話せば会話は普通にしてくれるし、嫌がられた事もなかった。

 まあ、()()シエルから話し掛けられる事はあまりなかったけど。


 ただ、第1王子が来ると大体迷惑そうな顔をしていた。ほとんどがシエルを必要以上に構う物だったからかもしれない。

 第1王子は明るくて社交的だけど、ちょっと何をするのか読めない所があった。一緒にいた第1王子の側近は、王子に振り回されて大変そうだ。シエルも同じように第1王子に振り回されてる感じがあった。


 ――同じ王子でもこんなに違うんだな……。


 それでも、第1王子と離れる時は少し寂しそうにするから、多分会うのは嬉しいんだと思う。




 1年が経つ頃にはシエルの性格が何となく掴めてきた。

 シエルは普段、険しい顔をして人を寄せ付けない様にしているけど、彼のテリトリーに入ってしまうと途端に絶対的な信頼を寄せてくる。第1王子がその例だ。まあ、そのテリトリーに入るのが難しいんだろうけど。


 シエルが3年生になってしばらく、何だかソワソワしていたのは誰かを探していたのだろうか。結局何も無く終わったのだけど。第1王子も白の学園を卒業してしまって、少し寂しくなったのか、僕に懐いてきた。しかも、軽口をたたく様にさえなってきた。あの素直で可愛かった頃が懐かしい。

 第1王子が卒業した事で、シエルに擦り寄ってくる輩は何人もいた。だけど、全てあしらって僕だけを手元に置いてくれていたのは、かなり自尊心をくすぐられた。本人には内緒だけど。





 僕達は学年が違っていたので、座学は一緒になる事はなかった。シエルが4年になってからは、実技だけは同じ講義を受ける事にした。


「シエルラキス殿下。本日から同じ講義を受けられますね!」

「なんだ。ラムザも一緒だったのか。落第でもした?」

「えー。『なんだ』はないですよー。しかも落第って……ひどいなぁ。殿下と一緒に講義を受けたくて2年連続で同じ講義に参加したんですから」

「そんな事しなくていいのに」


 照れながらも少し嬉しそうに話すシエルに、かなり浮かれた。だけど、その浮かれようは、彼の能力の高さを目前にして姿を消した。

 とある実習で行動を共にし、ようやく彼の桁外れな実力に気付いた。実技や魔法に関しては恐ろしい程の力の差があったのだ。




 それは、講義の実習として郊外の森へ魔獣狩りに行った時だった。シエルに誘われ、予定よりも高位等級の魔獣を探すことになってしまった事があった。

 その時の課題は、【2人以上で協力して5級以上の魔獣を10匹以上狩って素材を調達する】だった。

 ――ちなみに、魔獣の強さを表す等級は最低が5級で数字が減る毎に強くなっていく。1級の更に上には下特級、中特級、上特級がある。特級になると個人で処理する事は難しいとされ、下特級でも数名の隊を率いて殲滅に向かうという。

 ともかく、初めての実地実習用の講義だから、課題は緩めだった。


「ラムザ。ここでは物足りない。もう少し奥地まで付き合って欲しい」

「え? ここでも結構な数の魔獣出てますけど……。ほら、みんな結構苦戦してる……」

「でも、ラムザひとりでも余裕だっただろう?」

「ええ。まあ。そうですけど。僕、一応学年ひとつ上なんで。等級もせいぜい4級ですし……」


 ――理由が()()()()()ってなんだよ……。


「複数で行動しろと言われているけど、ラムザくらいしか奥地には誘えないんだよ」


 その時、初めてシエルから評価をもらった気がした。僕は嬉しくて、ついシエルの提案を受け入れてしまった。


「仕方ないな……。危なくなったら私が前に出てる間に逃げて下さいよ? 殿下を運ぶ事は出来ないので、自分でなんとかして下さいね!」

「ありがとう、ラムザ」




 僕達は森のかなり奥地へと足を運んだ。講師や補助で駆り出された騎士達は、他の学生のケアをしていて全く気付いていなかった。


「だいぶ来たけど、さっきの場所と出てくる魔獣の等級もあんまり変わらないですね。むしろ減ってるような――」



「ラムザ。動かないで――!!」



 先行していたシエルが急に足を止め、叫んだ。僕は驚いて足を止めた。

 シエルは何かを避けるようにその場でダンっと上方に跳び上がった。


「シエル……?」


 状況を把握するより前に、僕の前に氷の壁が一瞬にして張られた。


 ――これ、シエルの魔法防御壁――?



 ――――ドガガガァ……ッ――!!



