表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/50

36.披露宴と初対面

 

 教会前の広場の喧騒を馬車で潜り抜け、レイリアナとシエルラキスは婚約披露宴が行われる王城へと到着した。

 純白のドレスから披露宴用に誂えた淡いピンク色のドレスに装いを整える為、レイリアナは直ぐに控え室へと移動した。

 プリンセスラインのオフショルダードレスは、刺繍で作り上げられた立体的な花が散りばめられている。その刺繍の花は、ハーフアップにされた銀色の髪にも散りばめられ、よりいっそう華やかな雰囲気を演出している。

 ドレスは宝飾品も含めて、左手の指に輝く指輪と、右手に着けられたブレスレットに良く調和していた。


「綺麗だよ。レイリー」


 控え室へレイリアナを迎えに来たシエルラキスは、彼女をひと目見て称賛の言葉を零した。

 レイリアナは恥ずかしそうにして、その言葉の返事を濁した。


「お待たせ致しました。シエルラキス様」

「式のドレスもこのドレスもどちらも良く似合うよ」

「あ、ありがとうございます……。シエルラキス様も良くお似合いです――」


 シエルラキスも披露宴用に装いを替えている。レイリアナがじっとシエルラキスを見つめていると、彼の手が頬に触れた。


「披露宴は長いから、先にレイリーを補充してもいい?」

「はい。――あれ? でも、わたくしが魔力を補充するのでは……?」


 ――先程かなり魔力を消費してしまったから、心配して下さったのかしら……。


「まあ、そういう事でもいいよ」


 シエルラキスは目を細めると、レイリアナを抱き締めた。魔力がゆっくりと流れるのを確認する。シエルラキスが彼女の耳元に唇を寄せると、レイリアナは小さく身を震わせた。


「っ……!」

「レイリーには私の魔力を好きなだけあげるよ。……その代わり、私にはレイリーを補充させて――」


 シエルラキスは耳元で甘く囁くと、そのままレイリアナの唇を奪った――。






 婚約披露宴会場は王城の一番大きなホールだった。既に多くの招待客で賑わっている。

 本日の主役のシエルラキスとレイリアナが入場すると、騒がしかったホールの人々の視線が一気に2人へと集まった。


 2人がゆっくりとホールの中央へ進むと、祝福の声が降り注ぐ。

 その後から、国王と第1王妃も入場する。


「ラトゥリーティア王国第2王子シエルラキス・ラトゥリーティアとサクリフォス公爵子女レイリアナ・サクリフォスの婚約が先程誓約された。皆、この2人に数多(あまた)の祝福を――」


 披露宴の主催である国王(ゼストスフォード)が2人の婚約が誓約された事を告げると、会場は再び祝福の声に包まれた。そして、音楽が流れ、宴が開始された。


 レイリアナとシエルラキスはホール中央に降り立ち、皆の視線が集まる中、ダンスを始める。



「こうして踊るのはあの夜会以来だね」

「はい。あの日は驚く事ばかりで、ダンスを楽しむ余裕はありませんでした……」


 2人が手を取り踊るのは、レイリアナが出た2度目の夜会以来だった。色々な事があり過ぎて随分と前のような気がしている。


 ――あの日、初めてシエル様が王子だと知って……プロポーズされて……。


「では今夜は楽しんで貰えるようにしないとね」


 シエルラキスがニッコリと微笑んで伝えると、レイリアナは顔を赤くし、目を細めて答えた。


「――もう、今日はずっとシエルラキス様とご一緒出来るので、十分過ぎるほどに幸せです……」

「そういう可愛らしい事を言うのは、もう少し夜が更けてからにして?」

「――え?」


 シエルラキスはレイリアナの耳元に唇を寄せる。


「このまま、披露宴など放り出して2人きりになりたくなるから……」

「――殿下っ!……まだ披露宴は始まったばかりです……」


 レイリアナは赤かった顔を更に赤くさせた。それを見たシエルラキスは満足そうに微笑んだ。


 音楽が止むと、2人はお互いに礼をしてダンスを終える。すると、周りで拍手が沸き起こった。

 2人は、延々に続くであろう招待客の祝辞を受ける為、玉座近くへと場所を移した。その際に、シエルラキスが耳打ちをする。


「レイリー。今日は第3王妃も来ているから……すぐに祝言を述べに来るだろう。主に私が返答するから、心配しないで」

「――わかりました」


 レイリアナは気を引き締め直した。




 2人が席に着くとまず国王(ゼストスフォード)第1王妃(ラフタラーナ)が訪れ、祝辞を述べた。既に式で顔を合わせているので、話は簡単に済まされた。

 国王が玉座に着くと、第3王妃が動き出す。


 ――ちゃんと話すのはこれが初めてね……。


 レイリアナが緊張した面持ちで両手を膝の上でぎゅっと握る。その様子に気付いたシエルラキスが、彼女の手に自身の手を添えた。


「ただの挨拶だよ」

「はい……」


 そして、第3王妃が2人の前にやってくる。




「シエルラキス王子殿下。レイリアナ嬢。ご婚約おめでとう。2人のお話は方々(ほうぼう)から伺っているのよ。こうしてお話出来て嬉しいわ」

「祝いの言葉を頂きまして、心より御礼申し上げます。サルビアータ王妃殿下」


 2人の前に現れた第3王妃(サルビアータ)はにっこりと笑顔を作って、挨拶と祝言を述べた。シエルラキスも微笑み返答する。2人共にその表情からは全く感情が読み取れない。

