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25.真相と残された傷

 

 モルダから王都に帰還したその日から、シエルラキスによってレイリアナは王城へと連れ去られた。彼の指示により、王都の公爵邸宅から王城に居住を移す事が決まっていたのだ。

 既に居室はレイリアナ用に準備され、公爵家のレイリアナ付きの侍女や使用人も何人か連れて来られていた。


「部屋は手狭ではないか? 足りないものがあれば教えて欲しい」


 帰還した当日は疲れからか2人共、それぞれ自室にて直ぐに寝入ってしまったのだ。その為、いくつか話をしたいと翌日にシエルラキスはレイリアナの居室へやってきた。


「お部屋は充分です。ただ……邸宅のわたくしの研究室の物を全て持ってきたいのですが……」

「それは構わない。レイリアナの好きにすると良いよ。研究用の部屋も一室用意しよう。――私の我が儘でそのまま連れてきてしまったからね」


 長ソファに座っていたシエルラキスは隣に座っているレイリアナの淡いピンク色の瞳を覗き込んだ。


「貴方が手の届く所にいないと不安で仕方ない……」


 シエルラキスの手がレイリアナの頬に優しく添えられる。レイリアナがシエルラキスを見つめると、クリアブルーの瞳が不安気に揺らめいていた。


「――レイリアナがヴァシーリに託した音声再生鉱石(貴方の声)について聞きたい。誘拐される事とその行き先を何故前もって知っていたのか……」

「……お話します……」


 レイリアナは初めて王城へ登城した日の事を話し始めた。

 あの日、レイリアナは第1王妃(ラフタラーナ)に謁見し、そこで計画を告げられた。


 ――近いうちに貴方が攫われる誘拐事件が起こります。そこで、まず侯爵令嬢を捕らえましょう。第3王妃を切り崩すきっかけになります――


 ラフタラーナはビドテーノ侯爵令嬢(ジョカリタ)がレイリアナに悪意を持っている事と、彼女が第3王妃側についている事を利用し、レイリアナの誘拐を唆すよう動いていた。ビドテーノ侯爵夫人は警戒心が強いが、娘のジョカリタは安直で動かし易い。

 事件を起こすため、ラフタラーナはレイリアナに王都を離れる機会を作るよう進言した。その機会というのが今回のコルーン行きだった。ジョカリタの取り巻きとして送り込んだラフタラーナの内偵に、誘拐をほのめかす様に伝えさせた。ジョカリタはその策略に見事嵌められたのだった。


「いつの間に王妃陛下とそんなやり取りを……」


 シエルラキスは信じられないという顔で目を見開いた。レイリアナは瞳を伏せた。


「シエルラキス殿下には、事が起こるまでは報せてはならないと言う約束でした……。申し訳ありません……」

「貴方が謝る事ではないよ……。陛下の(はかりごと)に利用されたのだから」


 シエルラキスはラフタラーナに対し小さなわだかまりを覚えた。これ迄、自分が利用される分には何も感じなかったが、レイリアナが利用された事にここまで憤りを感じると思っていなかった。


 ――元々、私も彼女を利用しようとしていたのに……。


「これ以外に王妃陛下から言われている事はあるのか?」

「いえ、今の所は。お茶会には招待されていますが、事件に関してはこれが全てです。誘拐された後の事は何も進言はありませんでしたから……」

「な……!?」


 それは……あまりにも酷い……。誘拐事件さえ起きればレイリアナの生死は問わないという事か……!!


 シエルラキスは憤慨した。王妃陛下に対して積み上げてきた信頼が崩れ落ちていく様だった。

 そもそも今回のコルーン行きはレイリアナとヴァシーリのみで向かう予定だった。あの強盗の人数に対し、ヴァシーリひとりで対応出来るはずがない。それを知っていたとしたら、レイリアナに害が及ぶ事を容認していた事になる。