 目の前に現れたのがシエルの魔法防御だと確認した瞬間、激しい轟音が鳴り響いた。先程まで前方にあった木が一瞬にして切り裂かれ、その場に崩れ落ちた音だった。

 シエルの施した氷の防御壁にもその力が及び、ヒビが入ったかと思うと、崩れ去った。


「な……!」


 僕は何が起きたのか分からなかった。


「ラムザ! 自衛の防御魔法を!!」

「は、はいっ!」


 シエルが地面に降り立つと、僕に素早く命令を出した。僕は言われるままに防御魔法を施した。一体何事だと辺りを見回していると、突然視界が暗くなった――。



『――――ぐがああああああ……っ!!!』



 見た事もない大きさの魔獣がシエルの前に現れた。シエルの身長の3倍以上は余裕である。

 その魔獣は6本の足と狼に似た頭部、細く長い尻尾が3本あった。


「なんだ……こいつ……」


 ――これ、ヤバいやつだ……。講義で習ったこの辺りで出る最高等級魔獣だ……確か、限りなく1級に近い2級……。


 初めて見る高位等級の魔獣に足がすくんだ。


 ――もし、さっきシエルの防御壁がなかったら……。


 初撃の威力を思い出し、僕は血の気が引いていった。シエルが防御をしてくれなければ、自分もあの木々と同じ様にバラバラになっていたかもしれないのだ。


 ――なにが『自分が前に出ている間に逃げて下さい』だ。そんなの無理……。


「シエルっ!! 退こう!!」

「大丈夫! ラムザは自分の防御強化してて。余裕があったら、私に援護魔法を――」

「でもっ!」


 あいつまだ10歳だぞ。無謀だろ……。


 ――ブン……ッ――!!!


 話している途中に、魔獣がシエル目掛けて鋭く光る前足の爪を振りかざしてきた。シエルはひらりと後転してそれを避ける。


 ――話している暇はない。まずは補助魔法を……!


 出来うる限りの魔力を込めて、シエルに補助魔法を施した。

 その間も、魔獣の爪は幾度となくシエルに襲い掛かるけれど、シエルはそれを全て躱すか剣で受け流した。

 遂に、シエルが避け空を切った魔獣の爪が近くの巨木に突き刺さる。


「氷を!!!」


 シエルはその瞬間に魔獣の動きを止めるべく、再び氷魔法を放った。


 ――――バキバキバキッ……!!!


 6本の足元を氷が一気に包み込み、魔獣はその場から動けない状態になった。すぐさまシエルは剣を手に魔獣の懐に飛び込む。


 ――違うっ!!! そいつの一番の武器は前脚じゃない。尻尾だ!! 懐はアイツの間合い……!!


「――風を――っ!!」


 僕は咄嗟に魔獣の背後に攻撃魔法を放った。そのかまいたちの様な魔法は、シエルを突き刺そうと動いていた魔獣の3本の尻尾に当たり、その内の1本を斬り裂いた。ドサッっと長い尻尾が地面に落ちる音が聞こえる。


『――ごぎゃあああああ……ッ!!!!』


「ラムザ!! ありがとう!!!」

「――まだ、尻尾が残ってる!!」


 体の一部を失った魔獣は一瞬怯むも、残りの2本の尻尾の攻撃を止めることはなかった。

 シエルはその一瞬を利用して自身の周りに物理防御魔法を施し、2つの尻尾の攻撃を受け飛ばした。そして剣に魔法を掛け、頭上にある魔獣の喉に突き刺した。


 ――ザシュッ……!!!


 シエルは真っ赤な血飛沫を浴びた。魔獣の傷口から降り注ぐそれは、あまりに大量でシエルが良く見えない。


「シエル!?」


 まるで土砂降りの様な赤い雨からシエルが飛び出してきた。彼が着地した所に、最期の力を振り絞った魔獣の尻尾が、再び彼目掛けて襲いかかる。


「――守りを――!!!」

「――氷を――!!!」


 僕が防御魔法をシエルに掛けると同時に、シエルは攻撃魔法を放っていた。



 ――バキバキバキバキッ!!!!



 先程よりも強大な氷魔法が魔獣を包み込み、全ての活動を停止させた。


「――すごい……」


 2人の前には、氷漬けの魔獣の彫刻が出来上がった。

 シエルはおもむろにその彫刻に近付き、再び懐に入る。そして、剣に炎魔法を纏わせると、魔獣の首筋目掛けて躊躇うことなく一気に振り上げる。


 ――ドスン……ッ――!!!


 魔獣の頭部が落下の衝撃で地面にめり込んだ。シエルは、ソレの生命活動が完全に停止しているのを確認すると、僕に振り向き声を掛けた。


「ラムザ! 大丈夫……だった?」

「――え……? いやいや! それ、僕のセリフだから! あれ、めちゃくちゃヤバいやつなのに……」

「まあ、問題なかったでしょ。それより、ラムザ、援護射撃ありがとう! しかも、補助魔法大量に掛けてくれたの気付いたよ」

「……一応、護衛しないと……」

「さすが私の護衛だね」


 シエルは魔獣の返り血を全身に浴びた姿で悪戯っぽく、ふっと笑った。

 その姿を見て、背中がゾクゾクと震えた。


 ――僕はシエルの――この方の護衛なのか……!!!


