第四章…「行きたい場所」3
遅くなりました。
第二国に観光しに来ていたアキラたちは、街並みを見ながら人混みのない道を歩く。
時折、アキラが永燐と鷹都に使用した魔法の手錠が、カシャン!と音を立てている。
その度に音がした方を見れば、永燐と鷹都が逆方向に行こうとしている。
これで何度目だろう……などと考えているアキラは、ジト目を向けて口を開く。
「何やってるんですか?」
「だって永ちゃんが!」
「だって鷹都が!」
学園では見られない反抗、アキラは1度ふぅと息を吐いてから、ガミガミうるさいお母さんの様に、何かに目覚めたかの様に勢いのまま怒る。
「何度やれば気が済むんです!?1度やれば譲り合ってください!それができないなら、じゃんけんで交互に見たい順番、気になる場所を指定すればいいじゃないですか!?
ボクとこさめはきちんとついて行くので!安心して決めてください!!」
初めてアキラに怒られた2人は、呆然とアキラを見ていることしかできず、いつまでも返事が聞こえなかったため、しびれを切らしたアキラが再び怒る。
「返事はどうしたんですか!?口すら無くしましたか!!口は飾りですか!ほら、返事は!?」
『はい!お母さん!!』
「誰がお母さんですか!?せめて呼ぶなら、教官…にして……くださいっ!!」
そこまで言ってからはっと我に返ったアキラは、段々と頬赤く染めていく。
それを知ってか知らずか、2人は敬礼と共に叫ぶ。
『はい、教官!!』
「あ、あぁ…あぁぁぁ、ごめんなさいぃぃ」
両手で顔を隠してしゃがみ込む。
そんなアキラを見つめていた永燐と鷹都は、「あれ、止めちゃうの?」と言いながらふぅと一息つく。
「アキラの言う通りだから謝るなよ………」
「そうだよ、アキラは間違ってないから安心して」
「以外とあのノリが楽しくなってしまい、普段怒らないので……自分が見て学んだ事をしましたが、怒ると疲れるんですね」
チラ見をしながらそう言うアキラの瞳をよく見れば涙が滲んでいる。
どうやら今半泣きしているらしく、それを見た永燐と鷹都の反応は、無言でアキラの頭を撫でる。
普段頭を撫でる側でいたアキラは、撫でてもらったことが全くなかった、思わず後ろに控えていたこさめに抱きつく。
これ以上はアキラが恥ずかしさで死んでしまうと、察した2人は話題を変えるために口を開く。
「で、鷹都はどこを見たかったの?」
「俺はあそこの建物が気になって」
鷹都が指を指す方を誰もが見た。
建物の出入り口の真横に置かれた看板。
「万華鏡?」
「昔に読んだ本に同じ名前の物がありました……」
「へ~、アキラくんってどんな本読むの?」
「ボクは基本的に昔のもの、まだ第五国にいた頃にあった本を読みます、読む本がなくなった時は昔話やおとぎ話、空想上の物語を読んでいます
………もし、気になるのでしたら今度ボクのオススメする本を貸しますよ?」
「本当?是非お願い」
「わかりました」
2人の話が終わったのを見計らった鷹都は、少しだけムスッとした表情で声をかける。
その表情をチラ見したアキラは、おや?っと感じた。
「で、俺ここが見たいんだけど…いいか?」
「いいよ、私も気になってきたから」
そう言って2人は店の中に入る。
外に残されたアキラとこさめは、少しだけ辺りを見渡していた。
なにせ第二国に来たのは、初めての事。
色々と興味を持つのは仕方のないこと、辺りを見渡している途中ふと、先程の鷹都の表情を思い出す。
「こさめ、さっきの鷹都の表情……どう思う?」
「どう…とは?」
アキラの問いに、こさめは首を傾げて問い返す。
その答えを出すためにう~んっと唸り出す。
少しの間考えて、アキラが出した答えは____
「嫉妬かな」
「嫉妬…ですか?何の?」
「さぁ、何のだろうね」
嫉妬っと答えを出したが、何の嫉妬なのか考えるのが面倒になり放棄される。
少し遅れたが、アキラとこさめも万華鏡店に入る。
店に入り真っ先に目に入るのは、正二十面体と呼ばれている物が天井からいくつもぶら下げられている。
よくよく目を凝らしてみれば、その全てがステンドガラスでできていた。
上から下に視線を下げたアキラは、すぐに店の中央で既に展示していた万華鏡を手に持ち、くるくると回している鷹都と永燐の姿が目に入る。
2人が発している言葉は、「お~」か「わ~」又は、「スゲー」か「綺麗」の4つのみである。
「実物を見たのは初めてですね」
「お、あっくんやっと来た」
ボソッと呟いた言葉にいち早く反応を見せたのは鷹都だった。
永燐は万華鏡に夢中らしく、いまだにくるくると回している。この様子では、音も声も聞こえてはいないのだろう。
「すみません、ちょっと辺りを見てからこの店に入ったので……何か気になる商品はありましたか?」
「あったけど、高すぎて買えない……お金が貯まったら買うよ」
「そうですか……ちなみに、おいくらだったのですか?」
「1ダガル」
「ダガル!?」
ダガルは、昔の金額に合わせると億になる。
あまりの金額にアキラは驚く。
その反応に鷹都も1度ため息をつき、「やっぱその反応だよな」と言う。
そんな大金を、学園に通う学生が出せるわけもなく、今は諦めたらしい。
「本当は買った方がいいのは知ってる……けど高額すぎる」
「……ちなみに何を買おうとしたんですか?」
「こっち」
そう言って鷹都はアキラを連れて、欲しかった物の所に向かう。
辿り着いたのは、店の中になぜか置かれた仕切りの向こう側。
辺りを見れば、そこがアクセサリーなどが売られていた。
部屋に置いておくタイプではなく、身に付けられるタイプの万華鏡がその仕切りの向こうにはあった。
「これ」
そう言って鷹都は指を指す。
自然と指された方を見ると、ネックレス型の万華鏡。値札を見れば、確かに1ダガルと書かれていた。
ふむっと考えたアキラは、1つの提案をする。
「ボクの部屋に似たような物の作り方が書かれた本があったはずなのでお貸しますか?
