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12.護衛騎士

 

 王都の公爵邸へ戻ったレイリアナは、2・3日置きに王城から任命されてやってきた教師から王族教育を受けていた。

 王族教育の内容は、ラトゥリーティア王国や周辺国の歴史とその王族の名前・国交情勢・一般教養・実技・社交……など多岐に渡っている。公爵邸では主に歴史と一般教養を習っていた。それに関しては、白の学園で習う事に少し色を付けた程度だったので、レイリアナは難なく合格となった。

 実技や社交は王城で行う為、レイリアナ専属の護衛騎士が決まってから王城に赴く事になっている。


 王城から教師が来ない日は邸宅に籠り、魔術具の試作に勤しんでいる。つまり、ほとんど邸宅から出ていなかった。



 そんな中、ヴァシーリからの要請があり、レイリアナは久しぶりに青の学園に向かった。社交界へデビューしてから来ていなかったので、1か月振りだった。


「おはようございます……」


 研究室にはいつも早くからいるヴァシーリはおろか、室長すらも居ない。楽しみすぎて早く来てしまったかなとレイリアナは首を傾げるも、自席で広げた研究成果を満足そうに眺めた。


 以前、レイリアナ自身が魔力を吸収して失敗に終わった実験を、再度行っていた。術式は変えずに、あの日暴走した魔術陣と同じもので行った実験は成功したのだ。


 前回の失敗の原因は、シエルラキスの大量の魔力を引っ張ってきた事にあるとした。

 魔術は広範囲から魔力を得る際に、魔力が多い物を優先する性質がある。しかし、範囲内に大量の魔力を持つ物質――今回はシエルラキス――がある場合、その物質のみから魔力を吸い上げ術式に一気に流れる。その時に、流れに引っ張られて必要以上の魔力が術式に供給される事がこの実験で証明された。


 失敗からの副産物だわ!


 室長の研究にも役に立つといいなと思いながら、ヴァシーリが到着するまで新しい魔術具の術式の試算を始めた。




「レイリアナ。おはよう。今日は来てくれてありがとう」


 ヴァシーリが挨拶と共に研究室へ入ってきた。レイリアナは挨拶を返すと、早速実験について報告しようとするが――。


「レイリアナ!」


 研究室に入るヴァシーリの後ろから聞き慣れた声が飛び込んできた。


「シエルラキス殿下――!」


 レイリアナは驚いてぱちぱちと瞬きをする。そんな彼女を見るや否や、研究室に入ってきたシエルラキスはぎゅっと抱きついた。

 隣りにいたヴァシーリは目を見開いた。


 ――ひ、人前なのにっ!


「会いたかったよ。レイリアナ」

「殿下っ! 何故ここに……?」


 二人は夜会の翌日から会っていなかった。レイリアナが王子を無理やり引き剥がす訳にもいかずに、たじろいでいると、更に別の声が制止を促した。


「シエルラキス殿下。そういうのは後でやって下さい」

「この面々なら良いだろう?」

「そういう問題ではありません。レイリアナ様がお困りです」


 王子に苦言を呈していたのは、彼の側近のエアラムザだった。シエルラキスは渋々レイリアナから離れる。


「レイリアナ様。私の(あるじ)が失礼致しました」

「いいえ。エアラムザ様もお元気そうでなによりです」


 エアラムザはにこにこと挨拶をすると、急の訪問を詫びた。


「シエルラキス殿下。本日はどういったご要件だったのでしょう?ご用命があれば、わたしくから参りますのに……」

「今日は貴方の護衛騎士について伝えに来たのだよ。そのついでに青の学園も見たくてね」

「決まったのですね」


 シエルラキスはヴァシーリとエアラムザを自身の横に呼び付けた。


「レイリアナの護衛となる、エアラムザとヴァシーリだ。この二人なら貴方も気安いだろう?」

「ま、待ってください! ヴァシーリですか? 彼女は青の学園の研究員ですよ!? わたくしの相談相手なのです。彼女は優秀な研究員で……」


 予想外の任命にレイリアナは困惑した。ヴァシーリは青の学園の研究員だ。なぜ護衛()()としての任命なのか分からなかった。


「ヴァシーリは赤の学園を卒業し、正式に騎士となっている」

「……赤の……?」


 それでも……と引き下がらないレイリアナに、自分が説明しますとヴァシーリが申し出た。


 彼女は白の学園を卒業した後、騎士を志し赤の学園へ入学した。騎士を目指す者のほとんどは魔力が多く、そこでヴァシーリは他との圧倒的な魔力差を思い知る事になる。多くは諦めるが、彼女は魔術というの希望を見出したと言う。