 シエルに対する畏怖と尊敬が僕の中で芽生えた瞬間だった。




 素材を回収し始めると、講師と監視役の騎士が数名やってきた。激しい戦闘音がしたので、確認に来たのだろう。

 講師達はその光景を見て唖然としていた。血塗れの王子が、2級のそれも1級に程近い魔獣を捌いているのだ。

 騎士達はシエルの姿を見て顔を青ざめた。


「王子殿下っ! お怪我を……!?」

「――私の血じゃない。コレのだ」


 騎士の慌てようとは打って変わって、冷静なシエルが横たわっている魔獣だったものを一瞥した。


「この魔獣の血……ですか……?」


 話を聞いた騎士は、血の気が引いたように白い顔をした。胴体が完全に切り離された魔獣の顔を見て、何が起きたのを想像したのだろう。


 皆に知って欲しい……僕の主の強さを……!


 騎士達はシエルの無事に安堵するも、目の前に横たわっている魔獣をもう一度確認する。赤の学園を卒業した騎士でも1級の魔獣を仕留められるのは極わずかだ。

 講師も動揺を隠せずにいる。


「君たち……何を?」

「課題は5級以上の魔獣を10匹以上狩って素材を調達するですよね? なので、今素材を回収しています」

「――いや、そうではなく……。2人でこの魔獣を倒したのか……?」

「はい。そうですよ、先生。私達2人で倒しました。これ、講義でやった魔獣ですよね? ちなみに、他の等級の魔獣も数十体倒してるんで課題は完了してますよ」


 シエルが説明していると話が進まなそうだったから、代わりに僕が説明を買って出た。

 その間にもシエルは黙々と魔獣の素材を集めている。あまりに大きい為、残りは捨てると彼が言ったら、やってきた騎士が焦って手伝い始めた。2級の素材は貴重なので、なるべく持ち帰りたいのだろう。


「ラムザ。これの魔獣石。僕は要らないからあげるよ」

「うわぁ……。2級の魔獣石とか超貴重ですよ……」

「――!!!」


 既に、講師は声を出せていなかった。


 この後、他の学生と合流したけれど、皆シエルの血塗れの姿と大量の素材に気圧されて、ほとんど言葉を発しなかった。




「ラムザ。君の卒業後の事なんだけど……」

「どうしました?」


 実習から帰ると、シエルは神妙な面持ちで話し出した。


「前にも話したけど、私は王位継承権を放棄している。それでもいいなら――卒業後でいいから、正式に私の側近にならない?」


 僕は体を震わせた。王子から直々に側近の誘いを受けたのだ。こんなにも嬉しい打診があっていいのだろうか。

 僕は直ぐに、少し不安そうなシエルラキスの足元に跪いた。


「エアラムザ・スラグディがシエルラキス・ラトゥリーティア王子殿下を主とし、忠誠を誓うことをお許しください」

「――主として、エアラムザ・スラグディの忠誠を受け入れる」


 その場で忠誠を誓った僕に、シエルは驚いていた。でも、直ぐに真剣な顔になり、それを受け入れた。

 このままいけばスラグディ伯爵家は兄が継ぐだろうし、何よりもシエルの勇姿を近くで見たいと思っちゃったんだよな。




 正式に側近になった事で、シエルの魔力について聞かされた。あの無茶な魔獣狩りも魔力発散の為だったのだと納得した。常に溢れる魔力を発散させないといけないからと、シエルと僕はひたすら狩りに出掛けた。

 そのお陰で僕の動きもかなり良くなったと思う。


 シエルが赤の学園に入ると騎士候補生にも拘わらず、直ぐに戦地にまで赴く様になった。そこでも、シエルは多大な活躍を見せる。

 それは最近まで続いて、結果『氷の騎士』とまで呼ばれる原因となった。


 まあ、その名前つけたの僕だけどね!!


 皆もっとシエルを――僕の(あるじ)を恐れ褒め称えるといい。

 ただ、魔獣くらいなら良かったけど、戦地へ行く度にシエルの瞳に影が落ちていく事に気付いていた。




 それでも僕はシエルと戦地へ向かう。

 彼の勇姿を間近でこの目に焼き付けるために――。


シエル大好きエアラムザ に至るまでをほんの少しだけ書いてみました。白の学園時代がメインです。からっぽの初期プロットから書いてた話なので、出せて嬉しいです。

レイリアナがほぼ出てこないので、恋愛要素皆無ですが、どうしても入れたかった!


本文もあとがきも少し長くなりましたが、読んでくださったラムザ好きあるいはシエル好きの方!赤の学園の2人のお話もいずれ出せたらなと思います!


(あと、こっそり活動報告にシエルのイメージイラストを載せました。恥ずかしいので気分次第で消すかもしれませんが、気になる方はどうぞ……)

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