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名のない物語  作者: 夜桜
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第一章…「ミュアンVSこさめ」4

開始のブザーが鳴り、こさめはまず情報が少ないミュアンの出方を伺う。

ミュアンは、目の前に浮く1冊の本を開いてはペラペラと淡々とページを捲り、目的のページに辿り着いたとき、ピタリと捲るのを止めて1度こさめの方を見た。


「言霊・ハンマー」


ボソッと呟かれた言葉の後すぐに出現した大きなハンマー。

それは大きく上げた後こさめ目掛けて振り下ろされるが、動きはたいして早くなかったため、こさめは余裕で交わす。

だが交わした方向に嫌な気配を感じ、こさめは強く片足を踏み、そして宙返りをする。

その時地上の状態を確認すると、こさめがジャンプした場所には、先程まで無かった無数の刃物が地面から突き出していたのだ。


「………疾風雷電」


地面に着地する寸前でこさめは、手に持っている【コネクト】シリーズの1つである疾風雷電の名を呟くと、それに答えるかのように微かに輝きを見せる。

それを確認したこさめは、ペラペラと再び本のページを捲っているミュアンを見つめると、視線に気づいたミュアンはこさめを見る。

少しの間見つめ合ったが、長くは続かずに動きを見せたのはほぼ同時であった。

ミュアンは目当てのページで捲るのを止めて、鋭い視線をこさめに向けつつ、本に書かれた文字を囁くように言った。

こさめは、ミュアンがページを捲るのを止めるのを見てからミュアンに向かって1歩強く踏み出す。

それだけでこさめはミュアンの目前であった。

一瞬ミュアンは驚いたが、すぐに切り替る。


「言霊・槍千雨(そうせんう)


「はっ!」


こさめとミュアンの頭上に出現した薄く輝く青白い槍、こさめは避ける体制をとることなくミュアンに向けて、疾風雷電を素早く突き出す。

こさめの槍は、ミュアンの頬・太股・腕にかすり傷を付ける。

そしてミュアンの生み出した青白い槍は、頭上から千の槍を降り注ぎ、こさめの肩・頬・太股・ふくらはぎにかすり傷を付けた。

が、こさめの攻撃は終わっておらず、疾風雷電の能力の1つが自動で発動する。


「___っ!!」


ピクッと反応を見せたミュアンだったが、疾風雷電の能力の1つはどんなことをしても避けることは不可能である。

なぜならば、疾風雷電の能力1つ。

追撃の雷電は、命中又はかすり傷をおわせた時に条件が満たされ、自動で傷口から電気が生まれる。

そのため、避けることが不可能である。

そして今まさに雷電をくらいミュアンは、体が痺れてうまく動かせない状態となる。

当たり前に使用者であるこさめは、空かさずに攻撃をしようと疾風雷電を構え直して突き出そうとした時であった。

こさめの背後から殺気を感じ、ミュアンに対する攻撃を中止して振り向くが、そこには誰もいなかった。

その一瞬の出来事により、ミュアンは自由を取り戻し、一定の距離まで交代する。


(確かにさっきまで殺気を感じた……だけど、振り向いても誰もいなかった……この違和感は何?)


「……言霊・火球烈火(かきゅうれっか)


