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名のない物語  作者: 夜桜
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第四章…「第二国へ」2

あれからシグレと別れ、ポークバーガーを食べ歩きしながら第一国をぶらぶらと歩いていた。


「はぁ、美味しかった……確かにこさめちゃんが気に入るのもわかるわ」


「うん、初めての味だ……あれなら毎日でも食べたい」


「ふふ、それはシグレ本人に言ってください……あ、こさめ…口にソースが付いてますよ」


そう言ってアキラはこさめの口元に付いていたソースをティッシュで(ぬぐ)う。

大体を見つくしたアキラ達は、まだ何処か見たい場所がないか次第に聞き始める。


「どこか、見たかったり買いに行きたい場所はありますか?」


「ん~、私はもう良いかな」


「俺も平気だ」


「じゃあ、次の目的地は第二国ですね」


「さんせ~い」と賛同する声と共に、第二国に向けて出発する。

当たり前に生身で降りるのは、基本緊急時又はお人形遣い同士の場合のみのため、アキラとこさめは初めて第一国から第二国までエレベーターで降りる。

学園にあるエレベーター同様に、360度のガラス張り。

こさめはあの時と同じで、今回は下から見えてくる花畑を黙視している。


「こさめちゃん、すごい見てる」


「そんなに興味引かれるものがあるのかな?」


「いつもは生身で降りているからですね」


そう言ったアキラをバッと揃って見てくる永燐と鷹都に気づいたアキラは首を傾げる。

事実、お人形遣いになれば自然と生身で降りる。例え、見習いだとしても例外はない。

一応第二級は第三級の見習いたちと第五国に向かう時にはお目付け役として、常にツーマンセルとなって行動している。

もし見習いの方が人数が多かったとしても、スリーマンセルに切り替わる。

この事は学園から卒業したら教えられるため、2人が驚くのも仕方がなかった。

その事に気づいたアキラは、「なるほど」と呟きながら頷く。


「これは卒業してから教わることなんですね……永燐さんと鷹都くんにもお人形遣いになった時、ある意味のバンジーを一緒にしましょうね」


満面の笑みで言ってくるアキラに対し、まだ見えない未来に恐怖する様に青ざめる。

そんな時、静かにエレベーターは止まりドアが開かれる。


「到着したみたいですね……第二国には初めて来ました」


「え、そうなの?」


「結構仕事とかで来ないのか?」


「いえ、1度もないです……あるとしたら第三国にちょっと威嚇しに行ったくらいです」


え~とっと考えながら口にする第三国の話に、2人もあの国がどういった国なのか理解しているらしく、「あぁ、あの国ね」と小さく溢す。

エレベーターから降りて話しながら歩いていると、第四国を除いた他の国に当然ある検問場所に到着する。

花びらが舞う中で、軍服を着こなした男性が1人近寄ってくる。


「失礼、これから検問をさせて頂きます」


「はい」


「ありがとうございます……それでは、一人一人させて頂きますので、そちらの女性から」


そう言って男性が最初に指名したのは、永燐であった。

「わかりました」とだけ軽く返事をして、永燐は男性についていく。

少し離れた場所で2人は止まり、何度か言葉を交わした後、永燐は先に進み男性だけが戻ってくる。


「では、次にそちらの男性」


「は~い、じゃあ先に行って待ってる」


「はい」


次に指名された鷹都がそう言って男性についていき、永燐と同じ様に少し離れた場所で何度か言葉を交わした後、鷹都は先に進み男性だけが戻ってくる。

チラッと奥にいる永燐と鷹都は本来の第二国の出入り口の前で待っていてくれている。

それを見て1度軽く微笑み、再び男性の方を見た。


「では次に」


「あ、ボクだけでいいですよ」


「?なぜだ?」


「彼女はお人形、ボクはお人形遣いなんです」


