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名のない物語  作者: 夜桜
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第二章…「クラスメイト」1

模擬戦が終わった後、散策をするつもりだったが説明をしている途中に登校時間になってしまい、そのままアキラとこさめは目の前を歩く担任の後を歩く。

外を見つめながら歩いていたアキラに、振り向くことなく椎菜(しいな)が口を開く。

声的には笑っているのか、先程よりも声のトーンが高い。


「私のクラスは数人の問題児がいますが、それ以外の生徒たちは仲の良いクラスですので気楽にしてください」


「そうなんですね、わかり………ま…した」


最初は笑みで答えていたアキラだったが、とある教室の前に見覚えのある少女を見た途端に笑みが消えていく。

アキラの反応に対して椎菜は、その少女に声を普通にかける。


「あ、もう来ていたんですね」


「あら、椎菜先生……おはようございます」


声をかけられた少女は大人びた笑みを作りながら、椎菜を見たのではなくその後ろにいたアキラを見ながら答える。


「アキラくん、こちらも教室転入する____」


「何をしているんですか?サクノ姉さん」


椎菜が紹介する前にアキラはジト目で目の前に立つ第一国・第一級お人形遣いの同僚であるサクノに訪ねる。

今のサクノの姿は、対して普段と変わらないが違うとすれば、狼の皮の羽織の中が水着ではなくどこかのパーティーに着ていきそうな胸元を大胆に開かれたドレスだった。


「ふふ、お姉さんのこんな姿はあまり見られないのよ?アキラ」


「水着がドレスに変わっただけじゃないですか」


「お姉様はどんな衣装を着ても、美しさは磨きがかかるだけです」


アキラの言葉に瞬時に反応したのは、サクノの少し後ろで待機していた首に鎖の付いたチョーカー、肩を出し胸元は大きく開かれ、丈の短めなワンピースを着た結媠(ゆいら)だった。

