第一章…「学園長VSアキラ」3
開始のブザーが鳴る。
だが、学園長とアキラは動こうとせずに睨み合うだけだ。
ブザーがなってから10分くらいが経つのと同時に最初に動いたのは、学園長だった。
まずは様子見と言う具合に、暴虐龍を素早く何度も突き出してくるが、アキラは動じずに爆烈華の持ち手を少しずらしてその攻撃を流す。
だが流されることがわかっていた学園長は、水晶のような小さな玉が付いた方を横に薙ぎ払う。
「…………【コネクト】死奏月」
冷静に迫る攻撃に対処するアキラは、死奏月を新たに召喚して、受け止めてすぐに太刀を斜めにして槍先を流す。
アキラはそこで終わることなく、すぐに爆烈華の保有スキルを使用する。
「咲き誇れ、踊れ、汝は人形である」
そうアキラが呟けば、学園長の片足の地面が赤くなり、それは次第に熱を帯び、異変に気づいた学園長はすぐに回避をした直後に小さな炎の柱を作り出す。
それは当たり前にそれだけで終わることなく、まるで追跡でも付いてるかの様にピンポイントで片足のどちらかが炎の柱を作る。
幾度も交わす学園長は埒が明かないと判断を下し、交わすの止める代わりに、スキル使用者のアキラに向かって走り出す。
「さすがにスキル使用者ごとはないでしょ?」
頬に汗を滴しながら笑みを浮かべる。
後ろでいくつもの柱が立つのを感じたが、学園長は止まることなく、振り向かずに一点に向かって走った。
そしてアキラの肩を掴み、笑みを浮かべる。
「これでさっきの柱は使えなくなるわね」
「………」
図星を付かれたかの様に口を閉ざしたままのアキラだったが、少ししてから学園長の言葉を訂正するように吐き捨てた。
「咲かせ、咲かせ、満開の炎を!!爆烈華!」
「!!」
そう叫びながらアキラは爆烈華を強く地面に叩きつければ、叩きつけられた場所を中心にとてつもなくデカい満開の華の真っ赤な魔法陣が地面に広がり、それは次第に赤い花びらをばら撒き、アキラと学園長を覆う程の炎の柱が勢いよく作られた。
ドォォォォン
地鳴りとともに、柱が作られた時に生じた衝撃波が客席にいた教師たちを襲う。
大きい柱はすぐに消え、土煙と黒い煙があがる。
煙の中には2つの影があった。
「____っ、まさか躊躇なく自分事さらに強い柱を作るなんて」
「………」
「さっきから何も話さないのは、お人形だからかしら?アキラくん」
バチッと音をたてて学園長を守っていたバリアが消える。
ふぅと一瞬息を吐き、先程の質問のような問いの回答を待つ。
同じく小規模バリアを張っていたアキラは、それを無言で解除し、学園長を光の無い瞳で見つめながら口を開く。
「あなたと会話をする必要性がありません……あなたと会話をして、ボクに何のメリットがありますか?」
「………」
人間だった時のアキラと比べ、お人形のアキラは本当の人形のように必要最低限のことしか話さない。
アキラの言葉を聞いた学園長は、更なる問いをする。
「さっきの攻撃、躊躇なく自分事巻き込んだのは?」
「最優先事項はあなたを降参させること、ボクの命は最低事項、いつ異なる理由で死のうが大した問題になりません」
「……その最低事項は陛下の命令?」
「いいえ、ボクらの全てはマスターと命令のみ……もし、主が命を大切にせよと命令されればボクはその命令を忠実に守る……ですがもし、主が死ぬまで戦えと命令をされれば、ボクは喜んでこの命を捧げます。
今回は、ボクの人間側による自我判断になります……今のボクはただその命令に従うのみ」
アキラの言葉を聞いた学園長は、息を飲む。
そして再確認をした。
お人形は、アキラが言った通りにマスターと命令が全てであり、自分の命すら虫のように潰すということを。
だが、また別の考えは先程のアキラの言葉はお人形としての言葉。
ならば学園に入学する方側、人間であるときのアキラは何て言うだろうかと。
「……暴虐龍!」
少しの沈黙後、学園長は再度槍を構えて槍の名前を叫ぶ。
そして暴虐龍もそれに答えるように周囲の空気を集め始める。
異変に気づいたアキラは辺りを見渡すが、回りは何も変わっていない。
「………死奏月、静かに奏でよ、死の歌を」
静かにアキラがそう呟くと、人間には害がない衝撃波を放つ。
どこかでバチッと音が聞こえたと思えば、周囲の空気が元に戻ったことにすぐに気づくが、アキラははっと学園長がいた方を見た。
が、そこには学園長の姿がなかった。
それを確認したアキラは、爆烈華を消して武器を死奏月のみにする。
それが終わった瞬間、アキラは背筋が一瞬ヒヤッと冷たく感じ、すぐに振り向き様に死奏月でガードをした。
そしてそれはすぐに来た。
とても重く、上手く衝撃を受け流し、直接受けるのではなく、刃の表面ですぐに受け流す。
パァァァン!
