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名のない物語  作者: 夜桜
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第零章…「第一国」4

今お兄さんの目前にあるのは、どの国よりも発展した第一国。

おそらく第一国の中心と思われる場所には、先程聞こえてきた鐘の塔が結構離れた3人がいる場所にまで見える。


「やっと来たわね?」


聞き覚えのある声にお兄さんは横を見た。

声の主は、落ちないように設置された策の上に足を組んで器用に座っていた。


「お待たせしました、サクノ姉さん」


アキラがそう呼ぶサクノは、第四国で迎えに来てくた美少女だ。

サクノがいると言うことは、人形の少女も一緒にいるはずなのだが、どこを見ても彼女を見つけることができない。

アキラの行動に気づいたサクノは「あぁ」と呟くと説明を始めた。


「あの子はお使いに行ったの」


「お使いですか?」


アキラがそう訪ねた。

それだけでお兄さんは理解した。

サクノのお人形は離れることなく、今回のお使いが初めてサクノから離れたのだと。

無言でお兄さんはサクノを見つめていると、視線に気がついたサクノがあることを思い出す。


「あ、そうそう……陛下が第一国に帰還したら、即謁見の間にそこのお兄さんも連れて来るよう伝言を頼まれたわ」


「わかりました、ではボクらは陛下に挨拶と報告、それとお兄さんを紹介してきます」


ペコッとお辞儀をした後、アキラはこさめとお兄さんを連れて第一国に入って行った。

残されたサクノは、再び策の上に座り苦笑いをしつつ呟く。


「あの2人も驚くだろうなぁ……………………早く帰ってこぉい、結媠(ゆいら)