少し考え事をしていたこさめだが、それはすぐにミュアンの囁きと攻撃により現実に引き戻される。

はっと我に帰ったときには、ミュアンの背後に作り出された無数の火の玉。

こさめは後方に交わそうとするが、片足がなぜか動けなかったがすぐに原因を理解し、原因の元である片足に絡まった蔦を疾風雷電で切断し、すぐに下がる。

こさめが後方に跳躍してすぐに、火球は地面に着弾した後、まるで線香花火のように辺りに火の粉が飛ぶ。


「……疾風雷電……素早さと追撃………なら、私は」


「……?」


ボソボソと呟くミュアンに首を傾げた時、隣で模擬戦をしていた学園長とアキラの方からものすごい地響きがする。

チラ見で見れば、隣では立派な赤い木が出現し、それはすぐに炎の柱へと変化させる。

柱を中心に、舞っていた赤い花びらが渦を巻きながら上に上がっていった。

その地響きが気になったのはミュアンも同じであり、こさめ同様チラ見でその光景を見ていた。


「……【セツゾク】拳銃」


ボソッと呟いたこさめの手に光の粒子が集まり、拳銃が出現する。

こさめが拳銃をミュアンに向けてから、ミュアンははっと我に返り、すぐに本を捲り、言葉を吐き捨てた。


「言霊・盾!」


ミュアンを丁度覆うくらいの大きさの盾が出現するのと同時に、こさめは発砲。

5回ほど撃った後、駆け出しそのままの状態で最後の玉の6発目を撃つ。

最後の玉が盾に弾かれたことを音で確認したミュアンは、交代しようとした直後に盾すらも突き破る疾風雷電がミュアンの頬すれすれで止まる。

刃がすぐ真横にある状態で、ミュアンは瞬時に交代するのは得策ではないと判断し、交代してからしようとしたことをその場ですることにする。


「言霊・機関銃」


無数の機関銃がミュアンの背後に出現し、「ファイア!」と囁きながら告げると同時に、無数の機関銃が一斉射撃を開始する。

当然こさめは、玉一発一発当たらないように交わしながら交代することになる。

ミュアンの目論み通り、こさめとの距離が開き、いまだに撃ち続ける機関銃に、次の準備に入ろうとしていた時だ。

ミュアンは嫌な予感がし、自然とこさめの方へ視線を向けた。


「【こねくと】霜月無月(そうげつむげつ)


