第零章…「少年の秘密」2
前の章と同じ第零章になります。
一部、・の位置などずれている場合があります、ご了承ください。
怪物の出現により、地面にはヒビが入り、所々には穴が作られる。
穴が作られた場所から沸き上がる怪物。
出現箇所は、露店のポークバーガーをやっていた場所。出現数現在は3匹いるが、まだまだ増えそうな予感を少年は感じていた。
「お、俺の店が!」
「もう少し離れますので、口を閉じてください」
表情を変えずこさめは、更に後退しようと跳躍する。飛んでいる最中お兄さんは「うわぁぁぁ」と恐怖のあまり叫んでいた。
その叫び声を遠くで聞きつつ、防御壁内にいた数人のお客さんと少年は、怪物が出現した場所の間近に滞在。
防御壁のおかげで無傷であるが、時間の問題である。
その事を理解していた少年は、次の行動に移っていた。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
「へ、平気よ」
「だ、大丈夫です」
「うわぁぁぁん!!怖いよぉぉぉ!!」
「お母さん!」
「こっちも平気だ」
少年の確認に大人は返事を返し、子供は恐怖に泣き叫んでいた。
そんなお客さん達を無傷で日常に返すために、少年は笑みを作りながら子供達と同じ視点となり、口を開く。
「ふふ、そんなに怖がらなくて大丈夫ですよ……お兄さんを誰だと思っているんだい?」
「?お兄ちゃんでしょ?」
「お兄ちゃん?」
しゃくりながら答えてくれる素直な子供達に、少年は変わらない笑みを向けたまま口を開く。
「お兄さんはただのお兄ちゃんじゃないよ?魔法が使えるんだよ」
「嘘だぁ、魔法使いは遥か上にいるって本で読んだぞ」
「魔法使いには、使い魔がいるって本で読んだ」
「そうだよ、その遥か上の魔法使いが今目の前にいるんだ……ほら、見てて」
子供達に向かって手には何もないことを証明した後に、ぎゅっと握り拳を作り、適当に閃いた呪文染みた言葉を紡ぐ。
「プペパラへパラライハ」
(我ながらダサい)
などと考えつつ、少年は手首を回してから拳を解放すれば、手の平から飛び出す火で作られた花の造形。
まるで飛び出し絵の如く、花の造形は子供達に向けて飛び出す。おまけに火で作った蝶々も数匹付けておく。
「うわぁ、花だ」
「蝶々もいる」
泣き顔から笑顔に。
本当に子供は表情が豊かだ。
恐怖が消えたことを表情から読み取り、今度は大人に向かって少年は口を開く。
「これからお客様には安全な場所まで送り届けます」
「あ、安全な場所なんてわかるのか?」
「そうよ、見回す限り怪物で他がよく見えないじゃない!」
「大丈夫です……ボクを信じてください、すぐに終わります」
少年はそれだけを伝えてすぐに目を瞑り集中する。
視覚を遮断し、音だけに集中。
こさめの位置を特定するために。
だが、音だけでは不十分のため契約により主人とお人形は、どんなに離れていようとテレパシーのように脳内で会話が可能である。
(こさめ、今どこにいる?)
(はい、マスター……私は今、マスターの位置から南よりの少し建物が高い場所にいます。
他に確認できるのは、怪物の数です)
(怪物は全部で何匹だ?)