と乾いた音が真横から聞こえてくる。
アキラは気を抜かずに真横の音の原因を見れば、先程受け流した攻撃が地面をクレーターにした音だったらしい。
「……クレーターですか、先程よりも威力が上がり、素早さも格段上がっていますね…………これからは本気と判断しますので、ボクも一個格上げします」
そう言ったアキラは、親指を血がにじむ程度に噛みちぎり、そして死奏月の刃の表面にただ血で1線を引く。
すると、真っ白だった死奏月は薄く赤い光に包まれ、微かに太刀の形を変形させ始める。
「【メギド・コネクト】死奏無月」
囁くように変形した死奏月 基死奏無月の名を呟く。
いまだに姿が見えない学園長は、そんな死奏無月を見つめながら暴虐龍のスキルをそろそろ使用することを判断する。
スキル使用するために、強く足を踏み込み、普通の人間には出せないくらいのスピードでアキラに接近し、素早く槍で突こうとした時だ。
姿が見えないはずの学園長をまるで見えているかの様に視線を向けてくる。
「____っ」
「そこですか」
ブーツの踵で急ブレーキをかけながら、殺しきれなかった勢いを高跳びをするように、槍の先を地面に浅く刺して身を宙で一捻りする。
学園長が交わしてすぐに、先程まで学園長がいた場所に一瞬のキラメキが見えたと思えば、すぐにずっと向こうにあった観客席の真下の壁に斜めの斬撃が生まれる。
観客席から見ていた教師たちは一瞬息を吸うのを忘れ、驚きと興奮させる戦いっぷりに見入っていた。
それは実際に勘で交わした学園長も目を見開いていた。
「___ぁ」
「………」
無言のまま学園長の方を見たアキラは、寸分の狂いなく足を強く踏み込み、一瞬で学園長の目前まで迫る。
死奏無月を首めがけて振るがやられっぱなしで終わるわけのない学園長はすぐにその攻撃を持つ方側の棒で受け止め、さらに追撃をする。
「古のバラよ、彼を拘束せし、鎖と成りて、我が眼前にて、膝を突かせよ!」
刃の先とは逆に付いていた水晶の様物が薄紫色の光を放つ。
それを見たアキラはすぐに、距離をとろうとしたが一歩遅く、足首に何かが巻き付き、そちらに視線が向けば、今度は手首が何かに巻き付かれる。
そして最後は地面から飛び出してきた緑色の鎖が首に巻き付き、地面に倒す。
「うっ」
「……やっと捕まえた」
それは本当に一瞬の出来事であった、まだ模擬戦が始まってからまだ15分程度だが経つが、アキラと学園長の繰り広げる戦いは数時間を軽く経つ感じがする程に激しく、早い。
観客席にいる教師たちは、アキラとこさめの戦いを録画魔法で録画しながら盛り上がっていた。
「………死奏無月、拒絶しろ」
倒れるときに地面に刺さった死奏無月は、アキラに答えるように、衝撃波を波紋のように広げ、アキラを捕らえる鎖と何かを拒絶する。
動けるようになったアキラに先手をとる学園長は、素早く槍の刃を突き出す。
「!」
その時初めて学園長の攻撃がアキラに届く。
腕・太股・頬を数ヶ所かする。
血が少し滲むが、アキラは表情を変えることなく、地面に刺さったままの死奏無月を呼ぶ。
呼ばれた死奏無月は、まるで意思を持っているかの様に自ら地面から抜け出し、横に回転したままアキラの手の平に収まる。
アキラもそれを自然と受け止め、馴染ませるかの様に一度強く振る。
「古魔法ですか……珍しいですね」
「そうね、今ではほとんど使われなくなった魔法ね……私が1番得意な古魔法よ」
得意気にウィンクしてくる学園長を無視して、アキラは一度隣で戦うこさめを横目で見る。
だが、気になっているのは学園長も同じであり、お互い警戒をしながらこさめとミュアンの戦いを見る。
隣の戦いを見る限り、優勢はミュアン寄りだろうか。
ミュアンが使う【オブジェクト】シリーズの1つ、未来書・言霊は、言ったことが本当又は実現する武器である。
実現できるのは、所有者の魔力に影響するのとは別に、実現できるのは所有者が知っているもののみである。
他にも【オブジェクト】シリーズは4つあるが、それぞれの人間が契約をしてバラバラになっている。
