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9.もう一つの条件


 ホールの扉が開き、私とシエルは手を取りホールの中心へ進んでいく。


 それを見た人々がざわめき立つ。遅れてやって来たからだろうかと考えるが、周りから聞こえる声を考えるとどうも違う様だ。


 隣にいる方をご存知――?

 ――『氷の騎士』様よね――。

 『氷の騎士』は、社交界には現れないのでは――。

 ――第1王子が居ないというのに――。


 飛び交う様々な話が全て私達の事なのは分かった。でも、何故こんなにも騒がれているのか分からずシエルを見る。


 ――氷の騎士?


 シエルは冷やかな顔で前を向いたまま、感情が全く読み取れない。

 ホールの中心に着く頃に、丁度音楽が流れ始めた。


「一曲宜しいですか?」

「はい……」


 シエルは丁寧に礼をして私をエスコートする。ダンスが始まると、入場の時とは全く違いとても柔らかな笑顔でこちらを見つめている。


「シエル様……先日は失態をお見せしてしまい、大変申し訳ありません…」

「気にする事はありません。貴方の事を知れて嬉しく思いましたから」


 目を細め笑う顔はいつものシエルだ。


「――あの、大変不躾なのですが……シエル様のお名前を伺っても宜しいでしょうか……」


 意を決してシエルが何者なのかを問う。シエルは苦笑し、私の耳元に唇を寄せる。


「シエル……。シエルラキス・ラトゥリーティア。それが私の名だよ。レイリアナ」


 ――シエルラキス・ラトゥリーティア……。


 それは聞き覚えのある名。ひとつタイミングを遅らせてからレイリーは目を見開いた。


 この国の名はラトゥリーティア王国。



 ――王国の名を持つ者――。



「――王子、殿……下…………?」

「……私が何者でも条件は変わらないよ。レイリアナ。貴方は今夜、私が告げることを全て受け入れなくてはいけない――」


 シエルが綺麗な微笑みにほんの少し影を落とし、それが最後の条件だと告げると、ホール内の音楽が止んだ。

 ふと先程謝罪した内容を思い出す。


 わたくしは、王子相手になんて事を……!!


 撤回を求め話し掛けようとした時、曲が終わるのを待っていたのか、すかさず元同研究室の侯爵令嬢が何人か引き連れてシエルに近寄る。前回の夜会でも噂を流していた令嬢だ。


「ごきげんよう。シエルラキス王子殿下。わたくしジョカリタ・ビドテーノと申します。是非1曲ご一緒させて下さいませ」

「ジョカリタ嬢。私は彼女の盾としてここにいるのだ。故に誰の誘いも受けない」


 ――ジョカリタって名前だったのね……。


 彼女はダンスの申し入れをするも丁重に断られてたが、食い下がらない上に、私を横目で見て悪態をついた。


「この様な()()()()()()()()()()()様では役不足ですわ!是非わたくしと……」


 ジョカリタが私を引き剥がし、強引にシエルへ寄り添おうと手を伸ばした瞬間、シエルは鋭い目つきで彼女の手を払った。わざわざ手を払ったのは、魔力で弾かれた様に見せない為だろう――。彼女は体勢を崩すとその場に倒れ込んだ。

 私は咄嗟に手を差し伸べたけれど、その手はシエルによって塞がれた。


「妻となる者以外、羽虫でさえ私に触れることは許されない」


 シエルが令嬢を見下ろし冷たく言い放つと、彼の足元からピキッっと剣の様な形の氷の結晶が彼女に向けていくつも生えていった。

 令嬢はひぃっと声を上げると、彼女を囲んでいた者達に助けられ一目散にその場を離れた。シエルは彼女が引いたのを確認すると発生させた氷の結晶をふっと一瞬で砕けさせた。私は砕け散った氷を見つめながら、先程シエルが発した言葉を考えていた。


 ――妻となるもの……?


 床からゆっくりとシエルに目線を移すと、シエルは私の前に跪いた。それを見て、ジョカリタの一件から私達を囲んでいた人だかりが更に騒然とする。

 気にする様子もなくシエルは続けた。


「レイリアナ・サクリフォス公爵令嬢。ラトゥリーティア王国が第2王子シエルラキス・ラトゥリーティアの妻となり、共にこの国を支えて欲しい」


 シエルの言葉にホールはしんと静まり返った。


 ――結婚(これ)が、シエル様の条件なの……?


 シエルが一体何を考えているのかわからないけれど、私が要求されているのは肯定の言葉のみ、だ。


「――喜んでお受け致します」


 動揺を笑顔で隠し、差し出された手を取り求婚を受け入れると、ホールに再びどよめきが起こる。そのどよめきは次第に祝福の言葉となり2人を包んだ。

 シエルは立ち上がり、私を軽く抱き寄せると周りに気付かれない様に耳元で囁く。


「この間の告白の返事(こたえ)だよ。レイリアナ……」

「殿下……っ!」


 私は耳まで熱くなるのを感じて、恥ずかしさを紛らわすため両手で顔を覆う。

 

 シエルはそんな私を目を細めて慈しむ様に見ると、顔を覆っていた私の手の片方を優しく捉え、それに恭しく口付ける。

 その目も口元もいつも通り悪戯っぽく微笑んでいた。






その後、入場してきた国王からサクリフォス公爵令嬢とシエルラキス第2王子の婚約が正式に発表された。


 会場内の淑女達は劇的な告白と婚約発表に沸き立ったが、一部では第1王子不在中での元宰相の公爵令嬢との婚約であり、王位継承権はどうなるのかと言う話が聞こえる。

 王座の横で微笑む第1王妃と第3王妃は、笑顔の下で何を考えているのか全くわからなかった。


 ただ、苦虫を噛み潰したような顔をしたジョカリタが私を睨みつけていた――。


シエルの正体が明かされたところで、一人称視点は終わります。次回から三人称視点メインになりますが、どうぞよろしくお願いします。次は夜会の夜です。

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