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名のない物語  作者: 夜桜
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第一章…「返し忘れ」1

申し訳ないです……

気づいたら、1日過ぎていました( ゜ε゜;)

遅れましたが、第一章を載せていきます。

お兄さんと出会ってから1日が経った。

気持ちのいい朝日、小鳥のさえずりに目を覚ましたアキラは、絶賛体調を崩していた。

昨日お兄さんから預かっていた豚を、返すのをすっかり忘れ、そのまま眠ったお陰で体調を崩したと言う。


「こさめ~、薬~」


「はい、マスター……ただちに」


アキラの側でずっと待機していたこさめは、アキラのいる一室を出てリビングへと出る。

まっすぐこさめが向かったのは、リビングにあるオープンキッチンの台に置かれた小物をいれる引き出しだ。

引き出しを開ければ、家の鍵に薬・城を出入りするためのパスカードが収納されている。

アキラの部屋にリビング以外は、風呂場・トイレ・物置、こさめの部屋に空き部屋が2つ程。

2人で暮らすにはとても広い家だ。

薬と水の入ったコップを手にアキラの元に戻る。


「う~」


「マスター、薬と水です」


「ん、ありがとう」


ゆっくりと体を起こして薬を受け取る。

グビッと流し込むように、薬を口に入れてすぐに水を飲み干す。

それを隣で見ていたこさめは、「おぉ」と小さな拍手をした後、コップを片付ける。


「今日のご予定は?」


「そうだなぁ、まずはボクの異空間にいる豚をどうにかしたい……そろそろ限界なんだ」


うぷっと今にも吐き出しそうな顔色のまま着替え、そして外へ出る。

鬱陶しい程に眩しい太陽を一度自分の手で影を作りながら見上げて、お兄さんの住むアパートに向かう。

何度か休憩を挟み、なんとか辿り着いたアキラは出入り口の清掃をしているメイド服を着たオートマタに話しかける。


「仕事中すみません、ここに住む…………あれ?名前なんて言うだ?」


はっと気づけばお兄さんの名前を知らない。

ずっとアキラやこさめは“お兄さん”と呼んでいた。名前など考えてみれば聞いていなかった。

考え込んでしまったアキラに、オートマタもどうしたらいいのか分からず待機したままである。

それから少し時間がたった頃だ、上の方から聞き覚えのある声が不意に聞こえてきた。


「あれ?アキラにこさめじゃないか?どうしたんだ?」


「…………ぁ、そ、そう!あの人!!あの人の部屋まで案内をしてほしいです!」


ビシッと窓から乗り上げた状態の声の主、お兄さんを指さした。

お兄さんの方を一度見たオートマタは、「畏まりました」と言うとさっそく案内をしてくれる。

お兄さんの部屋は、入ってすぐ右手にある階段を3階まで上り、右の通路を真っ直ぐにドアが3つ目の部屋らしい。

部屋の前まで案内し終わると、オートマタは一礼して仕事に戻った。


「昨日ぶりですねお兄さん」


「そうだな、でどうした?」


「あ、いえ……対したことではないと言うにはあれなんですが……その返し忘れを」


もじもじとし始めたアキラに首を傾げるお兄さんはすぐに思い出す。

昨日は色々な事が一度に起こりすぎてすっかり忘れていた預けものの事を。


「そうか、すまなかったな……すぐに気づけなくて」


「いえ、大丈夫です……ボクも違和感を感じていながらも忘れていたので」


ゲホッと咳をした後、アキラは辺りを見渡す。


「どこら辺に放しますか?」


「あぁ、どうしようか」


お兄さんの部屋は、リビングにオープンキッチン、お風呂場と寝室。それと個室が1つと一人暮らしにはとても広いと言える程の広さがある。

少し考えたアキラは、1つの提案を上げる。


「お兄さん、よろしければ個室を1つ貰えますか?そこにちょっとした工夫をした後に、豚を放ちたいと思います」


「わかった、案内するよ」


