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13.登城初日

 

 レイリアナは専属の護衛騎士が伝えられてから数日後、王城へ上がる事になった。


「初日なので、私もご一緒させて頂きますね」


 公爵邸宅と王城までの道程はヴァシーリが護衛に着くことになっているが、初めて登城する今日は、今後の護衛の立ち回りの指示をする為にエアラムザも同行している。王城内の案内を受けるため、帰るまでずっと王城にいますとヴァシーリはレイリアナに伝えた。


「エアラムザ様、ヴァシーリ。これから宜しくお願い致します」


 レイリアナが挨拶をすると、エアラムザとお呼びくださいねと彼がいつもの様にニコニコと伝えた。

 ヴァシーリはいつもの青の学園のローブではなく、騎士団の制服を着ていた。肩より少し長い髪は頭の高い位置でひとつに結び、長い前髪は斜めに編み込みされている。それを見てレイリアナは、感嘆を漏らす。


 いつもキレイだと思っていたけれど、今日はまるで美少年のよう……。


「私とヴァシーリは王城までの道すがら打ち合わせがありますので、レイリアナ様はこちらでお寛ぎ下さいね」


 レイリアナはヴァシーリのエスコートで馬車に侍女のサラと乗車した。

 ヴァシーリとエアラムザはそれぞれの馬に騎乗し、馬車の後ろに付くと、馬車は王城に向かって進み始める。


 頑張らなくては……!


 客車の窓から外を見ながら、レイリアナはグッと手を握り気合いを入れていた。






「レイリアナ様。まずはシエルラキス殿下の執務室をご案内しますね」


 王城に着くと、エアラムザは早々にシエルラキスの部屋へと案内を申し出た。サラはレイリアナの王城での居室を整える為、別に案内された。


「陛下。お連れ致しました」

「入れ」


 エアラムザが重厚な扉を開けると、執務机で書類に向かっていたシエルラキスが手を止め、立ち上がった。執務室には使用人や護衛が何名かいる。


「ごきげんよう。シエルラキス殿下。お招きありがとうございます」


 レイリアナが小さく礼をし、シエルラキスが短くそれを返すと、彼女以外部屋から下がる様命じた。皆、一様に作業を止め、ぞろぞろと退出して行く。レイリアナは困惑した顔でその様子を見ていた。


 え? なぜ皆さんを……。ご挨拶をと思っていたのに――。


 最後に執務室を出ようとしたエアラムザが部屋を振り返り、念の為と苦言を呈す。


「殿下。本日はレイリアナ様の予定が詰まっておりますので、()()()お願いします。時間になりましたら無礼ながらお知らせに上がります」

「わかっている……」




 パタンと扉が閉まると、シエルラキスは無表情のまま一気にレイリアナに詰め寄った。痛い程強く抱き寄せたかと思うと、あっという間に彼女の唇を奪っていた。

 貪られる様な口付けと魔力の急激な供給に、レイリアナは息をするのがやっとで、シエルラキスの胸に必死にしがみついていた。


「っふ……く……んっ――」


 レイリアナが空気を欲して息をする度、吐息が漏れた。力が抜けそうになるのを必死で堪えていると、シエルラキスは急に唇を離し、銀色の柔らかな髪に顔を埋めた。


「…………すまない……」

「――シエルラキス殿下……?」


 肩で息を整えながら、シエルラキスは今にも消え入りそうな声で謝罪した。

 レイリアナは薄いピンク色の瞳を潤ませながら心配そうに彼を見つめる。


「わたしくは大丈夫……のようです。それよりも殿下がお辛そうで……」

「この所、魔力を放出する機会がほとんど取れなかったから……。助かったよ、レイリー。……だいぶ無理をさせてしまった……」


 ――こんなに辛そうなシエル様は初めて…………。


 婚約が発表されるまでは、シエルラキスは魔獣狩りや戦場を飛び回り、流出した魔力を発散させていた。しかし、婚約発表があってからずっと公務に追われていた為、魔力が滞り、今朝気付いた頃には限界だったと告げた。

