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16.旅人の街・コルーン

 

 4人は目的の山地付近の街『コルーン』に到着した。

 コルーンは王都から比較的近い大きな街道沿いのとても活気がある街である。王都を出発した旅人がまずこの地を訪れる為、『旅人の街』とも呼ばれている。


 コルーンの比較的高級な宿場を見繕ってあり、ヴァシーリはそちらへと一行を案内した。

 街中では騎乗しながらの移動は困難な為、全員下乗する事になった。シエルラキスは念の為ローブを被りその顔を隠している。王子が彷徨(うろつ)いているなんて誰も思わないが、バレたら面倒だからだ。

 シエルラキスは馬をエアラムザに任せ、レイリアナを抱き上げ歩いていく。ヴァシーリが交代を要請したが、少しでも魔力を供給したい彼はそれを断固として拒絶したのだった。



「ヴァシーリは素材集めによく出かけるの?宿場とか詳しいんだね」

「ああ、そうだな。遠い所は依頼をするけれど、この位の距離なら自分で行った方が早いからね。この街もよく来るよ。ただ、私ひとりなら野営で済ませる事も多いし、あまり上等な宿は使わないかな。流石にレイリアナ様には無理はさせられないから、ちゃんとした宿を選んだつもりだよ」


 ヴァシーリの言葉に、シエルラキスは痛いほど共感する。3人は騎士として野営をする事に慣れているが、レイリアナはそうではない。


「今回、上流貴族も使う様な宿は避けたけど、それでも平民の富裕層が使うような宿だ。宿には金を握らせればいいが、他の宿泊客にレイリアナ様とシエルの正体がばれなければいいなとは思う」

「わかった。気をつけよう」


 これまで公に殆ど顔を出してなかった2人だが、先の婚約で少しずつ顔が知れ始めている。シエルラキスはヴァシーリの忠告に頷いた。



 程なくして、宿場に到着した。馬を厩舎に預け、受付けを済ますと、レイリアナを休ませる為に部屋へと向かった。2人部屋を2部屋借り、その片方のベッドへレイリアナを降ろした。


「シエル……部屋は私とレイリアナ様で良いのか?」

「構わない。そうしてくれ」

「ぼくとしてはシエルとレイリアナ様が一緒の方が護衛しやすいけどねー」

「――それでもいいが、寝られないな……」


 レイリアナを意識して寝られそうにないなとシエルラキスは考えていたが、言葉が足りなかったようで、彼の発言に部屋の空気が一瞬止まった。彼はどうしたのかと2人を見回す。

 多大な誤解をした2人はレイリアナに無理はさせられないと協同した。


「―――えー……っと。ヴァシーリはレイリアナ様と同室ね!夜はぼくも部屋の外で見張りにつくから。交代でお願いー」

「わかった」


 シエルラキスの意見を聞かなかった事にし、エアラムザとヴァシーリは部屋割りと護衛方針を決め、淡々と荷物を整えていった。

 荷物の整理が終わるタイミングを見計らい、シエルラキスが2人を呼び止めた。


「2人共、少し話がある。レイリアナと私の魔力について共有したい。一部は知っているとは思うが、ここで全て確認した方が良いだろう……」

「はい」


 シエルラキスは自身の魔力漏出、レイリアナの魔力吸収について現在分かっている限りの情報を提示した。


 シエルラキス自身の魔力については、

 ・魔力発生を制御する事が困難で常に器から漏出している事。

 ・そもそもの魔力発生量が人よりも多い事。

 ・漏出した魔力は自身の周りに常に覆われた状態で存在している

 事。

 ・漏出魔力のせいで自分に触れようとする人間は弾かれてしまう事。

 ・魔力を吸収できるレイリアナだけが自分に触れられる事だ。


 レイリアナの魔力は更に不可解な現象が多い。

 ・元々魔力発生量は殆どなく魔法も使えなかった事。

 ・自然物やシエルラキスの漏出魔力を吸収し自分の魔力に出来る事。

 ・急激に魔力を吸収もしくは使用すると気を失ってしまう事。

 ・魔術にて自身に魔法を付与できる事。

 ・器の上限が分からない程膨大かもしれない事。

 そして、先ほど判明した、

 ・器にある魔力のほぼ全てを魔法に込められる程、魔力放出量の上限が大きい事だ。


「どれも全てイレギュラー(普通ではない現象)だ。レイリアナについては、最近わかった事が殆どで彼女自体が魔力に慣れていない。しかも、魔法を扱ったのも先程がほぼ初めてだろう……。だから、あのように暴走して倒れる事が多い。2人共注意して欲しい……」

「シエルがレイリアナ様を重宝する理由がわかったよ。あと、彼女が扱いようによってはとても危険だって事も……」


 エアラムザが深刻そうに片手で顔を覆った。もし、レイリアナの器の上限がなく無限に魔力を溜め魔法を放ったら、どれだけ広範囲に影響を及ぼすか想像出来ない。


「以上は全て最重要秘密事項だ。他言は許されない」

「はっ」

「はい」


 右手を胸に当て礼をしたヴァシーリは、考え込むようにレイリアナに視線を移した。


 魔力を取り込めるだけでなく、魔術にて魔法を付与される人間などこれまでにいただろうか……。


 数多(あまた)の疑問が研究者としてのヴァシーリに降り掛かる。レイリアナのみならずシエルラキス殿下やこの国の為にもひとつずつ解明していかなくてはと心に決めた。



「シエル、エアラムザ。私は山地へ行って下見をして来ようと思う。今日はもう実験は行えないから……素材の場所位は当たりを付けたい。戻るまで2人にレイリアナ様を頼んでいいだろうか」


 積荷の整頓が終わり、ヴァシーリは外出を申し出た。


「レイリアナは私が見ているから、エアラムザもヴァシーリも自由にして構わない」

「では、食事は部屋に運ぶように手配しておくけれど、それまでには戻るよ」

「じゃあ、ぼくもお言葉に甘えて、ちょっと街でいろいろと仕入れてくるかな」

「わかった。もしレイリアナが目覚めたら部屋を出るかもしれないが、食事までには戻る」


 エアラムザとヴァシーリは2人を残し、部屋を後にした。




 シエルラキスはレイリアナが横たわっているベッドに座り、少しでも魔力が回復するようにと片方の手で彼女の手を握り、もう一方で柔らかい銀糸を口元に寄せて祈る。

 魔力が器に全くない状態と言うのは生命の危険も伴う。器自体を正常に機能させる為にも多少なりとも魔力は必要なのだ。極わずかだが、気を失っている間も魔力を吸収出来るようだった。


 未知数だな……。


 レイリアナに関しては非常識な事ばかりだと、シエルラキスはエアラムザ達に説明して気が付いた。


 ――もし、この彼女の事が第3王妃……他国に知られでもしたら、必ず彼女を狙ってくるだろう。下手をすると戦争になる可能性すらある……。


 素材採取に王都を出てしまったが、時期尚早だったのではとシエルラキスは頭を抱える。もし、街道沿いで休憩していた時のレイリアナの回復魔法を誰かに、あまつさえ我々を害する者達に見られていたら……そう思うと背筋がゾッとした。



 ――誰かに彼女を奪われるくらいならいっそ――――!!!



 シエルラキスは非常な考えを浮かび上がらせては、彼女にそんな事は出来ない幾度となく思考を霧散させていった――――。

エアラムザもヴァシーリも2人を生暖かく見守ってます。

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