アキラの提案に頷き、個室に案内をする。

個室に到着すると、一度アキラは部屋を見渡し、「うん」とだけ呟き頷く。

そして手を合わせて目を瞑り、何かを呟く。

お兄さんは何度か何かを呟くところを見ている。そして、その度にアキラは魔法を使用していた。

だから慌てることなく、静かに事の終わりを見守る。


「_____、よし」


「この部屋に何かしたのか?」


「うん、ちょっとね……ここには匂い消しや防音防止、自動洗浄……勝手に部屋を綺麗にする魔法を3つかけたから、これで少しはお兄さんの負担は減ると思う」


「うお、サンキュー……これで他にも手が回るよ」


満面の笑みを浮かべたお兄さんに対して、アキラはそそくさと作業を進める。

まずは異空間から豚を全て出し、様子がおかしな子がいないかを確認。

それからお兄さんにも確認をしてもらう。


「うん、全ての豚は健康、とても元気だ……ありがとう運んでくれて」


「いや、たいしたことはしてないよ」


「あ、せっかくだしお茶飲んでいく?」


「いえ、ボクらはこれから用事があるんです」


アキラがそう断ると、お兄さんは少し寂しそうな表情をしたが、すぐに笑みを見せてくれる。

用事を終えたアキラとこさめは、お兄さんの部屋を出て、用事のある場所に向かって歩き始める。


「マスター、用事の場所とは?」


「ボクらは、明日から学園に学びに行くんだから準備しないとね」


「そうでしたね」


あぁと言う反応を見せた後、こさめにしては珍しく忘れていたらしい。

そんな異変の理由をすぐに理解したアキラは、苦笑いをしながらこさめの頭をそっと撫でる。

こさめが珍しく忘れていたのは、女王陛下からのお願いだからだろう………

その事とこさめに何が関係するのかと聞かれれば、説明は少し複雑になってくる。


「大丈夫だよこさめ、ボクはお前のお兄ちゃんだ……」


「いいえマスター、私とマスターは兄妹同士ではなく、ただのマスターとお人形に過ぎません」


「……………」


頭を撫でていた手がピタリと止まる。

アキラの言葉に反応したこさめの言葉は、いつもお人形遣いとお人形としての正しい言葉。

だがそれがまた、アキラの心を縛る。


「こんなことなら、感情なんて戻らなければよかった………」


「?何かおっしゃいましたか?」


「いや、何でもないよ……さ、行こうか」


ボソッと呟いた言葉がこさめに聞こえていないことにホッとしつつ、アキラはこさめの手を取り歩き出す。

手を引かれて歩くこさめは、後ろの方で空いた手で自信の胸元に手を当てながら首を傾げた。

あれから無言で目的地まで歩いた二人は、小道を抜けて大通りを少し人混みに紛れて進み、再び小道に入り、それから少しして辿り着く。

意外と道が複雑であった。

木でできた扉を開けると、カランカランと内側の左上に備え付けられたベルが鳴る。

その音に反応した店主は、満面の笑みで「いらっしゃいませ」と口にした。


「おはようございます……あの、明日から学園に入ることになったので、必要なものが欲しいのですが」


「あらあら、この時期に入るのは珍しいわね……まぁいいわ、それじゃあ少し待っててね今持ってくるから」


そう言って店主は、のれんのかかった奥の部屋に入っていく。

待つこと2分くらいで、先程奥に入って行った店主が戻ってくる。手には2つの小さめの巾着がある。

店主はその小さめの巾着をカウンターに乗せる。アキラとこさめはその小さめの巾着を見つめる。


「それは学園に必要なものが入ってるのよ、今は無色でも魔力を通せば、その人だけの魔法袋になる……だから、そこに学園にいる間大切な物を入れておけば盗まれることはないわ、使用できない巾着を手に入れても何も出来ないしね」


「わかりました、ありがとうございます」


「金額は14ガルね」


(ガルなのか……確か、昔にあった国では円やら万やら億っていう値段の呼び方があった……現代で合わせれば、メルは円・ガルは万・ダガルは億……ってところか)