結媠の言葉に満足げなサクノは、1度結媠を抱き締めてからアキラを見た。


「制服で来るのかと思ったけど、普段の服ね」


「強制でもなかったので、私服にしました」


「………あ、あのう、もしかして2人はお知り合いですか?」


アキラとサクノの会話に割り込むことが申し訳なさそうに、椎菜が小さく手を上げて訪ねる。

椎菜のことを途中から忘れていたサクノとアキラは互いに「あっ」と小さく反応したが、すぐに1度咳払いをしてからアキラが口を開く。


「はい、同じ第一級のお人形遣いなので顔見知りですし、一緒に戦った仲でもあります………となると、聞かれたときは親戚とかでいきますか?」


難しい表情をしながらアキラは、椎菜に訪ねる。

椎菜は少し考える素振りを見せながらサクノに問う。


「サクノさんはそれでもいいですか?」


「ふふ、いいですわよ……お姉ちゃんでも構いません」


「親戚でお願いします」


からかう様にサクノが言うが、アキラは即答で否定する。

一応確認事項が終え、椎菜は「では、入りましょうか」と言って教室のドアを開ける。

教室内は最初は騒いでいたが、担任の椎菜が入ると一瞬で静かになる。

それを気にすることなく、椎菜は教卓の置かれた場所まで歩いていく。


「おはようございます皆さん、今日は転入生が来ましたよ……どうぞ入ってください」


椎菜の言葉を合図に4人は教室に入り、椎菜の真横に並ぶ。

4人を見たクラスメイトたちは、一瞬で「え?え!?」と言った反応を見せた。

それもそのはずだ。

そのクラスにはお人形と契約した生徒はおらず、転入してきた2人がお人形を連れているからだ。

つまり、椎菜のクラスに初のお人形遣いが2人同時に入ってきたことが、嬉しい反面なぜ2人同時にこのクラスを選んだのかわからないと言う動揺が入り交じっていた。

そんな生徒たちを又もやスルーして、笑みをアキラとサクノに向けた。


「さぁ、自己紹介してください」


「はい、皆さん初めまして……見習い(・・・)お人形遣いのアキラです、相棒の名前はこさめです」


そう言ってアキラは軽くお辞儀をすると、こさめも軽くお辞儀した。

サクノもアキラに続き挨拶をする。


「初めまして、見習い(・・・)お人形遣いのサクノです、相棒の名前は結媠……よろしくお願いしますね」


そう言ってサクノは満面の笑みを見せると、クラス内にいた男子数名は除くが、それ以外の男子は一瞬でサクノに惚れたことだろう。

そんな男子の反応に反して、女子は「男子ってサイテー」や「まじでクソじゃない」等と言った男子に対する冷たい言葉が飛び交っていた。

そんなクラスメイトの反応に、椎菜はパンパンと手を鳴らして視線を集める。


「いいですか?皆さん、これは復習です……お人形に近づいても良い、一方通行ですが会話もできますが、なぜ触れてはいけないのでしょか?」


「……触れようとした腕が切られるからです」


「正解、ならそれに対してなぜですか?」


「お人形はお人形遣いにしか触れることを許してないからですかね?」


「正解、これだけわかっていれば大丈夫ね……アキラくんとサクノさんの席は、1番後ろを好きに使ってください」


「わかりました」


「はい」


椎菜の言葉に素直に答えた2人は、自分達の席に向かって歩き始める。

それぞれ着席をしたのを確認した椎菜は、少し薄いファイルを開く。


「出席をとるわよ?」


そう言って慣れた手付きで、次々と名前を呼び、生徒はきちんと返事をする。

が、とある男女は態度が悪く、椎菜が名前を呼んでも無視をする。

普通ならばここで担任は叱るが、椎菜はそれが当然のように無視をして次に進む。

他のクラスメイトも何も言わずに椎菜の話を聞いていた。

それを後ろから見ていたアキラとサクノは、これが普段からだと察する。

少ししてからどこから鳴っているのか、鐘の音が聞こえ、それを聞いた椎菜は「じゃあまた、後で」とだけ言い残して教室を後にする。

椎菜が出て行き、1時間目の準備期間にクラスメイトたちは4人を囲んで、とても賑やかになる。


「アキラくんはいつからお人形遣いなの?」


「お人形って、本当に主人の命令に忠実なの?」


「サクノさんは好きな男とかいるんですか?」


「スタイルがいいですよね、俺惚れちゃいました!」


「こさめちゃんはとても可愛いよね?お人形には見えないわ」


「どっかのアイドルと間違いそうだよな」


「結媠ちゃんは大人しいよね?何かぎゅって抱き締めたくなる」


「俺もしたくなる」


「お前がしたら犯罪だぞ?」


と言った具合に、一斉に話し始めて全く聞き取れない。

アキラとサクノは横目で確認しあった後、小さく手を上げたサクノが訪ねた。


「あの、まず自己紹介をしてもらえるかしら?私もアキラも全く聞き取れないの」


「あ、ごめんなさい……えっと私はこのクラスの学級委員の志村永燐(しむらえいり)って言うの……ほら、皆も自己紹介」


「じゃあ次は俺な、俺は学級委員の補佐役、中嶋鷹都(なかじまたかと)だ…よろしくな」


「じゃあ次はボク、ボクは柊月楓(ひいらづきかえで)……ボクは正真正銘の女の子だよ」


柊月楓の言葉に、アキラとサクノの視線は顔から1個したの胸を見れば、確かに小さく膨らんでいた。まだ、ペッタンではない領域だ。


「ちょっ、2人してどこ見てるんだよ!?」


顔を赤らめ、楓は学級委員の志村永燐の後ろに隠れてしまう。

可愛い反応を堪能しつつ、先程から喋りたそうにしている子犬系少年を見た。


「僕はね僕はね、犬塚祐朶(いぬづかゆうた)って言うんだ」


「……子犬系男子、尊い……」


目を輝かせるサクノに、「子犬系男子?」と呟きながら首を傾げ始める面々に、アキラは呆れた表情をしながら受け流すようにアドバイスをする。

そして何やかんやありながら自己紹介を終え、質問タイムが始まった。


「1人に1回の質問よ」


そう仕切るのは学級委員の志村永燐だ。

まず最初に質問をしたのは子犬系男子の、犬塚祐朶であった。


「質問!アキラくんやサクノさんのお人形とは、どういった関係ですか?」


「いきなりの質問ね」


「まぁ、隠す必要はないからいいけどね」


祐朶の質問に、苦笑いをするサクノに対して笑みを浮かべたアキラ。