こさめがそう名前を囁くように言うと、空中で小さな波紋が広がり、そこからゆっくりと姿を見せた柄を手に取り引っ張り出す。

刃とは真逆に柄の所に付けられた鎖がチャリチャリと音を立てる。

こさめはすぐに柄から鎖に握り直し、そのままくるくると回し始める。

こさめが召喚した霜月無月は気になるため、ミュアンはページを捲る早さを早めた。

だがそれよりも早く行動したのはこさめであった。


「霜月無月よ、我の意思に従え」


そう言ってから、回し続けた鎖を離すと当たり前に本体である霜月無月は宙を数回転した後、最高到達点でピタリと止まり、キィィィィと不快な音がなった瞬間である。

突如ミュアンは地面に倒れる。


「うっ、くっ」


何とか起きようと試みるが、まるで誰かに押さえつけられているかの様に起き上がることができなかった。

そんなミュアンに対し、自由に動けるこさめは地面に刺していた疾風雷電を抜き、ミュアンに向かって走り出す。

ミュアンは何とか太股に隠してあったナイフを取り出し、焦ることなくゆっくりとまずナイフの刃を握り傷を作り、血を付けた。

次に目の前に落ちていた未来書の表紙の丁度中心辺りに血の付いたナイフを振り下ろした。


「言霊よ、未来書よ!汝は我が意思に基づき力を解放せよ!__【新装オブジェクト】白狼(ワービースト)!」


その時初めてミュアンは叫ぶように声を張り上げた。

未来書の表紙に描かれた魔法陣に血が回り、白く発光した。

そしてそれは一瞬の出来事。

全てを置き去りにした結果、全ての決着が着いてから音や寸土目にした影響で生まれた風で、土煙がうまれ、観客席からは何も見えなくなる。

次第に土煙が収まり、模擬戦の勝者が判明した。


「はぁ、はぁ……参り、ました」


「はぁ、はぁ、はぁ」


互いに息を切らしながら、こさめは姿を変えたミュアンに降伏の言葉を呟く。

今のミュアンの姿は、髪と大きな耳は白く、お尻辺りに付いた白い尻尾。

姿が変化した影響で、延びた爪はこさめの喉で寸土目にされていた。

こさめの降伏の言葉を聞いたミュアンは、大きく深呼吸をしてその姿を解除する。

模擬戦が終了したため、観客席にいた教師と学園長そしてアキラが降りてくる。


「こさめ、お疲れ」


「……申し訳ございません、あなたに勝利を捧げられませんでした」


深々と頭を下げてくるこさめに、アキラはしゃがみこんでこさめの顔を覗き込む。

今のこさめの表情は、今にも泣きそうな表情であり、とても人間らしい。


「こさめ、ボクは模擬戦が始まる前に言ったし、最初に言う言葉は普段と変わらない」


「………」


「こさめは人間だ、今君の中にあるそのモヤモヤ感は悔しさだ……それにこさめが負けても勝っても、ボクがこさめに対する接し方は変わらないよ」


そう言って笑って見せるアキラに、ポロポロ涙を溢し始めたこさめをそっと抱き締め、ぽんぽんと優しく背中を叩いた。

そんな2人に、話しかけるタイミングを見計らっていた学園長が声をかけてくる。


「模擬戦も終わりましたので、ひとまずこさめちゃんとミュアンの傷の手当てをしましょう……それから少し伺いたいこともあります」


「わかりました、ひとまずは学園長室ですかね?」


「そうですね、では飛ばします」


そう言って学園長は、パチンと指を鳴らす。

すると一瞬の浮遊感に襲われてすぐ、床に足が着き、辺りを見わたせば数十分前までいた学園長室にいた。

学園長は救急箱を棚から取り出してきて、ミュアンの手当てを始める。

当然こさめも手当てを始めようと、女性の教師と変わろうとするが、ぎゅっと抱き締めてくるこさめが離れてくれない。


「あの、こさめ?手当てしないと」


「マスター……今は離れたくありません」


「手当ては?」


「はい、マスター……この状態でお願いします」


アキラの胸に顔を埋めながらこさめはそう答える。

甘えモードのこさめにきゅんきゅんときめきながら、アキラは堪忍する。


「すみません、こさめだけ回復魔法使いますね………自分専用なので、他の人を回復するにはくっついて使用しなければいけないので」


「わかりました……確かに年頃の女性が男性に触れるのは少々問題ですからね」


「………我を癒し、全てを安らかに、全てを元通りに、我は君らに懇願す」


目を瞑りながら、こさめの頭をそっと撫でながら、アキラは囁くように呟く。

最後まで言うと、アキラとこさめの周囲がきらきらと黄緑の光が纏い、それはすぐに消える。

黄緑の光が消えると、こさめの傷も癒えていた。


「あ、そうでした」


何かを思い出したように、学園長はアキラに視線を向ける。

視線に気づいたアキラは、首を傾げながら訪ねた。


「どうしました?」


「いえ、まだ聞きたいことも聞いてなかったので」


「あ、どうぞ?」


そういえばと思い出しながら、アキラは質問できるように促す。

別に聞かれて隠すものは、あまりなかったため緊張や不安などはない。

質問する内容を頭の中で確認し終わった学園長は口を開き、質問を開始する。


「じゃあ、1つ目……まずミュアンが使っていた【オブジェクト】シリーズは、何種類あってどんな武器があるのかしら」


「【オブジェクト】シリーズは、全部で5種類でそれぞれの国に散っています……昔に読んだ本だと確か、第一国は2つの【オブジェクト】シリーズを所有、第二国が1つで第三国が2つ所有しているはずです

まぁ昔に読んだ本なので変わっているかもしれませんが…

そして種類は、ミュアンさんが所有している未来書は所有者によって出現する能力が違うそうですね、今回の所有者であるミュアンさんは言霊使いだったみたいですね

本からの情報だと、他にも魔法だったり予言だったり、ラグナロクだということも書かれていました」


「ラグナロク?………終末?」


「はい、当然こんな本が出ている時点でまだラグナロクを引き当てた者がいなかったんですね」


満面の笑みでそう言ったアキラに、苦笑いをする学園長。

そんな学園長を無視して、アキラは続けた。


「次に、恐らく【オブジェクト】シリーズ内では、1番の早さを所有する一閃華(いっせんか)、この武器は瞬きを一回しただけで気づいたら回りが木っ端微塵にされているくらいに本当に早いらしいですね

本当かどうかはわかりませんが……刀を抜かれた所を見たことがないらしいです、それは早すぎて誰も気づかなかったからだと思うんです」


「確かに、使用者以外に気づかれない早さで抜いて、刀を振り、認識する前に鞘に戻すと同時に切ったものが崩れた時に初めて認識されれば、その本に書かれたことは本当になる」