っとアキラは昔と今の値段の呼び方を合わせて考えていると、目の前に店主は困り顔で首を傾げる。

それだけの行動で、アキラは支払い方を言っていなかったことに気がつく。


「あ、支払いは女王陛下にしといてください」


「ん?」


「あ、内密な仕事なので誰にも言わないでくださいね」


人差し指を自分の口元に1本立てて笑みを作るアキラに、店主は無言のまま頷いて同意を示す。

領収書として、請求先と店印が押された紙を渡される。


「そちらを女王陛下に渡していただければ大丈夫よ……もし、その紙が見られてマズイならこの袋をあげるわ」


そう言って店主がカウンターの真下から取り出したのは、領収書のサイズにピッタリの紙袋をアキラに渡す。

素直に紙袋を受け取ったアキラは、「ありがとうございます」とだけ言い残し、店から出ていく。

残された店主は、読みかけだった本を手にして近くの椅子に腰かけた。


「陛下の部下が何しに学園に行くのかね?」


そう呟き、読みかけページを開き、次の客が来るのを待ち始めたのであった。



店を出たアキラとこさめが向かったのは、早速領収書を渡そうと陛下のいる城に向かっていた。

何度も何度も人混みに逆らうのは面倒だったアキラは、人が全く通らない裏道を使う。

裏道は表とは雲泥の差で、一言で言うならば暗い。

光が入らず、雰囲気が重く、どこを見ても暗い。

そんな裏道を歩くアキラとこさめに、裏道あるあるのように数人の男たちが何処からともなく現れる。


「高価そうな服だなお兄さんたち」


「ちょっとその服をおじちゃんたちにくれないか?」


不適な笑みで迫ってくる男たちが伸ばした手を、こさめは服に振れる前に(はた)いた。


「って!生意気だな!犯すぞ!」


「………」


叩かれた男は怒りのままにこさめの襟を掴みにかかるが、そんなことはさせないとアキラは男とこさめの間に入り腕を掴む。


「何だテメー、離しやがれ」


「いいですよ」


そう返してアキラは男を優しく押し、掴んでいた腕を放してやる。

軽く耳の中を掻いた後、アキラは一度鋭い眼力で男たちを見た後、男が言った言葉に対して問う。


「ボクの妹に何をすると、仰いましたか?」


「何だ、お兄ちゃんだったのか……君もいい金、顔しているね」


「もう一度お聞きします……ボクの、妹に、何をすると……仰いましたか?」


自分から近寄り、男の顔と後少しでぶつかると言うところでアキラが立ち止まると、男は尻餅ついた。

見下す形となったアキラは、こさめの手を取って何事も無かったかのように通り抜けようした。

が、男の仲間のまだ入って間もない若い男が尻餅ついた男の制止を聞かずにアキラの肩を掴み、強制的に振り向かせた。


「ボクに触るな……ゲス」


そう言ったアキラの足元が数ヶ所小さな光の枠がうまれ、その光の枠の中心から突き出てきた光の棒の先が尖っており、アキラを振り向かせた男の腕を吹き飛ばす。

周囲に血を撒き散らす。


「うぁあぁぁぁ!?!腕がぁ!俺の腕がぁぁぁ!!」


「さぁ行こうこさめ」


「はい、マスター」


男の叫びを無視し、アキラはこさめを連れて歩き出す。

そんなアキラに、腕を吹き飛ばされた男は涙を流しながら再びアキラに触れようとしたが、その前にこさめの回し蹴りをくらい吹き飛ぶ。

最後に一言残しておこうと、アキラはチラ見程度振り向く。


「安心しろ、お前の腕は正確には吹き飛ばしていない……現実に大いに近づけた幻術だ」


それだけを残し、アキラとこさめは立ち去る。

残された男たちは、はっと我に返り腕を振り飛ばされた男の方を見た。

その男の腕はきちんと付いていた。

アキラの言った通り、全てが幻術であったのだ。


「う、嘘だ!た、確かに痛みがあった!確かに、お、俺の腕は無かったんだ!」


腕を吹き飛ばされた男は青ざめ、今目の前にある自分の腕が付いていることを頑なに信じようとせずパニックになる。

そんな男を落ち着かせるため、他の男たちは場所を変えようとパニックになっている男を連れてその場を離れたのであった。



一言伝えてから立ち去ったアキラとこさめは、また絡まれるのが嫌になり、今度は屋根をわたって城に向かっていた。

当たり前に難なく到着し、門番に領収書を渡してその場を立ち去った。

夕刻になり、アキラとこさめは目的もないまま街をぶらついていた。

制服は一応はあるのだが、別に決まったものがないらしいので、用意しなくてすんだ。


「さて、学園は寮生らしいからあの家にはしばらく帰れなくなる……残りの時間は家で過ごすか」


「はい、マスター……あなた様がそうしたいのなら」


アキラの問いに相変わらずの答え。

そんなこさめの手を握りならが家に向かってアキラは歩き始める。

途中で露店の美味しそうな匂いに誘われて、ちょっと寄り道をした。

相変わらずこさめは食べ物や飲み物を飲もうとせずに首を横に振る。

やはり、お兄さんが作っていたポークバーガーを食べたことはとても珍しかった。

そんなことを考えつつ、明日の学園のことを塩味の鳥の串焼きを頬張りながら考えをシフトする。


(明日から学園、こさめはお人形として入るけどボクはお人形遣いとして入るから、なるべくボクもお人形であることは隠した方がいいかな?)


「陛下からの任もあるし、なるべく目立たないようにしないと」


ボソッと呟いた時、何かフラグがたった気がするがまぁ気にしないとアキラは首を横に振る。

色々と考えていると、自分の家に気づいたら到着していた。


「マスター、どうかされましたか?」


「ん?いや、何でもないよ……さぁ入ろうか」


そう言って家の中に入るよう促し、考えるのもめんどくさくなったアキラは、また明日にでも考えようと再び頭の中を切り替た。

今はしばらく帰ってこれない我が家で思い出を少しでも作ろうと決意したのであった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

次回も読んでいただければ、幸いです。

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