誰もいない空間、どこまでも広い空に向かって小さく、相棒の名前を呼ぶが当たり前に誰も反応することなく、サクノの言葉は誰にも聞かれることなく彼方に消える。

一方、アキラたちは第一国内を陛下がいる城に向かって歩いていた。

途中、道草などをお兄さんと楽しみながらである。


「何だあれは!食べもなのか!?」


「はい、あれは食べ物です……昔は稀少種だったのですが、今は稀少種ではなくなったモコモコ鶏の骨付き肉です」


「モコモコ?」


「はい、まるで現祖の羊とほぼ同じくらいのモコモコなんだそうです、一匹で羽毛布団が作れるらしいです……食べてみますか?」


目がらんらんに輝くお兄さんにアキラが尋ねれば、お兄さんはガッチリとアキラの肩を掴み、逃がすまいとするように必死だ。


「お願いします!」


「ふふ、わかりました……では買ってくるのでこさめはお兄さんに付いていてくれ」


「はい、マスター」


お兄さんとこさめから離れたアキラは、人混みをすいすいといった具合に可憐に交わし、すぐに目的の店に辿り着く。

2・3回言葉を交わした後、何事も無かったように再び人混みを交わして戻ってくる。

手には3人分の骨付き肉。

何を話したのか、不安げな表情のアキラ。


「どうした?」


「え、いや……ちょっと嫌な予感がするだけです」


訪ねてきたお兄さんに、アキラは少し素っ気ない回答をする。

その回答が再びお兄さんに疑問を生ませる。


「嫌な予感?」


「……何だか面倒くさい事になりそうな気がして」


不安そうな表情を見せるアキラに、別の不安を微かに抱えていたお兄さんが笑いかけた。

それを見たアキラはハッとする。

初めて第一国に来てまだ数十分であるお兄さんが、不安を感じてないわけがない。

それに比べて自分は第一国の人間、嫌な予感がするからと不安がっていることなど許されない。


「ごめんなさい、もう大丈夫です」


「お、そうか?」


「はい、さぁ陛下のいる謁見の間に行きましょう」


そうアキラは言いつつお兄さんに手を伸ばし、お兄さんはその手を取り、人混みに逆らいつつ陛下のいる城に向かって進み始めた。

やっとの思いで門の前までやって来た3人だが、お兄さんだけが疲れはててしゃがむ。


「大丈夫ですか?」


「あぁ、平気だ……さぁ、行こうか」


「……マスター、門番がこちらに来ます」


こさめの通達してすぐに門番の足音と共に声をかけてくる。

アキラはお兄さんを立たせて、門番と向き直る。


「君たち、ここから先は立ち入り禁止だよ」


「いえ、ボクたちは陛下に呼ばれて来たので」


「何?何も聞いていないぞ」


怪訝そうにアキラに視線を向けてくるが、それはアキラも同じであり、首を傾げるがすぐに理解した。

これは陛下が持ちかけて来た遊びであると。


「なるほど、わかりました……陛下がそう行動取るのであれば、ボクもボクなりの行動をすることにします」


ブツブツと呟いた後、アキラはお兄さんを見て申し訳なさそうに口を開く。


「お兄さん、すみません……陛下が少々遊びたいそうなので付き合うことになります」


「えぁ、そうなのか?」


「はい、ですのでここからは少々荒くなりますので、先に謝罪します」


「マスター…命令を」


一度頭を下げた後、命令待ちのこさめにすぐに指示を出す。

そしてアキラはお兄さんをおんぶではなく、お姫様抱っこへと変更し、【コネクト】シリーズの武器を召喚する。


「【コネクト】小縄雀(しょうじょうじゃく)


アキラが召喚したのは、パッと見鞭であるがそれは普通の鞭と違い、怪物を倒すための武器である。

アキラは外壁をさらっと確認した後、鞭を少し強めに握り高々と振り上げた。

それにより鞭の先は、延びに延び外壁のてっぺんに到着するや否や巻き付ける場所に2周する。

きちんと固定したか引っ張って確認したアキラは、こさめを先に行かせ、助走をつけて外壁を登っていく。


「それは……」


「これは、小縄雀と言う武器で……高い場所に移動する時や捕縛時なんかの時に便利なんです……さぁ、じゃんじゃん行きますよ」


お兄さんにそう告げたアキラは、言葉通りに高い場所から平気に飛び降りては、小縄雀を使ってどんどん登っていく。

もちろんお兄さんは小さな悲鳴を上げつつ、しっかりとアキラの首に腕を回し、離してなるものかと必死であった。

小縄雀を使って登ったり降りたりを繰り返して10分、やっと床に下ろされた時、お兄さんの前にはいかにも謁見の間だと宣言するような豪華な扉があった。


「着いたのか?」


「はい、到着です……お兄さんお疲れ様でした」


へたりこんだお兄さんに手を差しのべながらアキラは、微笑む。

疲れた表情のままお兄さんはアキラの手を取り、なんとか立ち上がるのと同時に豪華な扉がゆっくりと開かれた。

扉の向こうには、天井を支える太い柱。

歩く道を決められているかのように続いている赤い絨毯。

アキラとこさめが先導するようにお兄さんの前を歩き、やがて王座が間近になるとアキラとこさめは片膝付き頭を垂れた。

お兄さんもそれに習うように、片膝付き頭を垂れる。


「アキラとこさめ、ただいま帰還しました」


アキラがそう告げる。

左右には家臣らしき者たちは確かにいるが、誰一人として音をたてる者はいない。

まるで置物のように微動だにしない。


「待っていたぞ!アキラ……して、そちらがこさめの気に入った料理を作った者か?」


声的には女性だろうか……

緊張しすぎて下を向いて歩いたお兄さんは、現在進行形で床を見続けていた。


「はい、彼はポークバーガーという食べ物を扱っている店主で、普通の豚の肉を使用しているんだそうです」


「何!?怪物にもなっていない普通の豚なのか?本当に」


「お兄さん、ポークバーガーはもうないのですか?」


「ぅえ!?あ、えっと……ざ、残念ながら、今はございませんが作ることができ、ます……が」


汗をだらだらと滝のように流しながら、お兄さんは頑張った。

それを横目で見ていたアキラは、優しく微笑む。

陛下は「う~ん」と言いながら唸り、そして1つの結論に達したらしい。


「家臣たちよ、もう下がってよい……余が呼ぶまで一歩たりとも謁見の間には近づくな」


陛下がそう宣言した。

さすがにその発言には、人形のように音をたてていなかった家臣たちに動揺が走ったらしい。

だが、そんな動揺を気にすることなく陛下は王座から立ち上がり階段を降り始める。

状況が理解できないお兄さんは、微かにパニックになりつつある中、ピクッと何かを感じたアキラは、一瞬消えたかと思えば陛下の手を引き、まるで庇うような動作をしたすぐのこと。

