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2.青の学園

 入学を決意したあの日から3年と少し季節が回っただろうか。


 12歳で青の学園に無事に入学した私は15歳になり、学園と王都の公爵邸とを行き来するだけの研究漬けの日々を送っている。ほとんどは邸宅で研究を行っており、行き詰まったり、実験や材料が必要な時だけ学園に赴く。今日がその日だ。


 誰かいるかしら……。


「おはよう。レイリアナ。久しぶりだね」

「おはようございます。ヴァシーリ。今日は実験の日ですから」


 学園の一室に入るとすぐに声を掛けてきたのは、同じ研究室の先輩にあたるヴァシーリだった。


「実験……。ああ、例のか。確か、近づいたら倒れるまで魔力を搾り取られそうな――」

「そうです! 学園の森を使わせて頂くのですけど、森には絶対に近づかないで下さい! 一応、植物を対象とした術式にしましたが、生物も対象になりそうな式なのです……。他にも試したい事があるので何が起こるかわかりません……」

「それは実験が楽しみだね」


 実験の内容を知るヴァシーリは、切れ長の目を細め、前髪をかき上げながらくすくすと笑った。

 横に流した長い前髪をかき上げる仕草は爽やかさが漂う。見た目通りにさっぱりした性格の彼女だけれど、面倒見が良く研究の相談にも乗ってもらっている。

 ヴァシーリに会えただけでもこの学園に入って良かったと思える。



 入学についてはそれ程難しいものではなかった。お父様への説得に骨を折ったけれど、白の学園への入学の時に大反対していたお兄様が居なかった為、思ったよりはスムーズに話が進んだように思う。

 ただ、宰相を務めていたお父様が領地を空ける事は出来ないと辞任した。引継ぎもあるので、まだ一年の半分は王都に赴き執務を行っている。辞任する前とさほど変わらない気がするけれど、それでも少し心苦しい。


 青の学園の新入生は『研究生』と呼ばれる。研究生が2年以内に研究の特異性を見出されたり、研究成果が出ると『研究員』として在籍の延長を許可される。そうでないものは卒業と言う名の追放だ。卒業した者の数だけ入学出来るので、年によって新入生数の差がある。

 教師に類する研究員もいるけれど、集団での座学はほとんどなく、質問や専攻以外の事が知りたければ、教師や研究員へ直接講義を依頼する。

 その様に、各々が好きなように研究しているので、何をしているのかさっぱりわからない人もいる。ほとんどの研究員はおおまかな研究内容毎にまとまって共同研究室を設ける。入学したばかりの研究生は大体自分の課題と類似する研究室に所属する。

 予想通り、魔術関連の研究室は少なかった。

 そんな中、魔術の教鞭を執っている研究員の研究室があり、私はそこへの入室を希望した。一度は定員だと断られたものの、これまでの実験結果や研究材料などを力説し研究室長の興味を引く事に成功して、半ば強引に入室した。


 ――無理やりでもこの研究室に入れて良かった。


「おはよぉございますぅ」

「ああ、ネストルか。おはよう。また帰ってないのかい?」


 ネストルと呼ばれた少年が、研究室長の自室から半分寝ている目をしてそろそろと出て来た。室長の自室は共同研究室に直接繋がっている。

 ヴァシーリの質問に彼はそうですぅと目を擦りながら返答する。

 彼は室長ではない。今年入った研究生だったはず。新入生の彼はきっと一晩中室長に雑用係として付き合っていたのだろう。

 今日はもう帰るといいよとヴァシーリが気遣ったが、彼は最後にやる事があるのですぅと室内をキョロキョロ見回した。不意に目が合う。


「あ……っ! レイリアナ様ですか? ですよね? 室長からのお届けものがあります。室長から頼まれてたのに、忘れるところでしたぁ」


 新しく研究室に入った彼と私はほぼ初対面だけれど、人数の少ない研究室なので知らない人間はすぐに見当が付くのだろう。


「どうぞ。――申請していた許可証だ――そうです」


 彼は室長の部屋から一枚の紙を持ち出し、室長の伝言を正確に伝えて私に手渡す。


「ありがとうございます。貴方は……ネストルで良いかしら? あと、わたくしの事はレイリアナで良いですよ」

「あっ、はいっ!」


 この研究室は貴族階級や入学年度の上下関係はない。皆が研究と言うただ一点のみに置いて平等だと、研究内容こそが最大の敬意の対象だと室長が仰っているからだ。

 領地にて全く社交に関係のない生活を送っていた私は、すんなりとその考え方を受け入れた。


許可証(これ)、学園の森の人払いの申請ですよね。どんな大掛かりな実験をするんですかぁ!?」


 申請の内容を初めて知ったのか、ネストルは興味津々だ。

 『学園の森』は白、赤、青の3学園全てに隣接している学園管理の森だ。野外の演習はここで行われる。


「そんな大掛かりな物じゃないですよ。ただ、魔術式に不安要素があるので、念の為と言ったところです」


 それでも研究者としての性か、研究内容について後学の為に教えて欲しいと食い付いてきたけれど、あまり悠長に説明している時間はない。森の広範囲に申請を出したので、許可された時間はそれ程長くなかった。

 研究室に報告書があるからまずはそれを読んで下さいとニッコリ笑って話を切り上げた。


 話をすれば、私が『研究員』の認証を得た研究の【植物から鉱物への魔力付与魔術】から説明する事になる。

 今日の実験はその研究の応用だ。


 森へ持っていく備品を揃え、出掛けますと2人に挨拶をするとヴァシーリが手を振っている。


「実りのある実験を――」




 返事の代わりに微笑み、研究室を出ると足早に学園の森へ向かった。



レイリアナとネストルはすれ違いの学園生活を送っていました。ヴァシーリはキレイでカッコイイお姉さんです。

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