(はい、マスター…怪物は全部で7匹です)
(了解、これからそちらに数人のお客様と共に移動する……その後、怪物を排除する)
(はい、マスター…お待ちしております)
その会話を最後に、特定したこさめの位置に少年はとある作業を固定し、そしてぶつぶつと呟く。
「守護する精よ、我の望む場所へと、移し給え」
少年がその呟き終われば、防御壁の回りをクルクルと光る何かが数匹飛び始める。
数人のお客さんは「何あれ」と口にするが、少年は構うことなく、グッと再び目の前で拳を作れば、辺りは一瞬にして変わる。
先程まで怪物に囲まれていた少年達は、気づけば高い建物に移動し、怪物を見下ろす形となっていた。
「え」
「どう言うことだ?」
「お兄ちゃんすごーい」
「すごーい」
「では、これから怪物の殲滅を開始しますので、皆さんはここから降りないでください」
「マスター、私はどうしますか?」
知らぬうちに背後にいたこさめに、少年は驚くことなく振り返り口を開いた。
「こさめはここの人達の護衛を」
「はい、マスター」
「おい、そこの女の子はお人形なのか?なら、そっちに化け物を倒しに行かせろよ!」
「そうよ、女の子が残れば誰があの化け物を倒しに行くのよ!」
恐怖のあまり、少年に当たる言い方をする男女に少年は優しく笑みを作りながら口を開く。
「大丈夫です」
「………」
「なにせ、ボクもまたお人形なのですから」
その言葉を残し、少年は高い建物から飛び降りる。
残された人達は自然と、一緒に行動をしていたこさめを見るが、こさめは一言も発することなく、ただ少年の帰りを待つことにする………
はずだったのだが、頭上から聞き慣れた声がし、こさめは上を見つめた。
「帰りが遅いと思ったら、なるほど」
「………」
「君は相変わらず無口ですわね」
親しそうに話しかけてきたのは、狼の皮を羽織り、下着と間違えそうになる大胆な水着、腰に巻いたヒラヒラとした薄いの布の隙間から除く生足。少しそこの厚いサンダルを履いた美少女。
「お姉様、こさめのマスターはあそこにおります」
そう美少女に告げたのは、美少女の趣味なのか首には鎖の付いたチョーカー、肩を出し胸元は大きく開かれ、丈の短めなワンピースを着た少女。
「あら、あの子……大丈夫なの?」
「はい、マスターは大丈夫です」
「そうですね、あの方は唯一無二の帰還したお人形なのですから」
美少女の言葉に真っ先に反応をしたこさめに同意する少女。
そんな訳のわからない会話をしている3人に対し、全く状況を理解できていない住人達に美少女は、誇らしげに威張りつつ口を開いた。
「ご安心を、私は第一国・第一級お人形遣いですわ……こさめとあの怪物の向かっていた子を迎えに来ましたの……あぁ、安心してください、あなた達を私も護衛をしてさしあげますわ」
「お前達はあの少年の仲間か?」
「あら、あの子は教えていませんでしたの?自分が第一国の住人だと」
「俺はお人形遣いとは聞いてました」
「あなたは?」
美少女の問いに反応したのは、ポークバーガーのお兄さんだった。
再び美少女が訪ねると、今度はこさめがお兄さんの前に立ち口を開く。
その行動に、美少女とそのお人形の少女が微かに驚く表情をする。
「はい、こちらはポークバーガーの店主です……マスターと立ち寄り少し会話をしました」
「こさめは、そのお兄さんを庇うようにあの子に命令されたのかしら」
「いいえ、マスターはただここにいる人達の護衛だけを命令されました。
この行動は、私の自己判断だとお伝えします」
「そう……本当にあなた方は特殊なのね」
その言葉を最後に、誰も声を出すこともせず、ただ少年の帰りを待つのであった。
一方怪物に向かって飛び出して行った少年は、怪物の真下に立ち、怪物達を見上げていた。
見た目はミミズのようだが、当たり前に別の生き物である。
頭と思われる場所をグパァと開かれ、ボタボタと垂らす唾液。
唾液には特殊な成分が含まれており、唾液に捕まればもがく程に飲み込まれ、体力を奪われ、次第に意識が低下する。
そしてゆっくりと地面から出現し、補食するのだ。
「これより、ゲルティートを殲滅します」
そう告げた途端、少年の瞳から光りは消え、まるでお人形の様に成り変わる。
いや、少年の本来の姿と言えよう。
少年は、去年まではお人形として生きていたが何がきっかけだったのか突如切り落としたはずの感情を取り戻し、唯一お人形になってから戻ってきた人間となった。
そしてありとあらゆる検査をしたが、人間に戻れた理由は不明のまま、だが契約はそのまま残っているようで、主人が命令を下せばお人形に戻ることは実験によりわかっていた。
それ以外にも、主人の命令なしに自己判断によりお人形に戻ったり、人間に戻ったりと自由自在に切り替えが可能となっていた。
「【コネクト】死奏月」
お人形となった少年が呟くように言葉をはけば、右手に光の粒子が集まりそれは真っ白な太刀を作り上げる。
