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27.往代の魔術具

 

 モルダから王都へ帰還して数日、レイリアナは魔術具の検証と王族教育に日々を費やしていた。

 レイリアナは王族教育の無い時間帯、シエルラキスに用意してもらった研究用の部屋にひとり籠っている。


「デザインは誰かにお願いしたい……」


 レイリアナはため息混じりに呟く。第1王妃のお茶会で紹介する回復魔法が付与された魔術具の魔術式や鉱石の準備は出来ているのだが、肝心のデザインが決まらなかった。

 レイリアナは魔術具は効率化と実用性を求めてシンプルな物が一番と思っているので、上流階級が求めるような物は到底想像がつかない。


 シエル様が贈って下さったドレスとアクセサリーは素敵だったなぁ……。


 2回目の夜会でシエルラキスがレイリアナに贈った濃紺のドレスを思い出した。あの贈り物のお陰で、レイリアナはとても特別な気持ちでホールに向かえたのだ。それと同じ様に誰かの気持ちの後押しになる事が出来たら嬉しいが、ひとりでの限界を感じた。




 レイリアナが思い悩んでいると、コンコンっと扉を叩く音がした。


「失礼します。レイリアナ様。シエルラキス殿下とヴァシーリ嬢がいらっしゃいました」

「――! どうぞ……!」


 外に控えていたエアラムザが2人の来訪を知らせた。

 レイリアナが返答し急いで扉に向かい、部屋の外へ飛び出した。


「ヴァシーリ! 元気でしたか!? 聞いて欲しい事がたくさんあるのです!」


 そう言ってレイリアナがヴァシーリに抱き着くと、シエルラキスが拗ねた様に眉を寄せる。ヴァシーリはその視線に気付き、気まずそうに苦笑いをした。

 一連の流れを目の当たりにしたエアラムザが、堪え切れずにははっと噴き出した。


「レイリアナ様。お久しぶりです。私もお話ししたい事がありますが、まずは殿下のお話を……」

「は……っ!」


 レイリアナはヴァシーリから注意を受け、パッとヴァシーリから体を離すと、シエルラキスに向かって姿勢を正して礼をした。


「ごきげんよう。シエルラキス殿下。お見苦しい所をお見せしました……」

「……もう見慣れたよ」


 シエルラキスはやれやれと言ったように肩をすくめると、ヴァシーリからレイリアナを奪うように抱き寄せた。


「で、殿下……っ」

「私にも挨拶をさせてくれないか?」


 レイリアナを抱き締め額にキスをすると満足したのか、シエルラキスは真っ赤になった彼女を解放した。


「さあ、話を始めよう」





 レイリアナ達は彼女の研究用の部屋で話をする事になった。彼女専用の研究部屋は、サクリフォス公爵領邸宅の実験部屋と同じように、非常に広いがカーペットはなく、装飾や調度品も置かれていない。

 片隅に上品な執務机があり、その近くに応接用に使用するソファとローテーブルが並べられている。シエルラキスとレイリアナ、ヴァシーリはそのソファに腰掛け、エアラムザはレイリアナの後ろに立った。今日のヴァシーリは護衛騎士としては非番で、研究者としてやってきた客人だ。


「強盗達から回収した魔術具に関して私からとヴァシーリから報告がある」


 シエルラキスが例の魔術具をテーブルの上に置き、ラフタラーナから提示された情報を伝える。

 魔法が繁栄する前の物で『往代(おうだい)の魔術具』と呼ばれいる事。王家の管理下にあったが、ジョカリタがラフタラーナに(そそのか)され、第3王妃経由で持ち出された事。そして――。


「ヴァシーリは既に調査済みで分かっているかもしれないが、この魔術具(コレ)は、()()()()()()()為の道具だ。コレに拘束されると、()()()()()魔法は発動出来ないようになっている」


 魔術具の機能に関する報告を聞いたレイリアナは困惑した。


「……あの……わたくしはその魔術具をつけられていたのでしょうか……?」

「ああ。そうだ」

「あの時わたくしは魔法を発動したはずです……」


 確かに誘拐事件の時の馬車の中でレイリアナはその往代の魔術具で拘束されていた中で防御魔法を発動したのだ。

 レイリアナの疑問に対して、ここからは私が報告を兼ねて説明しますとヴァシーリが答える。


「殿下が仰る様に、その魔術具で拘束された場合ほとんどの魔法は発動しません。ですが、魔術式の調査で、ある一定以下の魔力を使用した魔法のみ抑止される事がわかりました。発動する魔法の放出量が設定値を越えた場合、魔法は発動してしまう様です」


 魔法の『放出量』とは、1回の魔法で使用する()()()()である。魔力は『器』に溜められ、魔法を介して放出される。放出量の上限も個人差があり、どれ程器が大きく魔力を豊富に持っていてもこの放出量の上限が少ないと威力のある魔法を発動できない。簡単な魔法でも放出量に寄っては凄まじい威力を発揮する。