「アキラくんは、ミュアンが使ってる【オブジェクト】だっけ?知っているの?」
「…………別の所有者の1人と戦ったことが」
少しの沈黙後、アキラは口を開く。
だが、それを最後に口を閉ざし一度息を吐いた後、死奏無月を構える。
それを見た学園長も暴虐龍を構える。
「……………拒絶しろ」
ボソッとアキラが呟くと、死奏無月は衝撃波を放つ。
はっとした学園長は、先程よりも表情が一瞬曇らせる。
「………体が楽なった……あれのスキルか」
独り言を呟きながら、アキラは暴虐龍を睨む。
それだけの動作で学園長は、アキラが暴虐龍のスキルに気づいたことを理解する。
暴虐龍のスキルは、命中又はかすりさえすれば侵食される。
スキル使用時に侵食の種類は多種多様あるが、今回学園長が使っていたのは相手の動きを鈍らせるものであった。
だが効果は違和感を感じる程度なので、普通の人間であれば気づかないはずであった。
「……お人形だから、違和感にも敏感なのね」
はぁと軽くため息を吐いた後、強く握り締めた槍を刃と水晶の様な物を逆にし、水晶の様な物を前に突き出す。
「凍れ、凍れ!汝は永久の凍結されり、身も心も全て凍結しろ!__永劫の氷」
「!死奏無月、全てを拒絶しろ!」
降り注ぐつららや地面から突き上げてくる氷を全て拒絶しつつ、アキラは走り出す。
力強く片足を踏み込み、柄を短く掴み横凪に素早く振るう。
はっと息を飲み、瞬時に受け止めようとしたがそれはアキラによって防がれる。
片手で横凪に振るう太刀に、学園長の武器を掴み、防御をできなくさせていた。
そしてアキラの攻撃は、首目掛けて寸前で止まる。
「…………降参よ」
寸前で止まったことにより、風が後から遅れて吹く。
学園長は一瞬死を見た。
光の宿っていない冷たい瞳で見下ろされ、恐怖を感じた。
足に力が入らずにその場にへたりこみ、微かに震える体を自分の腕で包み、誤魔化す。
一度大きく深呼吸をしながら目を瞑る。
そしてゆっくりと目を開けると、目の前にいるのは人間に戻ったアキラが満面の笑みを浮かべていた。
「ごめんなさい、怖かったですよね?」
「いえ、平気よ……アキラくん、1つ聞いていいかしら?」
学園長の言葉にアキラは首を傾げる。
差し出された手を取り、ゆっくりと立ち上がりながら質問する。
「お人形は、命令があれば誰でも殺すの?
例えば、怪物じゃなくて人間であっても……その時、何か考えたりしない?」
「そうですね……主人によりますが、命令があれば人間であれ、怪物であれ躊躇せずに殺しますね……全てのお人形は基本何も考えません、稀に戦闘シミュレーションするお人形がいますね」
「こさめちゃんの様に?」
「そうです……全ての感情を無くしても、主人が何を求めているのか、どうすれば相手に勝てるのか考える子がね」
「……お人形にも色々いるのね」
学園長がそう呟くのを聞いたアキラは、微笑みながら「彼らも人間ですから」と答えて隣の試合に視線が向く。
そんなアキラに、学園長は微笑みながら肩を軽く叩く。
「宜しければ、観客席から見ますか?」
「いいんですか?」
「はい……では、私の手を握ってください」
そう言って指し伸ばされた手をアキラはすぐに取り、学園長はそれを確認するとパチンと指を鳴らす。
一瞬の浮遊感に襲われるが、すぐに足は地面に着く。
「………優勢はミュアンですね」
観客席に着くや否や学園長はすぐにいまだに続く試合を見て、優勢を確認する。
学園長の言葉にアキラは頷いて同意する。
「こさめも何度か惜しいところまで攻めてますが、一歩足りてない状態ですね…」
アキラがそう口にした時、一瞬視界が真っ白になり、次にドォォォォンと何かが軽く爆発したかのような音が耳に届く。
視界は土煙によりよく見えないでいたが、次第に土煙は収まり、2人の影が見えてくる。
観客席にいた誰もが、最後の試合の結末を見たのである。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
次回も読んでいただければ、幸いです。