ドォォォォオン

っとこさめとお兄さん、そして家臣たちの目の前で人一人が軽く吹き飛ぶくらいの爆発が起こる。


「へ、陛下!?」


「お怪我は!?」


「大丈夫ですか!?」


心配し、わらわらと近寄っていく家臣たちだったが陛下は何事もなかったかの様に


「何をしている?早く謁見の間から退室せよ」


「いえ、陛下……家臣の1人は退室ではなく、牢に行くべきかと」


「………アキラ?」


「【コネクト】小縄雀」


陛下を背後に回し、アキラは扉に向かって微かにずれて行っていた家臣に向かって、小縄雀を投げれば、小縄雀はまるで鳥籠のような形となり逃げようとした家臣を捕縛する。

その事を他の家臣は驚き、アキラの方を見た。


「な、何を?」


「なぜ彼を?」


「……わかりませんか?あの方が先程陛下の命を狙ったのを」


『!!!』


冷酷なまでに冷めた光の失った瞳を鋭くさせ、捕縛された家臣を見つめる。

アキラの言葉に他の家臣に衝撃が走った。

なにしろ、捕縛された人物は家臣のまとめ役又、陛下の側近だからであった。

だが陛下は、さして驚きもせず堂々とした立ち姿のまま兵に命令を下した。


「この者を地下牢へ、余を殺そうとした不届き者には死を!」


『はっ!!』


綺麗に揃った敬礼の後、兵たちは捕縛された家臣を地下牢へ連れていく。

残された家臣は少し不安げであるが、アキラがいれば安全だと再確認し、謁見の間をやっと退室していった。

残ったのは陛下・アキラ・こさめ、そしてお兄さん。


「ふぁ、疲れたわ」


「お疲れ様です」


「……陛下、お疲れですか?」


「え、えっと?」


急激な陛下の変わり様、そして駆け寄っていくこさめや笑みを浮かべるアキラ。

お兄さんには何がなんだかわからなかった。

お兄さんの状態に気づいた陛下は「こほん」と、わざと咳払いをしてドレスを整え改めて挨拶をする。


「初めまして、余は……(わたくし)はこの国の王のサメユキと言います、気軽にユキと呼んでくれて構わないわ」


「え、あ、ん?」


「ふふ、あはは」


「んん?」


「お兄さん、陛下は基本家臣の前では堂々とした王の姿をそしてボクらの前では1人の()として接してくださるんです」


「ん?んん?母?」


ダメだとわかってはいても陛下基サメユキを指さす。


「え、てことは……アキラとこさめはユキ様の息子と娘……王子と姫??」


色々なことが同時に起こり、既にパンク寸前になっていたお兄さんはまるで電池の切れた人形のように気を失った。


「お、お兄さん!?」


「あら、これは容量オーバーのようね……メイドに医務室に連れて行ってもらいましょう」


サメユキはそう言って、パンパンと手の平を叩けば、控えていたメイドが音もなく現れ、お兄さんを3人係で運んでいった。

お兄さんが連れて行かれたことにより、ついに親子だけが残る。

ふぅと一息ついたサメユキは、アキラの方を見た。


「アキラ、頼み事がある」


「……はい、何ですか?」


「ちょっとお人形使い育成している学園に行って、どんな調子か確認してほしいの」


「なぜ、命令ではなく頼み事?」


サメユキの頼み事を聞いたアキラは、首を傾げた。それを予想していたと言うばかりのサメユキは、微笑み言葉を口にする。


「だって今は人間だし、それにこれは人間側の頼み事よ」


「………」


「じゃあ明後日から学園に通って、教師たちには(わたくし)から伝えておきます……あ、それと学園にこさめも通うことを許します」


「?私もですか?なぜ?」


「だって貴方はアキラのお人形、離れることはアキラの命令なしでは許されないわ」


「畏まりました、マスターの命は私が守ります」


ペコッと頭を下げる。

アキラは街で感じた嫌な予感がこの事だと理解した。

サメユキが言う学園は、お人形使いを多くでも生み出すための教育の場所。

アキラの嫌がる面倒事とは、基本的に学園は寮生であり、相部屋になった者は食事・勉学・風呂などといった事を共に行動せねばならず、夜間には外出を禁止されている。

1人になる時間がなくなるのである。

普段からこさめを連れて歩いているが、それは既に長年一緒にいるためつまりは、慣れである。


「頼み事……聞いてくれるわね?」


「……畏まりました、我が主……ボクの命・体は全てあなた様の物、あなた様が望み全てを叶えること即ち、ボクの至福」


片膝を付き、慣れた手付きでサメユキの片手をそっと取り、手の甲に口付けをする。

サメユキはとても満足そうに満面の笑みで顔を歪ませた。

それもいつもの事であり、その歪んだ顔を少し離れた場所で立っていたこさめは見ていた。

アキラがサメユキの手の甲に口付けをする度に彼女は歪んだ笑みを浮かべる。