 3人の間に短い沈黙が流れた。


 レイリアナが固唾をのみ、何か話した方が良いのかとそわそわしていると、サルビアータが自身の背後を振り返った。彼女が何かを告げると、後ろからまだ白の学園を卒業していないだろう年齢の少年がひょこっと姿を現した。


「シエルラキス王子、レイリアナ嬢。ごこんやくおめでとうぞんじ上げます」


 少年は丁寧に礼をすると、紫色の瞳を輝かせて微笑んだ。


「プロセディック。来てくれたのかい? ありがとう。彼女が私の婚約者のレイリアナ・サクリフォスだよ」


 シエルラキスはプロセディックと呼んだ少年を見ると、口元を緩めた。シエルラキスに紹介され、レイリアナは直ぐに挨拶を交わした。


「プロセディック王子殿下。お初にお目にかかり光栄でございます」

「レイリアナ嬢。はじめまして」


 サルビアータが同伴したのは、第3王子のプロセディックだった。

 プロセディックはまだ白の学園2年目の9歳なので、社交の場に現れる事はほぼない。今日の披露宴は日が沈む前からの開催で、デビュー前でも白の学園の学生ならば子供の同伴も許可されていた。――普段の夜会は白の学園を卒業した13歳以上の成人に限られる。

 更に、王族の婚約式という事で、幼いプロセディックが公の場に姿を現したのだ。

 しかし、デビュー前の子供を伴う者はほとんどいないのが実情で、彼と同年代の子供の姿はない。今回初めて第3王子を見る者が多く、その点でも周りの視線をかなり集めていた。


 プロセディックはその視線を全く気にする事はなく、ニコっと金色の髪を揺らしてあどけなく笑うと、レイリアナも自然と笑みが零れた。


 すごく、可愛らしい……!


「シエルラキス王子殿下。プロセディック王子は貴方にどうしてもお祝いがしたいと申しておりました故、同伴致しました。ですが、まだデビュー前の身。この辺りで失礼させて頂きますわ」

「ああ」


 サルビアータはプロセディックの年齢を理由に退場の意を伝え、彼に下がる様に言う。そして、帰り際に思い出したように振り返った。


「そうだわ! レイリアナ様。イオディアムを護衛に付けたのですね」


 ――え?


 レイリアナは急に振られた話に驚きを隠せずにいた。新しく彼女の護衛になったイオディアムはレイリアナの後ろで騎士の装いをし控えている。彼もまたサルビアータの発言が聞こえたようで、眉を少し動かした。


「……はい。優秀な騎士です」

イオディアム()のご両親――ビドテーノ侯爵夫妻と子女のお話は伺いました。3人とは懇意にしていたのよ。病なんて悲しいわ……」

「そうですね……」


 レイリアナは顔を強張らせた。サルビアータは目を伏せ、口元を扇で隠している為表情が分からない。


 いったい何の話を……。ビドテーノ()侯爵夫妻にまだ執着があるというのかしら……。


 サルビアータはふと目線をレイリアナの後ろに向けると、イオディアムに言葉を投げ掛けた。


「イオディアム。ご両親にお見舞いの言葉を伝えておいて」

「――恐れながら。お心遣い、ありがたく頂戴致します」

「その内、()()()()に参るわね。メネセリークにもよろしく言っておいて頂戴――」


 サルビアータの発言にレイリアナが目を見張ると、シエルラキスが話に割って入った。


「王妃殿下。ビドテーノの両親は流行り病と伺っております。殿下にもしもの事があるといけません。お控えになった方が良いかと――」

「ふふ。()()()()()わね。ご忠告ありがとう」


 サルビアータはそう言うと、今度こそその場を後にした。

 その姿を見送りながらレイリアナは小さく息をつく。そして、膝の上で握りしめていた両手が冷たくなっている事にようやく気が付いた。プロセディックの笑顔で温まった心がすっかり冷えてしまった。


 ――第3王妃はビドテーノ前侯爵達の幽閉を既に知っている……?



