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14.魔術具作り

 初めて王城へ登城した日から、レイリアナは新たな魔術具の検討をしていた。

 あの日、ラフタラーナ第1王妃との謁見の際に王妃主催のお茶会に招待された彼女は、お茶会の日までに何とかして上流階級の方々の目に留まるような魔術具を紹介したいと思ってるのだ。

 たとえ第1王妃の後ろ盾があったとしても、これまで全く社交を行って来なかった第2王子と公爵令嬢を上流貴族が簡単に支持してくれるとは限らない。第2王子(シエルラキス)その婚約者(レイリアナ)には利用価値があると形だけでも見せつけ、こちら側に出来るだけ多く引き込む事が第3王妃派閥対応への第一歩なのだ。


 ひいては、国内での魔術の発展と研究費向上をと目論んでいた。


 邸宅に籠っていては中々良案は出ず、気分転換の為、レイリアナは青の学園の研究室に来ていた。公爵邸から青の学園までの護衛はヴァシーリの役目なので、彼女も研究室に同行し、そのままレイリアナの相談を引き受けていた。

 レイリアナは邸宅から青の学園のローブを着用しているが、ヴァシーリはしっかりと騎士団の制服を着ていた。研究室に入ると彼女は騎士の制服の上から青の学園のローブをサッと纏う。


  わたくしの護衛騎士は今日もステキね!


「ヴァシーリ。一般的な騎士は何かお守りの様な物を持ったりするのかしら?」

「特にその様な物は無かったと思う。ただ、婚約者がいる者は何か持っていた気がする」


 どんなものだったかなとヴァシーリが顎に手を当てながら首を傾げた。


 研究室内ではこれまで通り接して欲しいと言うレイリアナの懇願に、ヴァシーリは快諾した。このローブを纏っている限り、研究室内で最も敬うべきは研究自体だとレイリアナは告げたのだ。

 青の学園の制服に該当する長いローブは、ローブの中がどのような服装(身分)であっても、研究者としている限り平等である事を意味している。この研究室の室長はその考えを尊重していた――。


「一般にあるものではなかった筈。手作りか何かだね」

「では、その『一般』を作ると言うのはどうでしょう?」


 赤の学園へ入学する貴族子息は多い。その子息の数だけ家族や婚約者・恋人がいるのだ。きっと需要はある筈とレイリアナは息巻く。


「まずは、防御系かなぁと思ったのですが、騎士としての意見は何かありますか?」

「ああ、それなら、回復系の物は重宝するかもしれない。傷が絶えない者もいるからね。防御系の自動発動系(受動的)な魔術具よりは、野営地や休息地で使える手動発動系(能動的)な物が良いかもしれない」

「確かに手動発動にした方が術式が簡単ですね! では、発動させる魔法は回復魔法にしましょう」


 新たに作成する魔術具の案がかなり固まってきた。

 以前からレイリアナは戦場に赴く事のある兄の為に、騎士に贈る様な魔術具を考えていた。そのひとつが自動防御魔法付与の魔術具だったが、戦闘中に多くの魔力をどの様に供給するかの課題が解決せず、実用化されていなかった。


  ヴァシーリが研究員として在籍していてくれて本当に良かった!!


 騎士としての経験と研究員としての知識を持つヴァシーリは、レイリアナにとってとても有益な存在だった。


「ヴァシーリは人の魔法を魔術具に取り込めるかご存じですか?」

「人の魔法の魔術具か……聞いた事がないな。それなら魔具で良いのでは? ……ああ、そうすると回数が限られるか……」


『魔具』は【媒体等に人の魔法を込めた道具】である。作成は容易で、基本的に使いきりの道具となる。下流貴族などが資金調達の為に作成する事が多く、平民市場でも比較的多く流通している。

『魔術具』は【魔術式によって他から吸収した魔力で魔法を発動させる道具】だ。よって、対象となる物質がある限り発動は無限となる。ただ、自然物等から吸収する魔力量は人のそれよりも圧倒的に少ないのが現状だった。


