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11.テラスで朝食を

 

「失礼致します。シエルラキス殿下。レイリアナ様がお目覚めになりました――」

「わかった……」


 王城で執務をこなしてたシエルラキスは、エアラムザからの報告を聞くと直ぐに立ち上がった。

 夜会の後、客室で気を失ってしまったレイリアナが目覚めるのを暫く待っていたが、目を覚ます気配がなかった為、昨夜は彼女を侍女達に任せ、シエルラキスは夜遅くに自室に戻った。その為、彼女の安否が気になっていた。


「レイリアナ様のご準備が出来次第、殿下が伺うと侍女に伝えております。……あちらのご準備が終わるまで暫くお待ち下さい……」

「――ああ……」

「少し落ち着いて下さい。殿下。レイリアナ様のお体はいつも通りだと伺っております」


 エアラムザを睨むと、シエルラキスは先程まで座っていた執務用の椅子ではなく、入口手前にある応接用の長ソファにドサッと腰掛けた。


「殿下。まだ書類が残っている様ですが……」

「いい。今日はもう充分だろう?」


 昨夜、レイリアナが使う客室から自室に戻ったシエルラキスは、まったく寝付けずに夜着のまま部屋を出て、執務室で不在の間に溜めた書類を黙々と処理し続けていた。

 明け方に着替えると言って自室に戻りそのまま仮眠を取っていたが、今朝も早くからこちらに来ていた。


 ――昨日、ぜーったい、公女と何かあったんだろうなぁ。


 エアラムザは、その件にはなるべく触れない様にと心に決める。ただ、機会があれば、レイリアナ辺りから探りを入れようと画策していた。


「殿下。お食事は如何なさいますか?」

「レイリアナもまだならあちらで摂る」

「はい。直ぐに準備させます」


 シエルラキスはそれまで少し休むと言って、ソファに肢体を投げ出し瞼を閉じた。






 シエルラキスから一緒に朝食を摂りたいと連絡を受けたレイリアナは、侍女達に指示して大慌てで準備を進めていた。


 ――シエル様とまたこの部屋(ここ)で顔を合わすなんて……。


 叫びたい程恥ずかしいのにと昨夜の出来事を思い出し、顔を赤くした。レイリアナはシエルラキスに少し挨拶をしたら直ぐに帰ろうと考えていたのだ。


「サラ。この部屋で食事をとるのかしら……」

「その様ですが、ご希望がございますか?別の場所をと殿下にお伝えしましょうか」

「いえ……でも、もう少し何処か……」


 サラは部屋を見回すと、柔らかな光が飛び込んできた。


「レイリアナ様。テラスは如何でしょう?」

「いいわね!サラ、ありがとう」


 ――これで恥ずかしさも和らぐかしら……。


 レイリアナはサラに感謝を伝え、緊張しながらシエルラキスの到着を待った。




「レイリアナ。入るよ」


 迎えを出すと、直ぐにやってきたシエルラキスの声を聞き、レイリアナは扉越しでも緊張してしまった。


「ごきげんよう。シエルラキス殿下……」


 シエルラキスが部屋に入ると、ほのかに赤い顔をしたレイリアナが迎え入れた。それを見て、シエルラキスは昨夜の出来事を思い出す。


 ――困ったな……。


 また縋られる程抱きしめたいと思ってしまう。

 挨拶を交わすと、レイリアナが体を小さくして呟いた。


「殿下……。昨夜、わたくし……またやってしまいました……」

「気にする事はないよ。それよりも体は?」


 問題ありませんと小さく頷くも、すっかり萎縮しているレイリアナの髪をシエルラキスはゆっくりと撫でる。


「アレについては、少し対策を講じる必要があるね」

「切に願います……!」


 レイリアナは身を乗り出し、毎回同じ様に倒れシエルラキスに迷惑をかける訳にはいかないと伝える。

 シエルラキスはそうだねと同意し、レイリアナの耳元に唇を寄せ、周りで控えている使用人や侍女達に聞こえない様そっと囁く。


「いつまでも魔力に酔い、倒れられては敵わないからね。まだ昨夜の続きがあるのだから――」

「――!」


 ――つ、続き……って!?


