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24.鎮圧と暴走

 

「きゃあああっ!」


 シエルラキスは制止の声と共にレイリアナの側に駆け寄り、彼女からジョカリタを弾き飛ばした。

 それを見たジョカリタの私兵が十数名建物から次々と現れ、シエルラキスへと剣を奮う。ヴァシーリは2人を守る様にその剣を受け流していった。辺りで控えていたシエルラキスの騎士達も応戦した。シエルラキスは氷魔法で私兵達の足をひとりずつ凍らせ、拘束していく。

 ジョカリタを助ける為、魔法を発動しようとしていたボアネルだったが、エアラムザが剣を突き出し、身動きを取れなくしていた。


 ジョカリタの私兵はほぼ鎮圧され、彼女を捕縛しようとシエルラキスが近付こうとした時、弾き飛ばされ地に伏せていたジョカリタがふらっと立ち上がった。現状を理解していないのか、彼女は力なくシエルラキスにズリズリと近付いて行く。

 シエルラキスはレイリアナを抱き寄せ、剣先をジョカリタへ向けた。


「シエルラキス王子殿下!!! わたくしを迎えに来て下さったのですか?」


 吹き飛ばされ、剣を向けられているのにも関わらず、ジョカリタは恍惚とした表情でシエルラキスを見つめていた。それを間近で見たヴァシーリは嫌悪で眉を歪ませた。


 ――彼女(ジョカリタ)はこんな狂気的な人間だっただろうか……?


「殿下にまとわりついているそのからっぽから解放して差し上げますわ!元宰相の娘ですもの……無下に出来なかったのでしょう?」


 ジョカリタは独り言のように、誰からの反応もないこの場で話している。シエルラキスは重要な証拠をどの様に扱うか考えあぐねていると、ジョカリタは更に続けた。


「騎士に甘んじ、氷の騎士などと言われるまで功績を残さなければ国王陛下にも王妃陛下にも()()()()()()()のでしょう。そんな殿下が王位の為に()()()()その女と婚約したのは分かりきったことですの。ですが、そんな女なんていなくてもわたくしで十分お(ちから)になれますわ」


 ジョカリタが「愛されなかった」と伝えた時、レイリアナは触れているシエルラキスの指先が微かに力が籠ったことに気付いた。


 シエル様……


 レイリアナは鋭い視線でジョカリタを直視し、彼女の独演を遮るように声を上げた。


「ジョカリタ嬢!殿下に対し無礼が過ぎます!」

「うるさいわね……! からっぽは黙りなさいぃ!!!」


 ジョカリタは金切り声の様な叫び声をあげると、風の魔法を自らの周りに発動させた。竜巻の様なその魔法は、彼女を知る誰もが驚くような魔力量だった。本来の彼女の魔力では到底発動できない魔法である。

 ナイフのようなかまいたちがいくつも竜巻に巻き込まれ、少しでも触れたら切り刻まれそうだった。更には粉塵や石、木片など落ちているがらくたを全てを巻き上げていく。


「――っ!?」

「ヴァシーリ、護りを!!」


 シエルラキスの一言でヴァシーリが魔法防御魔法を発動し、3人を攻撃魔法から守る。しかし、風圧で巻き上げられた()()()()は魔法防御魔法を通過しヴァシーリに向かって飛んできた。ヴァシーリが物理防御魔法を発動しようとするも魔力が足りなかった。思いの外、攻撃魔法が強く、魔法防御に負担が掛かっていた様だった。彼女は意を決して、体を張ってそれを受け止めようとする。


「ヴァシーリ……っ!!」


 ――――バキバキバキ……ッ!!!!


 レイリアナが悲鳴を上げたその時、「氷よ……」とシエルラキスが小さく呟き、氷魔法を発動した。


 巻き上げられた物が全て凍り付いたような氷山が出来上がった。その中にはジョカリタも含まれている……。彼女は氷の中で恍惚とした表情のまま空を見上げていた。

 それを見たレイリアナは反射的に自身の魔力を込めた。


「皆に癒しを――!!」



 ――――パアァァァ……ッ――――



 レイリアナが回復魔法を発動させると、シエルラキス側の騎士も、ジョカリタの私兵も、ジョカリタ本人も全てを包み込む様にキラキラと光が広がった。それぞれの傷を癒していく。


 その光景を初めて見た騎士のひとりが、信じられないという顔で『奇跡だ……』と呟いた。


「レイリアナ……!」


 レイリアナの強大な魔法を隠しておきたかったシエルラキスは、レイリアナを抱き締めそれを止めた。困惑した表情でレイリアナを見つめる。


「なぜ……?」

「……なぜでしょう……。気が付いたら発動していました。でも、これで証拠は残ります。殿下の手も汚れません――」


 ――手を汚すなど……そんなこと、今更気にしなくてもいいのに……。


 レイリアナがジョカリタの方を向いたまま伝えた言葉に、シエルラキスは心が和らいだ。

 ジョカリタやがらくたが凍ってできた氷山は全て溶け、彼女はその場に崩れ落ちた。


「ジョカリタ様!」


 エアラムザに捕らえられていたボアネルが、ジョカリタの身を案じて叫んだ。


「大丈夫です。彼女は――」

「公爵令嬢誘拐及び傷害未遂、並びに王族への反逆罪により、ビドテーノ侯爵令嬢及びその私兵を全て捕らえろ」


 レイリアナがボアネルに答えようとするも、シエルラキスの指示を出す声に搔き消された。犯罪人にこれ以上の温情をかけてはならないとの無言の圧力であった。しかし、レイリアナの大丈夫という言葉に、ボアネルは小さく安堵の表情を作った。

 ジョカリタは気を失っているものの、生気はある。彼女達はこの後王都に移送される予定だ。


「皆よくやった。後は任せる」


 騎士たちはシエルラキスの言葉に跪き、胸に右手を当て礼をする。すると突然、シエルラキスはレイリアナを抱き上げた。


 皆が見てるのに……っ!!


「で、殿下……っ!?」

「もうここに留まる必要はないからね。レイリアナを安全な所で休ませたい」


 シエルラキスはレイリアナにそっと告げると、早々にその場を後にした。

 ヴァシーリは直ぐにその2人を追いかけた。エアラムザは後処理の指示を任されているので、その場に留まり、呆れた様にそれを眺めた。






 レイリアナとシエルラキスはその日のうちにモルダを発ち、ビドテーノ領から姿を消した。


ラムザは毎回シエルの後処理に追われます。中間管理職的な存在になってしまいました…。

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