その質問に最初に答えたのはアキラだった。


「ボクとこさめの関係は、兄妹」


「だから少し雰囲気が似ているのね」


「………私と結媠の関係は……親友同士だったわ」


少し悲しげに言うサクノに、そんな表情をチラ見していたアキラは先に促すために口を開く。


「次の質問どうぞ」


「じゃあ次はボクから……アキラくんとサクノさんの関係は?見た感じ、今日が初対面じゃないですよね?」


「ボクとサクノ姉さんは親戚同士なんだ……それに互いに見習いだから、仕事でたまに会ったりしたんです」


アキラがそう言うと、サクノも「そうなのよね」と言いながら笑う。

そんな2人に回りにいたクラスメイトたちは「そうなんだね」とか「へ~、そんなこともあるのか」とか聞こえてくる。

本来は何の関係もない赤の他人で、仕事の腐れ縁みたいなものだ。

だが今は親戚という言葉に身を潜める必要があるため、嘘をつきクラスに馴染む。


「じゃあ次は俺な、まぁこれと言った質問がないから……あ、1個だけあった」


少し考えた後、柊月楓は真剣な顔つきで質問をしてくる。


「第五国……地上に降りて、化け物と戦ったことはあるのか?」


『…………』


楓の質問に、一瞬アキラとサクノの表情は笑みのまま停止したが、逆にその質問に対してサクノが訪ねた。


「なぜそんな質問を?」


「そうだなぁ、この学園の目的は多くのお人形遣いを作り出すこと……つまり、いずれ俺たちは第五国にいる化け物と戦うことになる

なら、授業も大事だけど見習いであっても第五国で戦った経験を聞くのも、未来のためになると思ってな」


ニカッと笑う楓の回答に、黙って聞いていたアキラが口を開く。


「………ここで無駄にお人形を殺すような発言や化け物と戦ってヒーロー気取ろうとする発言が出たら、ボクは君の質問には答えなかっただろうね」


笑みを浮かべたままのアキラの言葉。

先程から喋っている声のトーンは変わっていない。

が、楓には背筋が凍るような視線をアキラから感じていた。

楓の頬に一筋の汗が流れる。


「もちろん第五国には降りたことがあるし、化け物と戦ったことはある……けど、説明することはできない

実際に第五国に降りた時、化け物がいつ襲ってくるかわからない緊張感、どんな種類の化け物が現れるかわからない不安、相棒が側にいてくれるだけで感じる安心感と勇気は自分達で実体験した方がいいよ」


アキラの言葉により、その場にいた誰もが言葉をつまらせる。

興奮してもいいのか、恐怖で身を震わせたらいいのかわからないからである。

確かに普通の人間が第五国に降り、歩いてたとしても怪物と遭遇してしまえば一瞬である。

だが、彼ら・彼女らはお人形遣いになるためにこの学園に通っている。

つまりは、彼ら・彼女らは、普通の人間でには当てはまらない。

そんなクラスメイトたちの反応を変えるため、今度はサクノが先を促す。


「次の質問は?」


「じゃあ、これが最後の質問です」


そう切り出したのは、学級委員の志村永燐が口を開いた。

誰も最後の質問については、何も言わずに自然と永燐に視線が集まる。


「お人形はどういった選ばれ方をしているんです?……アキラくんとこさめちゃんは兄妹、サクノさんと結媠さんは親友……こんな偶然はありすか?」


『…………』


一瞬その場の空気が息できない程に、再び凍ったのを誰もが感じた。

アキラとサクノの表情は変わらずに笑っている。

だが、不思議と2人の瞳は笑っていないと自然と理解する。

それから少しして、1時間目を知らせる鐘の音が聞こえてくる。

それを聞いたクラスメイトは、永燐の質問の回答を聞かずに、それぞれの席に戻った。

誰もいなくなり、アキラとサクノの2人になった時、微かに息を吐いた。

まるで質問された時から息を止めていたかのように。


「………志村永燐、あの子が注目するところはすごいわね」


「そうですね……あの子は大丈夫そうです」


「あら、貴方が誉めるなんて……でもまだ審判を下すには判断材料が無いわね」


「そうですね……とりあえずしばらくは、見習いとして学園に馴染めるように頑張りましょう」


小さく拳を作り、アキラはサクノに向ける。

サクノも自然と拳を作り、アキラの拳に合わせる。

そして自然と2人が向いたのは、後ろの方で待機しているこさめと結媠の方である。

パッと見変わりの無い立ち姿。

表情も変わらずに無表情。

だが、アキラとサクノはこさめと結媠の変化を理解して、ため息を軽く溢しながら小声で告げる。


「こさめ、出そうとしているそれをしまえ」


「結媠もよ……ここは学園、無用な死を産み出さないで」


2人の命令に素直に従うこさめと結媠だったが、どこか不満げに見てくる。

アキラはこさめの頬を軽く延ばす。


「あれは質問だ、それに陛下の言葉なしでは殺ってはいけない」


「はい、マスター……ですが、彼女は国家機密に触れた質問をしました」


「今回は目を瞑れ………命令だ」


アキラの目が鋭くなる。

これ以上は言ってはダメだと、サクノは察してこさめに声をかける。


「今回だけだから……結媠も目を瞑って」


「…………わかりました」


「畏まりました、姉様」


不服そうな表情を浮かべるこさめに、笑みを作り小さくお辞儀をする結媠。

何とか話が落ち着いた頃に、1時間目の授業をしている先生を初めて見た。

どうやら学園長室で見かけたが、言葉を交わしていなかった女性の教師であり、今の時間はお人形遣いが覚えるべき魔法についてだ。

実際にお人形遣いであるアキラもサクノも、お人形遣いが使えて当たり前な魔法に、覚えていても損をしない魔法を全て習得している。

更にそこに、それぞれのお人形遣いたちは各々に必要と感じる魔法も覚えている。

今学んでいるのは、お人形遣いにとっては基礎中の基礎の魔法である。

そんなものを今さら聞く必要の無いアキラとサクノは、聞き流しながら1時間目の授業が終わるのを待ったのである。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

次回も読んでいただければ、幸いです。

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