それを真似て、自分なりのアレンジを入れながら作るんです」
「手作りか……うん、それなら費用とか安くすみそうだ」
「では、今度探して渡しますね」
「頼む………あ、この事は俺とお前の秘密だ」
「ふふ、わかりました……男同士の約束です」
男同士の約束と自分で言ったアキラだったが、それだけで楽しくてつい口を滑らしてしまいそうになるくらい、今は嬉しく感じていた。
男同士で約束をするのは初めてではない、ただ今まで約束をしていた場所は全て第五国であった。
だから______
ある男は、自分だけが生き残れないと気付き家族の伝言をする奴。
ある男は、一緒に生きて帰ろうと勝手に約束をしてきた奴。
ある男は、明日に結婚式を控えていた。だから速く帰ろうと、そして式に参加して欲しいと言われて約束した奴。
その誰もがアキラの目の前で死んでいった。
だから、こういった平和な場所で、平和な約束をするのは初めてで嬉しかった。
「何ニヤニヤしてるんだ?」
「え、ボク…そんなにニヤニヤしてます?」
「あぁ、スゲーニヤついてる」
自分で頬を触って確認するがよくわからない。
そんな事をしといると、探していたのだろう。
ひょこりと仕切りから顔を出して辺りを見渡す永燐と目が合う。
アキラと鷹都を見つけた永燐は、頬を膨らませて近寄ってくる。
「こっちにいるなら一声かけてよね」
「ごめんごめん、こっちの用事が終わったから永ちゃんが見たがってた方に行こうぜ」
そう言って鷹都は永燐を連れて店を出る。
自然と2人を追ってアキラとこさめも店の外に出る。
外に出たアキラは自然と空を見上げると、夕方に近づいていることに気づく。
「マスター、こちらを永燐様が買ってくれました」
そう言ってこさめが見せてきたのは、ウサギ型をしたステンドガラスのように見えるプラスチック版のピアス。
「2つあるのですが、1つはマスターに付けて欲しいです」
「いつの間に………でもいいのか?せっかくのお揃いなんだろ?」
「はい、マスター…だからこそです
私とマスターは合わせて1人です……なので、もう片方を付けて下さいませんか?」
差し出してくるもう1つのウサギ型のピアス。
ん~と悩み始めるアキラに対し、状況を理解しているのか、永燐が横から会話に加わる。
「いいじゃない、お人形遣いとお人形は揃わないと意味がないって、授業で習ったし……アキラも一緒にお揃いだね」
「………ふぅ、永さんがそう言うならこさめ、片方はボクが貰います……後で一緒に付けましょう」
「はい、マスター」
差し出されたウサギ型ピアスを受け取ると、今も変わらずの無表情であったこさめが笑っている様にアキラには見えた気がした。
その事を声には出さなかったが、嬉しく感じながら次の目的地、永燐が気になっていた場所に着く。
出入り口の真上に大きく書かれた、雑貨屋と書かれた看板。
「雑貨屋?」
「そう、そろそろノートとか消ゴムとか使いきるから買い足さないといけなかったのを思い出したの」
「あ、俺もシャーペンの芯を買わないとないんだった」
永燐と鷹都がそれぞれそう呟きながら店の中に入る。
雑貨屋は別に第二国にしか無いわけでなく、第四国を除いた国全てに雑貨屋は一応存在する。
単純に、思い出した場所が第二国だっただけなのだ。
再び置いてかれる形になったアキラとこさめも、すぐに店の中に入る。
ノートもシャーペンも文房具は一応揃えているが、いまだに1度も使ったことがない。
店内には既に欲しいものを手に取り、商品を見ている途中の2人。
無地や線が引いてあるノート、カラフルな蛍光ペンが並べられ、多種多様のペンケースがあった。
「………普通に地味な奴でいいと思うけど」
「わかってないな、あっくん」
「そうだよ、地味な奴より可愛い又はかっこいい方がいいでしょ?」
『??』
アキラの呟きをたまたま近寄ってきていた2人は聞いたらしく、そう言い始める。
が、よくわからないと言いたげな表情をするアキラと同時に、こさめもわからなかったらしく首を傾げる。
そんな2人にもどう説明すればと頭を悩ませ始める永燐に対し、すぐに何かを閃かせた鷹都が口を開く。
「例えばだ、ここにキャベツもピクロスも豚の肉を挟んだとても美味しそうなポークバーガーがあるとする、そしてその隣に置いてあるのは、隣に比べて豚の肉を挟んだだけのポークバーガーがある、しかも値段は一緒。