「恐らくレイリアナ様の魔法の放出量が、その魔術具の設定値を越えたのでしょう」


 ヴァシーリはテーブルに置かれた往代の魔術具に向けていた視線をレイリアナに移した。レイリアナは興味深げに彼女の話を聞き入っていたが、その魔術式を見たいとうずうずしている様でもあった。


「魔術式にある設定値は……相当な量であると推測されます。――私の最大放出量でも発動しないでしょう」

「――わかった。そうなると、いよいよレイリアナは魔法制御を身に付ける必要があるな……」


 魔術具の報告は以上ですとヴァシーリが告げると、シエルラキスが顎に指を当て、神妙な顔つきで答えた。


 ――器にある魔力を全て使い切る様な魔法の使い方を改めさせなくては……非常に危険だ。


 以前、コルーンの街でレイリアナを除く3人が共有した様に、レイリアナの器と放出量の上限が分からない。その上、魔法を全力でしか発動できないとしたら、その一帯が焦土と化してもおかしくないのではとシエルラキスは戦慄した。

 しかし、彼の心配をよそに、レイリアナは感嘆の声を上げた。


「――わたくしはついに魔法の訓練をするのですね! シエルラキス殿下の魔力のおかげです!」


 レイリアナは声を弾ませた。魔力のなかった彼女は、白の学園で習う様な基礎的な魔法制御の訓練さえ必要なかった。それがついにやってきたのだ。

 シエルラキスはその姿を愛おしそうに見遣った。呪いの様なこの魔力がこんなにも人を喜ばせる事になるとは、レイリアナと出会うまでは思ってもいなかったのだ。


「レイリアナ。貴方の器も放出量も上限が分からない。だからこそ魔法制御をしっかり身に付けて欲しい」

「はい!」


 シエルラキスがレイリアナの髪を撫でながら伝えると、レイリアナは満面の笑みでそれに答えた。




「あの、わたくしからもよろしいでしょうか……。わたくしが考えている魔術具についてなのですが――」

「構わないよ」

「なかなかデザインが思い浮かばなくて……。シエルラキス殿下がわたくしに贈って下さったドレスを作った方を紹介して頂きたいのです」


 往代の魔術具の話が一区切りついたので、レイリアナは先程まで悩んでいた魔術具のデザインについての相談をし始める。


「ああ、あれなら……ラムザに聞くと良い」

「――エアラムザにですか?」

「はーい。毎度ありがとうございます。レイリアナ様がお探しなのは、我が家抱えのデザイナーですよ」


 エアラムザがニコニコと愛想良く答えた。シエルラキスがレイリアナに贈ったドレスやアクセサリーは、エアラムザの実家・スラグディ伯爵家が出資している店のものだった。スラグディ家は商売に特化し、特に服飾関係については王都で上位に並ぶ店を構えている。


「そうだったのですね……! あのドレスや宝飾品の上品でシンプルなデザインがとても好きです。今回わたくしが作成しているものも宝飾品の様な物なので、宜しければ助力をと思いました」

「お褒めに頂き光栄です。デザイナーに相談してみましょう。こちらに招いても良いですし、レイリアナ様が構わないのであれば、息抜きがてら店まで案内致しますよ。魔具の取り扱いもありますので」


 エアラムザは矢継ぎ早に話を進めていく。商いに関してはスピードと決断力と言う様に、畳みかけて来る。


「では、私も店まで行こう」

「え?」


 シエルラキスが急に2人の会話に割って入ってきた。レイリアナは驚き、エアラムザはまたかと小さくため息をつく。


 どれだけ男と2人きりにさせたくないんだよ……。


「息抜きなら私にも必要だろう? ラムザ」

「――ああ、そうですね……。人が多い方が、色々な意見を聞けますしねぇ」


 エアラムザが歯切れが悪い声で返すと、レイリアナがそうだっと、パチッと両手を口元の前で合わせた。


「じゃあ、ヴァシーリも行きましょう! ずっと相談に乗ってもらっていたのですから、きっと参考になりますよね! ヴァシーリも良いですか?殿下」

「え……いや……私は……」


 急に話を振られてヴァシーリは珍しく少し慌てて、困った様にシエルラキスに視線を向ける。


 ――殿下はきっとレイリアナと2人が良かったのではないだろうか……。


 ヴァシーリが期待に胸を膨らませたレイリアナを無下に出来ずにいると、シエルラキスが渋々頷く。


「レイリアナが望むならば……」






 数日後、王都市街を散策する4人の姿があった。



またしても勝手に着いてくるシエルと優良物件ラムザです。


※夏休みのため次回更新は少し先になります。

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