 レイリアナはラフタラーナに関しては特に気にした様子もなく、ただシエルラキスに秘密を抱いていた事が心苦しかったと言った。


「シエルラキス殿下とラフタラーナ陛下の目的は同じでしょうか……」

「え……? 『第1王子を王位に就かせる』という点では同じだと言えるな……」

「それならば、その目的に少しでも近付きましたね」


 レイリアナは今回の事件でシエルラキスの目的に近付いた事として純粋に喜んだ。そんな彼女をシエルラキスは驚いた表情で見る。


「そうだね」


 ――本当に危なっかしい。レイリアナが無事で良かった。もう少し自分の被害に目を向けてもいいと思うのだが……。これでは、益々目を離せない……。


 レイリアナのあっけらかんとした発言に、シエルラキスは先程までの怒りが薄れていくのを感じた。それよりも、レイリアナ自身へ降りかかる害意や悪意に対する関心のなさをどうにかしなくてはと苦悩した。




「そう言えば、わたくしが王城に居を移したのでヴァシーリはしばらく非番ですよね……? わたくしの魔術具作成に付き合ってもらおうと思っていたのですが、良いですか?」

「いや、それは……。彼女には私から研究員としての依頼をしていて、それが完了するまで登城の予定はないが……」

「研究員として……? 魔術関連ですか? それならばわたくしにも是非やらせて下さい!」


 魔術と聞いて直ぐに自分も関わりたいとレイリアナは名乗りを上げる。本当に魔術の事に対しては積極的だなと、シエルラキスは苦笑する。


「貴方は例の魔術具を完成させなくてはいけないだろう? せっかくコルーンまで実験に行ったというのに」

「あ……。そうでした」


 ヴァシーリと共同研究をしたかったです……と、あからさまにがっくりとしているレイリアナを見て、シエルラキスは少し拗ねたような顔する。


「魔術やヴァシーリにまで嫉妬しそうだよ」

「……そんなこと――」

「私に対してもそれくらい積極的になって欲しいのだけど――」


 シエルラキスが耳元で囁くと、レイリアナはびくっと体を硬直させた。彼女が強盗に捕らわれて以降、必要以上な触れ合いに対し小さな拒絶を示す事が多くなった。


 ――レイリーはそれ(拒絶)に気付いていないかもしれないが――


 しかも、長距離移動が続き、2人の時間はほとんど取れていない。彼女が何に対して恐怖を抱いているのかが分からない為、シエルラキスも少し慎重になっていた。


 ――急かしてはいけないのはわかっているけど……。


「レイリー……キスしてくれる?」

「……えっ」


 シエルラキスは少し体を離し、レイリアナの瞳をじっと見つめる。レイリアナは一瞬何を言われたのか理解できずにいたが、クリアブルーの瞳に見つめられているうちに、その顔をみるみる赤く染めていった。


 ――自分からなんて、恥ずかしい……。だけど、魔術にまで嫉妬するシエル様は、とてもかわいらしい――


 レイリアナは俯きながらぐるぐると考え、耳まで赤くなる。シエルラキスはそんな姿を見て、今すぐにでも彼女をどうにかしてしまいたい気持ちを必死に抑えている。

 レイリアナはゆっくりと真っ赤になった顔を上げ、囁く。


「――あまり……見ないで下さいね……」


 レイリアナはシエルラキスの瞳を両手で覆うと、彼の唇に自身のそれを重ねた。ほんの一瞬。それは直ぐに離された。

 シエルラキスは自身の瞳を覆っていた彼女の両手をゆっくりと掴み、視界を開けると、淡いピンク色の瞳が恥ずかしそうに揺れている。


「私からしてもいい……?」


 そんなこと聞かないで欲しいとレイリアナは思うが、シエルラキスは彼女の了承を待っている。自ら彼を求める様で本当に恥ずかしいが、自分の意思を尊重してくれる彼の思いやりに気付いた。


 シエル様はわたくしを気遣って……?


「――はい……」


 レイリアナは小さく頷き、そのまま瞳を伏せた。


「ありがとう」


 シエルラキスは掴んでいたレイリアナの手を離し、指を絡める様に手を繋ぐ。レイリアナは繋いだ手からゆっくりと流れてくる魔力に安堵を覚えた。

 シエルラキスはレイリアナの強ばっていた体の力が抜けるのを感じると、もう一方の手で彼女の顎を上げ、優しく口付けた――。

 レイリアナは繋いだ手をもう一度ぎゅっと強く握る。


 ――レイリアナはこれからも危険に晒されるだろう。出来ることなら、このまま閉じ込めてしまいたい……。


 叶わないと分かっていても、そう願わずにいられなかった。

旅から戻った2人の休憩回になりました。もう少し短かったんですが、イチャつきだすと長くなってしまいます。

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