少年はその太刀の柄をギュッと右手で握り、触手のような物で攻撃を仕掛けてくるミミズのような怪物に対し、少年は目で追えない早さで触手を切り刻みつつ平然と歩いている。
そんな少年に触手を横凪で振り、少年が交わし着地する場所を予測し、真下からグパァと口を開いて待ち伏せする。
「【コネクト】月光咲夜」
先程まで持っていた太刀を宙に放り投げ、新たな武器を召喚する。
その武器は先程の真っ白な太刀とは真逆に、黒い弓である。
少年は空中でバランスを取り、弓を引く動作をすれば再び光の粒子が集まり矢の形を作り出す。
ある程度狙いを定めれば、少年は矢の先に魔力を込める。
「そろそろ大人しくしてください」
そう言い残し、矢を放てば矢は真っ直ぐに怪物の口の中へと入り、そしてすぐにどこかに刺さった矢は魔力を解放。
少年が込めた魔力は氷属性であり、それは怪物全てを凍らすほどの威力を秘めていた。
瞬く間に怪物は凍り、少年はとどめと言うように月光咲夜を宙に放り投げ、再度召喚した死奏月を落下の勢いをそのままに地面に突き立てる。
「死奏月……静かに奏でよ、死の歌を」
少年の言葉に答えるかのように、死奏月は人間には聞こえない音を発生させる。
その音は聞こえずとも、衝撃波のように肌を通し微かに感じることができた。
少しした後、凍りついた怪物は全て死奏月が出した歌 基衝撃波により粉々になり第5国に落ちていった。
一人残された少年は、握っていた死奏月から手を離し、避難している人達の方を見つめ、一旦深呼吸をしてから歩き出す。
その後ろで、死奏月が光の粒子となり消えるのを感じた。
怪物が凍りついたと思えば、一瞬で粉々になり消えてから少しすると、無傷で戻ってきた少年に誰もが言葉を失っていた。
同じ第一国の三人を除いて。
「お帰りなさい、さぁ帰るわよ……あなたの主人が子供みたいにしょげてましたわ」
「………そのまま昇天してくれたら嬉しいですね」
小言を口にしてから少年は、美少女と向き合い笑みを見せる。
今の少年は人間だと、第一国の三人は判断した。
「こんにちは、サクノ姉さん」
「ふふ、やっぱりあなたは素直で好きよ」
サクノと呼ばれた美少女は、嬉しさのあまりギュッと少年を抱き締める。
そんな平和な空気の中、第四国の住民 否怪物が出現した当たりに家を持っていた者、露店をやっていた者達が嘆く。
それに合わせたのか、ただの偶然か少年に一通の電話が入る。
「はい」
≪はいは~い、私だよ?私≫
「……詐欺ですか?」
≪違うわ、も~わかってるくせに≫
「切っていいですか?」
≪わ、わぁ!ダメ、切らないで≫
「用件を、短縮的にどうぞ」
ふざける通話の相手に対し、少年は無表情だが声音は少しイラつきつつ会話する。
それを端から見ていた住人たちに気づき、少年はスピーカーへと切り替える。
≪少し前に第四国にて、怪物の攻撃により警報がなった……君たち二人が第四国にいることは知っているし、怪物もすぐに討伐してくれたことでしょ?≫
「はい、ですが怪物の出現場所が建物や露店が開かれていた場所で、建物は半壊し又、露店の商品も被害を受けました」
≪なるほど、わかりました……直ちに第四国に専門の奴らを数人向かわせる。
君たちは帰還を最優先してください≫
では…と切ろうとする相手に空かさず少年はスピーカーを切り、耳に当てつつ言葉を発する。
「あの、お願いが」
少年の珍しい呼び止めに、嬉しげな声と共に≪何だい、何だい?≫と聞いてくる。
少年はイラつきを押さえるため、大きく深呼吸をした後に口を開く。
「とある営業者一人を連れて帰ってもよろしいですか?」
≪?何か問題が?≫
「いえ、あの……ボクもですが、こさめがその営業者の作る物を気に入っていて……是非第一国の人たちにも食べていただきたくて」
≪………うん、待っているよ≫
少年のお願いを聞いた相手は、電話越しであっても優しく微笑んでいることは、声音から読み取れた。
それだけを告げると、少年は携帯を切りポンチョコートの内側ポケットにしまい込むと、ある人物に声をかけた。
その人物こそ、第一国に連れ帰る人である。
「お兄さん、ボクらと第一国に来てください」
「え、俺が?」
「はい、第一国の皆にもポークバーガーを食べてほしいんです」
少年の言葉にお兄さんは昔の夢であった1つを思い出す。
それは、大人になったら第一国に行ってみたいというものであった。それが今、一人の少年により叶おうとしていた。
それをみすみす見逃すことが、お兄さんにはできず差し伸ばされた手を取る。
「よろしく頼むよ……えっと」
「あぁ、ごめんなさい……自己紹介がまだでしたね、ボクは第一国・第一級お人形遣い又は、女王陛下のお人形のアキラと言います」
「………?女王陛下のお人形?」
アキラと名乗った少年は、首を傾げながら「どうしました?」と聞いてくる。
が、そんな言葉はお兄さんの耳には届かずに、「女王陛下のお人形」とぶつぶつと呟き続けていたのだった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回の章も読んでいただければ、幸いです。