……アキラならどちらを取る?」
「普通に美味しそうなポークバーガーを取ります……そしてこさめに上げます」
キリッとしながらアキラは当たり前のようにそう即答する。
そんなアキラがおかしく、笑いかける鷹都だったが何とか堪えて口を開く。
「それと似たようなものだな大体、地味な奴よりも可愛かったりかっこいい奴の方がいいんだよ……
もし300メルの値段の差があったらまぁ悩む奴は悩むしな」
「…………そう言うものですか」
何となく納得したアキラは、興味がなさそうにそう返す。
ふと隣にいるこさめを見る。
(こさめも女の子、可愛いものが欲しくなるのかな……)
「こほん、こさめ」
「はい、マスター」
何となくで咳払いをしてこさめに声をかけると、返事はすぐに返ってくる。
「ここには一応こさめの買い物の練習を含めて来ている……だから、こさめのお小遣いで欲しい物何か買うといいよ」
そう言って、昨日渡した可愛らしい財布を異空間から取り出してこさめに渡す。
中身はいじってないから、昨日お釣りで貰ったお金と4ガルが入っている。
なので全て合わせれば、4ガルと9シル997メルがこさめの今のお小遣いだ。
「マスターも一緒に見ませんか?」
「大丈夫、そのつもりだから……買い物はまだ2回目だからね」
こさめの言葉が嬉しく、微笑みながらアキラはそう答える。
だが、欲しい物と言っても前とは違い、ここは雑貨屋だ。文房具しか置いていない。
商品を見つめながら歩き出すこさめについていくアキラも何気に商品を見ながら歩く。
少し回ったが、これと言ってピンッと来たものがなく、アキラはチラ見でこさめを見た。
だがこさめも同じだったらしく、商品を眺めるだけで手には取らなかった。
「こさめ、欲しいのがなかったら別に無理に買わなくていいんだぞ?」
「はい、マスター……これと言って欲しいと言うものが判断できません……ですので、財布をお返しします」
ずっと手で大切そうに持っていた財布をアキラに返す。それを普通に受け取り、「ここじゃあ無理だよな」とアキラは苦笑いをする。
次の店はどこに行こうっと、赤とオレンジのグラデーションを彩る空を、小さな窓から見上げながら考える。
ふとそこでアキラは思い出す。
「そう言えばあの2人には門限があるのかな?」
「……ん?門限か?一応あるぞ?」
「あ、もうそんな時間?」
またもやアキラの呟きを聞いて答えた鷹都と永燐。
2人に自然と視線を向けると、白い袋を持っている。
「もう終わったんですか?」
「うん、私はもういいかな」
「俺も平気だ……アキラはどこかに行きたい場所とか気になる場所とかないのか?」
「え?」
突然振られた事に驚き、声が裏返ってしまう。思わず出た声に更に驚き、両手で口を隠す。
「さっきから俺とか永ちゃんが気になった場所に行ってただろう?…だから最後はアキラが気になった場所とか行こうぜ」
「…………気になった場所………」
ふむっと考え込むアキラだったが、遠くから聞こえてくる音にピクッと体が反応する。
その音は普通の人間には聞こえず、お人形遣いの第一級のみが聞こえる不思議な音。
その音を聞いた途端、アキラの表情から笑みは消え、真剣な表情に切り替わる。
「すみません、急用が入りました…ボクは急いで帰りますので、2人は気をつけて帰ってください!」
そう言い残し、アキラは慌ただしく店を飛び出して行った。当然その後をこさめも追って行った。
残された永燐と鷹都は、互いに顔を見合わせて首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「……………………うん、深く考えない方がいいかな」
そう鷹都に聞こえないくらいの声で呟いた永燐は、普段と変わらぬ態度で鷹都を見ようとした時だった。
はぐれない様にとアキラが魔法で付けた手錠がパシッと音を立てて消える。
それを見た後、鷹都を見て永燐は微笑む。
「鷹都、帰ろうか」
「そうだな」
そう言って2人も店を出る。
尽きることの無い花びらが舞う夕方、永燐と鷹都は静かに学園のある島に帰宅した。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
次回は休みになります。
第四章4の掲載日は、11月6日(土曜日)になります。