 レイリアナは先程よりも紅潮した顔で目を白黒させながら、シエルラキスを見た。

 シエルラキスはにっと悪戯っぽく笑い、目を細めると、両手でレイリアナの両頬を包み込み額にキスを落とし、食事にしようと伝えた。






 穏やかな日差しの元、朝食を終え、テラスに置いている長椅子(ベンチ)に二人きりで寛ぎながら、これからの事を話をしていた。


「――王城に居室を用意しているのに、邸宅から通うのか……」

「ダメでしょうか……?」

「いや。近くにいればすぐに会えるなと思っていただけだよ」


 椅子にもたれかかり、頬杖をつきながらシエルラキスは目線を庭園へ向けながら目を細めて呟いた。少し拗ねている様で可愛いなとレイリアナはくすくすと笑った。


 ――緊張してたのが嘘みたい。


 先程まで緊張していたのが噓のように穏やかな時間に、今度は帰りたくないなとレイリアナは思った。


「……少し()を作った方が良いかと思いまして」

「あぁ、第三王妃(あれら)の事か」


 第三王妃に対して完全に守るのではなく、付け入れられそうな隙を作ってそちらに誘い込んだ方が周りも対応し易いだろうなと仕方なくシエルラキスも賛同した。シエルラキス自身の目的の為にレイリアナを危険に晒さないといけないのだ。


「わたくし……役立ちそうな魔術具の作成もしておりまして、今はまだ自室の方が都合が良いと言いますか…………」

「本音はそれだな」


 苦笑いをするシエルラキスを他所に、完成したら一番にお渡ししますねとレイリアナは笑顔ではぐらかした。


「レイリアナ。貴方の魔力の事だが……あまりに魔力を吸収しすぎて(うつわ)の許容量を超えないかが心配だ。魔法を一から教えるから、しっかり使えるようになって欲しい」

「わたくしがついに魔法を……!」


 感動するレイリアナにシエルラキスが微笑む。魔力とそれの行使である魔法に慣れていけば意識を失う事などはないのではと考えたのだ。魔法を使用すれば魔力も消費するので、その分またシエルラキスの余剰魔力を吸収出来る――筈だ。


 ――通常、自身の意思で魔力の発生を制御出来る。魔力の発生(それ)の最大値を『発生量』と呼ぶ事もある。レイリアナはこの発生量がほとんどなく、シエルラキスはシエルラキスで発生量が膨大でかつ、発生の制御が効かない。ある程度までは抑えられるが、一定量は発生し続けてしまう。壊れた蛇口だ。

 そして『器』とは、自身で発生した魔力を貯めておく入れ物のイメージだ。この器に貯まった魔力を使い、魔法を発動させる。これにも個人差があり、器が小さい者は一度に消費する魔力が大きい魔法を使えない。また、器がいっぱいになると魔力の発生も止まるのだが、シエルラキスは器が満たされても発生が止まらない。常に漏出しているのだ。そして、レイリアナに至っては器の許容量は未知数の上、他から発生した魔力を受け入れる事が出来る稀有な存在だった――。

 二人とも魔力に関してイレギュラーな事が多い。色々と試すべきだろうとシエルラキスは考えていた。


「――少し先になると思うが、国王陛下と第一王妃陛下との会食が予定されている。貴方の父上のサクリフォス公も出席する。まあ、大方婚約についての話だ。加えるなら、第三王妃(あれら)への対応といったところか……」

「陛下と……」


 シエルラキスは足を組み、業務連絡の様に国王との予定を事も無さげに告げる。


 ――シエル様は王子なのね……。


 急に王族と婚約した実感が湧いてきたレイリアナは、きゅっと手を握りしめた。


「サクリフォス公との調整があるから、すぐにと言う訳ではないよ。その前に第三王妃(あれら)から接触があるかもしれないが……」

「――わかりました」


 レイリアナは意を決した様に顔を上げ、シエルラキスをまっすぐ見て答えた。


「シエル様の目的は必ず達成させましょう!貴方の大切なモノはわたくしが守りますから」


 守られているだけの公女ではないのだと言うようにレイリアナは胸を張る。

 それを見たシエルラキスは長椅子にもたれかけていた体を起こすと、彼女をぎゅっと抱き締め、瞼に唇を落とした。

 急に入ってきた魔力に、レイリアナは小さく震える。


 ――本当に困った……。


 体を離すと薄いピンク色の瞳の様にレイリアナの頬が赤らんでいた。何故こんなにも制御が効かなくなってしまうのだろうかとシエルラキスは苦笑した。


「私の婚約者は頼もしいな。――だけど、レイリー。貴方の事は私が守るよ」


 シエルラキスは銀色の長く柔らかな髪を撫で、レイリアナに軽く口付けをした。にこっと微笑むと、シエルラキスは倒れ込みレイリアナの膝に頭を乗せる。


「――!?」


 レイリアナは行き場の無い両手を軽く上げ、呆然としている。


「――その前に、ここで少し休ませて…………」


 シエルラキスは有無を言わさず仰向けになり、クリアブルーの瞳を閉じた。

 レイリアナは濃紺の髪にそっと手を伸ばし、愛おしそうにサラサラと撫でる。既に寝入ってしまい、彼から反応はない。


「シエル様……おやすみなさい」



 心地の良い風が吹き、2人の髪をなびかせると、レイリアナは空を仰ぐ。シエルラキスの瞳と同じ色の空に、彼の束の間の安息を願った――。


休息回の様になりました。ひたすらいちゃついて欲しいです。

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