「その時魔術について相談したのが、ここの研究室の室長でした。定期的に話をするうちに、この研究室に来ないかと誘われたのです」


 実際は、ヴァシーリの実技遠征の度に素材採集を頼まれていたとレイリアナは後に知る。

 ヴァシーリは、赤の学園在籍中に青の学園へ入学し、魔術研究室に入室したという。魔術を始めたのは騎士として強くなる為だったと少し俯きながら話した。


「ヴァシーリは良いのですか? その……わたくしの護衛騎士などと……」

「はい。騎士として生きるチャンスを頂けただけでなく、レイリアナ()と言う大切な方の護衛が出来るのは誉れです」


 いつもの涼し気な研究員ヴァシーリではなく、そこには誇りを持った騎士ヴァシーリの姿があった。


「ありがとう、ヴァシーリ!」


 レイリアナはヴァシーリの手を取り、これからもよろしくねと挨拶をした。


「あ、でもヴァシーリの研究は…………」

「それなら心配いらない」


 2人の話し合いが落ち着いたのを見て、シエルラキスが続けた。


「ヴァシーリには青の学園内と公爵邸から王城への行き帰りについて任せる予定だ。研究自体も本人が望めば続けても構わない。むしろ、レイリアナだけだと危なっかしいので、同じ研究室に在籍し続けて欲しい位だ」

「危なっかしいですか……!?」

「殿下。ありがとう存じます」


 ヴァシーリが右手を胸に当て感謝を告げた。レイリアナは少し腑に落ちない顔をしつつ、シエルラキスを見た。シエルラキスはにっと目を細めて笑った。


 ――私は運が良いのかもしれないな……。騎士として仕えるのがこの2人で良かった。


 2人を微笑ましく見ながら、ヴァシーリが片膝を付き宣誓する。


「トゥルマリー伯爵子女ヴァシーリ・トゥルマリーがレイリアナ・サクリフォス様の騎士として忠誠を誓う事をお許し下さい」

(あるじ)として貴方の忠誠を受け入れます……!」


 レイリアナは生まれて初めて忠誠を誓ってもらった事に感動し、ヴァシーリに嬉々としてそれを伝えている。


「楽しそうな所悪いが、エアラムザも紹介させて欲しい。私の側近との兼任だが、レイリアナが王城にいる間はエアラムザが中心となって護衛する。ヴァシーリも暫くはエアラムザに付いてコレのやり方に慣れて欲しい」

「はい。シエルラキス殿下」


 ヴァシーリは頷くと、レイリアナの後ろに下がった。そして、シエルラキスの後ろで控えていたエアラムザが1歩前へ出て、胸に右手を当て礼をする。


「レイリアナ様、改めましてスラグディ伯爵子息エアラムザ・スラグディと申します」

「エアラムザ様。兼任で大変かとは存じますがよろしくお願いいたします」

「王城での護衛はお任せ下さい。……ですが、私の忠誠はシエルラキス殿下の物なので、差し上げられないのが心苦しいです」


 エアラムザはニッコリと隙のない笑顔を作った。


「ひと言多いぞ、ラムザ」

「失礼致しました」


 シエルラキスは呆れた様な顔でエアラムザを(たしな)めた。エアラムザはあまり反省していなさそうな顔をしてシエルラキスの後ろへ控えた。


 ――エアラムザ様は掴み所がないと思っていたけど、シエル様を凄くお慕いしているのかもしれないわ……!


 これまでのエアラムザの行動が少し可愛く思え、レイリアナはくすっと笑った。そして、気を遣ってこの2人を護衛騎士に選んでくれたシエルラキスに感謝した。


シエル大好きラムザ。シエルとラムザのエピソードもあるので、そのうち出したいです。

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