「――レイリアナ。大丈夫。もう何もない。今日は私達の婚約披露宴だよ。私の為に笑ってくれる?」


 深刻な顔をしているレイリアナの頬に、シエルラキスの手が添えられた。急な出来事に、レイリアナは目を見開いて彼を見つめた。


「シエルラキス様……」

「私がいるから大丈夫だよ」


 レイリアナはシエルラキスの心遣いに再び笑顔を取り戻す。

 そして、2人に招待客が次々とやってきて祝言を述べていった。




 すっかり日も落ち、招待客の挨拶もひと段落する。王家の婚約披露宴は夜更け近くまで開催されることが多く、まだこれからという時間帯だった。今回の披露宴も夜遅くまで開催されるだろう。

 レイリアナがふぅと一息ついていると、シエルラキスとレイリアナの周りに人が途切れたのを見計らって、ドレス姿の女性が現れた。


「レイリアナ様。宜しいでしょうか――」

「ヴァシーリ!! わたくしの護衛騎士は今日も一段と綺麗ですね……!」


 レイリアナの護衛騎士のヴァシーリは研究員として招待を受けており、今日の披露宴は騎士の姿ではなくドレス姿である。彼女はレイリアナが心を許せる数少ない者のひとりだ。

 学生時代『麗しの蝶騎士』と呼ばれる程に、端正な顔立ちと振る舞いで一部学生の憧れの対象となっていた。しかし卒業後、彼女はあまり社交を好まず、夜会にも数える程しか顔を出さなかった。そんな彼女が久々に公の場に現れ、会場にいる未婚の紳士たちの注目を一身に浴びている。


「ありがとうございます。レイリアナ様もいつにも増してお綺麗ですよ」


 ヴァシーリは切れ長の目を細め微笑んだ。レイリアナは彼女を見てうずうずしている。


 ――ああ、わたくしのヴァシーリに抱き着きたい!


「――レイリアナ。今日は自粛してくれ」

「シエルラキス殿下!?」


 シエルラキスが呆れた顔でレイリアナに忠告すると、レイリアナはなぜばれたのかと目を白黒させた。そんな2人を見たヴァシーリがくすっと笑った。正装はしているがいつも通りの2人に心を和ませた。

 そして、ドレス姿の為膝こそつかないが、右手を胸に当て騎士の礼をする。


「シエルラキス王子殿下。レイリアナ様。ご婚約、心よりお慶び申し上げます。レイリアナ様の騎士として、これからもお2人に尽くす所存でございます」

「ありがとう! ヴァシーリ!」

「これからもレイリアナを頼む」


 ヴァシーリはもう一度礼をすると、後ろに控えていた男性が前に出てくる。


「殿下、レイリアナ様。わたくしの父を紹介してもよろしいでしょうか」

「是非。確か其方の父は辺境伯だったな」


 ヴァシーリは自身の父・トゥルマリー辺境伯を紹介した。伯爵が挨拶と祝言を言い終えると、少し神妙な面持ちで声を潜めて呟いた。


「殿下。国境でとある話を耳に致しました――。本日は慶事であります故、お伝えするのは憚られましたが……娘に詳細を伝えてございます。のちにご確認下さい」

「――分かった。情報感謝する。貴殿は遠方より我々の為に遥々王都まで足を運んだのだろう? 今夜は娘と共にゆっくり楽しむが良い」

「身に余るお言葉、ありがとう存じ上げます」




 ヴァシーリとトゥルマリー辺境伯が下がると、シエルラキスは目を伏せ、少し険しい顔つきになった。レイリアナが少し不安げに見つめると、彼は表情を緩めた。


「さあ、レイリアナ。もう少ししたら出ようか。そろそろ()()()()調()()()()()()()だ」


 対外的にレイリアナは幼少期からとても病弱だったとされていた。なので、退場が早まっても体調の為と言ってしまえば良かった。

 実際、レイリアナは朝から気を張っていて、既にかなりの疲労が溜まっていた。シエルラキスの提案をありがたく受け入れる。


「……はい。――シエルラキス様。先程の――ヴァシーリから辺境伯のお話を伺う際、わたくしも同席させて下さいね」

「――わかった」




 そして、2人は惜しまれつつも披露宴会場を後にした。


婚約式に続き、婚約披露宴も終わりました。ここでも、新たにお披露目されるキャラが次々と出て来てしまいました。中でも第3王妃は名前も出てなかったので、ようやくって感じですね。式の途中でもレイリーといちゃつく事を忘れないシエルです。ヴァシーリは入れるか悩んだ挙句に入れました。ホントはラムザとスラグティ家の皆さんも出したかったのだけど、冗長過ぎるかなと思い泣く泣くカットです。


そして!次回で第1章完結です!!

第1王子もレイリー兄も全く出てこないし、始まってる感じはありませんが、一区切りつけたいと思います。ここまで読んで下さった皆さんありがとうございました!閑話とか出す予定ですが、なるべく早いうちに2章も更新出来たらなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