「何か贈る側の個性を出せたらと思うのですが……」

「ああ、個性……。恋人や郷愁を抱く者達が求める物か。それこそ、シエルラキス殿下に伺ったら良いのでは?」

「――! ……検討してみます……」


 恋人という言葉とシエルラキスの名前が同時に並べられて、レイリアナは顔を赤くした。それを見てヴァシーリはくすっと微笑んだ。


 ――恋人ではないけれど…殿下はどう思ってらっしゃるのかしら……。


 レイリアナは自分達の婚約はただの協力関係だと自分自身に思い聞かせている。この婚約は王位争いの為に仕組まれた計画のひとつだと。


「個性を出す部分は追加機能としましょう。そうすれば、その機能で優越感を持つことができますよね。特に上流貴族にとっては――」

「ああ、確かに。そういう個別対応(オーダーメイド)が好きだからね」

「これで作成するもののイメージが固まりましたね! ヴァシーリのお陰です。ありがとう」

「お役に立てて嬉しいです」


 ヴァシーリは目を細めて微笑んだ。






「シエルラキス殿下…。遠征中に誰かが恋しくなった時、どうされますか……?」

「――ん?」


 レイリアナはヴァシーリに言われた通りシエルラキスに意見を聞こうと、彼の執務室までやってきていた。シエルラキスは休憩にすると言って、執務室の奥に続いている休憩用の別室へ彼女を連れていき、寛いでいたところだった。

 長ソファに座ったレイリアナは、隣に座っているシエルラキスを直視出来ず、少し視線を落とし恥ずかしそうに質問する。

 シエルラキスは、レイリアナの全く要領を得ない質問の意図を汲み取れずにいた。


「えーっと……わたくしは今新しい魔術具を思案中でして……。家族や親しい間柄の者が、戦場へ向かう騎士に贈る為の回復魔法を付与したお守りの様な魔術具で。それに合う機能についてシエルラキス殿下にお伺いしたかったのです」


 しどろもどろな説明に、自分でも何を言っているのかわからなくなってきたレイリアナはどんどん早口になってしまっていた。


 あああ……わたくし、全く説明が出来ていない……っ!


「それに合うとは……?」

「遠方で会えない家族や、こ……恋人を思い出している時に欲しい機能と言いますか……」


 レイリアナは自分で質問しているのにも関わらず、顔を耳まで赤くしながら話していた。シエルラキスはそれを見て可愛いなぁと思いながら、少し揶揄う様に質問する。


「私が遠征先でレイリアナを思い出す時に欲しい物って事?」

「あ、いや……。わ、わたくしではなく……。……お慕いしている人に……」

「……違うの?」

「え……?」


 シエルラキスは、あわあわと焦るレイリアナをもっと揶揄いたくなるが、彼女が真剣に悩んでいる様なので、真剣に答える事にした。


「――レイリアナに触れたいかな……」

「……それは、難しい――」


 真っ赤になったままのレイリアナに、ちゅっと音を立ててキスをする。何度も唇を重ね、ふとシエルラキスが体を離し、じっとレイリアナを見つめる。


「触れられないなら、姿を見たい――。見るのも叶わないなら、声を聴きたい――。私の名前を呼んで欲しい」


 クリアブルーの瞳がレイリアナを見つめたまま動かない。


「――シエルラキス様……」


 名前を囁いたレイリアナにシエルラキスはもう一度口付けをする。


「心を寄せている者の声を聴けたら、それだけで心強いよ」

「……はい」


 大変参考になりましたとレイリアナが伝えると、シエルラキスは彼女を抱きしめた。




 ――わたくしは、シエル様を好きになっても良いのでしょうか……


 レイリアナは少し俯きながら、シエルラキスの言葉に喜んでしまう自分を恨めしく思った。この協力関係が終わった後の事を考えると、決して思いを寄せてはいけないのに――と。


魔術具作りが始まりました。ヴァシーリ大好きレイリアナです。

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