その顔は今にもアキラを襲いたがりそうにしている。

こさめはいつも警戒していた。

サメユキがいつでもアキラを襲ったとしても、瞬時に殺せるように。


「では、頼みましたよ」


「はい」


互いに笑みを浮かべ、アキラはこさめを連れて謁見の間を後にする。

残されたサメユキは王座に戻り、腰を下ろす。


「ふふ、やっぱりアキラは人間の時でもお人形の時でも素敵だわ……はぁ、早く(わたくし)の物に完全に堕ちないかしら」


サメユキの呟きは誰にも聞かれることなく消えていく。ただ謁見の間に荒い息だけが響く。

謁見の間を後にしたアキラとこさめは、真っ先にお兄さんのお迎えに行っていた。


「お兄さん、起きてるかな」


「どうでしょうか、1日に抱え込めない量の情報を入れられたので」


「確かに」


こさめの言葉に納得しつつ、医務室に到着。

扉を開ければ、元気な叫び声が聞こえてきた。

アキラはバンッと扉を開けて中に入れば、ベッドの上で布団を頭から被りプルプルと震えているお兄さんを目撃。

お兄さんもアキラに気づけば、「アキラ……アキ」と小声で手を伸ばす。

そんは半泣き状態のお兄さんに近寄り、伸ばされていた手を取る。


「大丈夫、安心してください」


「あ……ぁ」


ぽんぽんと優しく背中を叩き安心させる。

それによりお兄さんは落ち着きを取り戻す。


「すみません、知らない場所で1人にしてしまい……怖かったですね」


「い……や、こっちもすまなかった……取り乱して……」


「いいんです………さぁ、今日から暮らす家に行きましょう」


にっこり笑ってアキラはお兄さんをベッドの上から下ろし、お兄さんがこれから住む家に案内し始めた。

歩き始めて30分くらいが経過した時、アキラの足は止まりお兄さんを見た。

その時お兄さんは真横にある建物を見た。

マンションのように縦に長く4階建て、1つ1つの部屋が以外と広く、ベランダ付き。

ふとお兄さんは、出入り口に立っているメイド服を着た女の人に気づく。


「あの人は?」


「あの人は、このマンションの清掃を担当していて他のメイドをまとめるメイド長のオートマタですよ」


「オートマタ?初めてみた」


「この第一国は、基本オートマタをサポートに露店や清掃、従業で使う教材運びなど手伝いに使っています……お人形と違って誰にでも扱える事から1人1機を持つのが当たり前になりましたね」


「じゃあ俺も?」


「はい、持つことは可能です……少々値は張りますが」


「よし、第一国(ここ)で稼いで絶対買う!」


お兄さんの第一国に来て、初めての目標作りに少し楽しげであったが、もうすぐ夜になるため今日はこれで別れることになった。


「部屋に関しては、あのメイド長に聞けば案内をしてもらえるはずです」


「わかった、じゃあ」


「はい」


ぎこちなく別れを告げてお兄さんと別れたアキラは、自分の家に向かって歩き始める。

街灯に光が点り始め、昼とは又違う夜の活気が沸き上がり始める中、静かに移動していたアキラは、ふと呟く。


「本当に面倒くさいことを押し付けてきましたねあの人は……なぜ昔のボクはあの人を信用してしまったんでしょうか」


「?」


「困ったものですよね……こさめ」


後ろを歩くこさめに声をかけるが、首を傾げるだけで何も答えない。

それを察していたアキラは、再び無言で夜になりつつある空を見上げながら歩いた。


(あの時……ボクがあの人に何かを望まなければ、ボクらの行く未来も違ったのかな?)


そっと目を瞑ると、優しく誰かが手を握ってくれた事に気づく。


「?」


「私はマスターに付いていくだけ……でも、それがマスターのストレスや不安、苦しみになるのでしたら迷わずに切り捨ててください」


「別にお前を切り捨てることなんて無いさ、こさめはボクが犯してしまった罪そのものなんだ……謝っても済むことじゃない」


コツンとアキラはこさめのおでこに自分のおでこを合わせる。


「お前は、ボクの大切な()何だから……絶対に人間の部分を取り戻して見せる」


アキラは言葉にして強い決意を心に刻む。

こさめはよくわかっていなさそうに首を傾げるだけであったが、なぜか心ではホッとしているのを感じていた。

そうこうしているうちに完全に夜を向かえた街をアキラとこさめは、手を繋いで自分達の家に向かって歩いた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

第零章は、今回で終わりになります。

次回から第一章を乗せていきますので、引き続き読んでくだされば幸いです。


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