学園長の言葉にアキラは頷きながら、次に行く。


「次に、【オブジェクト】シリーズの中で1番の火力を所有し、恐らく【コネクト】シリーズの中で、1番近いのは爆烈華と同等の火力、それかそれ以上の火力持ちだと考えられる獄炎連鎖(ごくえんれんさ

先程も言った通り、獄炎連鎖は火力特化、それと同時に、追尾にも特化しているとても厄介な武器です」


「それぞれの武器の能力はやっぱりわかれているのね」


それを言ったのは、女性の教師で顎に手を添えて考える素振りを見せている。

その言葉にアキラは頷く。


「同じものがいくつもあっても、つまらないですからね……4つ目はこれはとてもめんどくさかったですね」


「戦ったことが?」


男の教師がそう訪ねて、アキラ頷く。

まるで思い出すように目を瞑りながら、その武器について話し始める。


「【オブジェクト】シリーズの長距離型、1本の矢から数十本に増えて、矢の先には色々な魔法とかを付与してきて地形を変えます」


「……地形を変えるのか?」


「獄炎連鎖が1番火力に特化されているのでは?」


恐怖が見え隠れしながら教師2人が訪ねてくる。

それに対する回答を、アキラは平然と答えた。


「はい、そうですよ?【オブジェクト】シリーズの長距離型、千矢(せんや)はシリーズの中で4番手に強力な武器です」


「話を聞いただけでゾッとする」


「アキラくんは千矢それとどうやって戦ったの?」


興味津々にアキラの隣に座っていた女教師が、ズイッと迫ってくるのをアキラはのけ反りながら口を開く。


「普通にまず爆裂華で飛んできた矢を燃やして、そのまま接近して、走っている間にも矢は飛んできますからそれは、死奏月で拒絶して、後はその相手の首に死奏月を添えるだけです」


笑顔で説明してくるアキラに、苦笑いをしながら、学園長は先を促す。


「それで最後の武器は?」


「そうですね……一言で言うなら謎ですね」


一斉に首を傾げる。

そんな皆を置いてアキラは、難しそうな表情をしながら続けた。


「言うなればパンドラの箱、何の武器なのかどんな能力なのか、全てが謎に包まれた武器です……本にも全く書かれてはいません、ですが不思議な話を変わり書かれていましたね

確か、命は取らずに記憶を消す……恐らく、戦っても命は取らずに、その武器に関する全てが記憶から消されるんだと思います」


推測を言い終わるのとほぼ同時に、校内に優しいオルゴールが流れ始める。

それを聞いた数人の教師が立ち上がる。


「もうこんな時間!?」


「生徒たちが登校しますので、我々はこれで失礼します」


そう言って、学園長に「失礼します」とだけ告げて、数人の教師が部屋を後にする。

残されたのは、学園長とアキラ・こさめと今慌てなくても平気な教師たち。

その中にはミュアンもいた。

アキラはまだ続きを話すべきか、学園長に視線を向ける。

それだけでアキラが何を言いたいのか察した学園長は、笑み浮かべながら答えた。


「そうね、残りの質問は帰りにしましょうか……あ、アキラくんとこさめちゃんの教室は2年生からスタートで、扉の前に立っているしいちゃんが担任だから、着いていきなさい」


「しいちゃんは止めてください」


頬を真っ赤にしながらぷんぷんと怒る女教師。よく見れば耳まで真っ赤だ。

その反応が楽しいのか、学園長はにやにやと笑っていた。

そんな学園長を無視して、一回咳払いをしたしいちゃんと呼ばれた女教師は、1度礼をする。


「初めまして、椎菜(しいな)です……あなた方の担任になりましたので、よろしくお願いしますね」


「初めまして、アキラとこさめです……気軽に呼びやすいように呼んでください

これからお世話になります」


そう返してアキラとこさめも1度礼をする。

そんな簡単な挨拶を済ませ、早速教室に案内を始める。

扉が閉まる瞬間、チラ見ではあったが、アキラは学園長を見た。

その時の学園長の表情は、冷徹までの真顔だった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回から第二章を載せますので、そちらも読んでくださると、幸いです。

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