 彼の漏出した魔力は、まるで氷の鎧の様に冷たく重く全身に纏わり付いていたのだ。


 ――だいぶ体が軽くなった。気付けばひたすらレイリアナを求めていた……。


「貴方の存在に甘え過ぎているな……」

「……あ、甘えて下さって構いません……。だから……わたくしを頼って下さい……」


 レイリアナはシエルラキスの背中にぎこちなく腕を回し、そっと触れるだけのキスをした。

 暫く抱き締めると、凍った(魔力)を溶かす様に、ゆっくりと彼女の体へと流れていった――。






 エアラムザは宣言通りに執務室で共に仕事をしていた者達と共に現れ、彼等にレイリアナを紹介していった。

 シエルラキスは恨めしそうに見ていたが、エアラムザは気にする様子もなく、淡々と次の予定へとレイリアナを促す。


「エアラムザ、ヴァシーリ。レイリアナを頼んだ」

「お任せ下さい」


 シエルラキスは護衛2人にレイリアナを託すと、残された部屋で軽くなった体にレイリアナの余韻を感じ、再び執務をこなしていった。






「この後、ラフタラーナ第1王妃陛下に謁見する事になっております」


 レイリアナへ登城の日程を知らせた際に、当日のスケジュールも連絡されていた。第1王妃(ラフタラーナ)の謁見は、その中のひとつだ。

 執務室があった行政区を越え、城内の更に奥へと進んでいった。


「こちらでお待ち下さい」


 エアラムザは王族居住区付近のサロンへとレイリアナを案内した。エアラムザはラフタラーナにレイリアナの到着を報せるため、席を外した。

 室内は落ち着いた上品なデザインで統一されていた。レイリアナは中央の丸テーブルに着き、緊張しながらラフタラーナを待った。


「ヴァシーリ……いますか? わたくし、緊張し過ぎて魔術基礎式を言いたくなってきました……。訳の分からない話をし始めたら合図して下さい……」


 黙っていたら緊張で押し潰されそうと、レイリアナは後ろで控えていたヴァシーリに声を掛けた。


「私は常にレイリアナ様の後ろにおります。術式を唱えるだけで緊張が解れるならお付き合いしますよ。ああ、応用式でも良いですね」

「ヴァシーリ! 流石ですっ! ヴァシーリがいればどこでも行けそうです! では、植物魔力抽出式からにしましょう……!」


 2人は本気で魔術式を言い合い始めた。だいぶ盛り上がり、レイリアナは緊張のきの字も感じなくなった。

 扉のノック音と共にエアラムザが入りますねと言って入室した時は、言い合いが途切れたが、再び術式の暗唱が続いた。


「…………レイリアナ様……。ヴァシーリまで一体……」

「レイリアナ様の緊張を解す為に魔術基礎式の暗唱をしているのだ。エアラムザもどうだ?」

「…………ぼくはいい……」


 エアラムザは最高に呆れた顔で、素のままぼそっと呟いた。研究員2人のリラックスのツボが全く理解出来ず、遠い目をした。


「それより、もうすぐラフタラーナ王妃陛下がいらっしゃいます」

「――また緊張してきました……」

「次は応用式にしますか?」

「…………もうそこから離れなよ……」


 エアラムザが繕うのも面倒臭くなりがっくりとしていると、ヴァシーリがクスッと笑って、冗談だと彼の肩を軽く叩いた。






 その後間もなくラフタラーナがやって来るが、早々にレイリアナ以外人払いをし、サロンに2人きりの密談となった。


 暫くしてラフタラーナが部屋を去り、エアラムザとヴァシーリが入室すると、取り残されたレイリアナは窓際で空を眺めていた。


「レイリアナ様……」


 ヴァシーリが声を掛けると、レイリアナはハッとした様に肩を震わせた。そして、ヴァシーリを振り返ると、ラフタラーナ王妃陛下主催のお茶会に招待されましたよと笑顔で答えた。


「さ、エアラムザ。次の予定に参りましょう。公爵邸へ戻る前にシエルラキス殿下にお会いしたいです。殿下のお時間は大丈夫かしら」

「はい。本日殿下はほとんど執務を行っていますので、時間は大丈夫です。レイリアナ様がお伺いすれば殿下も喜ばれるでしょう。この後は王族教育のみです」

「では、サッと終わらせてしまいましょう」




 この後、レイリアナは宣言通りに前倒しで予定をこなした。とは言っても、王族教育の座学は既に習っていた事が中心だったので直ぐに終わったのだった。

 レイリアナは、シエルラキスの執務室へ顔を出してから帰ったが、第1王妃謁見以降終始上の空だなと一緒に下城したヴァシーリは感じていた。


魔術基礎式は意外とたくさんあります。エアラムザはつねに魔術の道へ勧誘されてます。綺麗な二人に囲まれて良いですね。

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