アキラの言葉にはっと息を飲む男性は、別の検問を始める。


「わかりました、それではお人形遣いである身分証をお願いします」


「はい、これであってますか?」


そう言ってアキラはポンチョコートの内側ポケットから取り出した首掛け式の確認書を男性に渡す。

確認書の中身を確認した男性の表情が一瞬強ばるが、その事に気づいたアキラは小さく手で制止する。


「安心してください、ボクは今学生です……それに任務でもありません、ただ観光しに来ただけですよ」


「!!、畏まりました……それではどうぞ」


そう言って確認書を返し、先を促す。

それを見たアキラは頷いて、待ってくれている2人の元に向かう。

永燐と鷹都は何か楽しげに会話していたが、近づいてくるアキラに気づき、笑みを向けてくれる。


「お待たせしました」


「そんなに待ってないよ?」


「そうそう、例えどんなに待つことになっても会話する話題は沢山あるからな」


きょとんとする永燐に対し、鷹都は笑いながらそう答える。

そして鷹都の言葉で「話題と言えば」と呟いた永燐がアキラを見た。


「あの検問の人にアキラくん何か渡してなかった?」


「そう言えば……」


永燐の言葉に先程見た光景を思い出す鷹都。

それに対する質問がまたいずれ訪れる未来の一欠片だと知らずに。

永燐の問いに微笑んだままのアキラは、「あぁ、これですか?」と言って再び内側ポケットにしまった確認書をちらつかせる。

それを見た2人はうんうんと頷くが、これは見せるわけにもいかないので、再び内側ポケットにしまう。


「これはごくわずかな方々にしか見せることを許されてはいないんです……これもまた見習いになったら教えられ、そしてこれを貰うことになります」


「あぅ、また未来の話だった」


「見習いでも本当に色々な仕事したり、貰ったりするんだな」


「ふふ、2人がお人形遣いになったらボクのこれを見せて上げますよ」


「お、言ったな?やっぱ無しって言っても、取り消してやらねーからな」


悪戯をする子供の様に鷹都が微笑みながらそう言う。

そんな鷹都に対してアキラは変わらない笑みを向けたまま何も言わない。

そんな2人をほっておいて、永燐はこさめを連れて第二国に足を踏み入れた。


「あの2人は無視して行こ、こさめちゃん」


「畏まりました、永燐様」


「あ、こら……永ちゃん待ってよ」


「永ちゃん………?」


先に行く2人を追いかけながら鷹都の口から漏れた永ちゃんと言う呼び名。

それを聞いたアキラは首を傾げ、永燐本人は足を止めて鷹都を睨み付けた。

その迫力は昔話によく出てくる鬼の様であるとは、アキラは言葉で言うのではなく内心で考えるだけに留めた。


「永ちゃんとは、可愛い呼び名ですね」


「からかってるの?」


「いえ、心からそう思っています……あの、嫌でしたら拒絶してもいいので、ボクもその………永さんっと呼んでもいいでしょうか?」


あわあわとしながらアキラが永燐に問うと、少し考える仕草をした後ボソッと何かを呟く。


「永ちゃんより、マシ……ね」


だがその呟きはアキラに届くことはなく、変わらぬ少し困り気な表情に、永燐は微笑む。


「いいよ、変わりに私はアキラくんの事をあっくんって呼ぶね」


「あ、あっくん……ですか?」


困り顔から今度は少し悲しそうに、だがそれ以上に恥ずかしそうにアキラは呟く。

そして何かの思いを忘れるように頭を振ってから永燐を見た。


「はい、いいですよ………永さん」


「ふふ、あっくん…これからもよろしくね」


「何か2人だけずりぃ~」


いじけるように頬を膨らませている鷹都に、自然と視線が集まる。


「じゃあ、何て呼ばれたいの?」


「え~、助手、鷹ちゃん____」


「もうその鷹ちゃんでいいんじゃないの?」


「えぇ~」


適当に言う永燐に不満げな眼差しを向けつつ、ぶーぶーと言って抗議している。

それを聞いていたアキラは、少し考える仕草をしつつ呟く。


「鷹くん………」


「それだ」


「え?」


「鷹くん!決めた!アキラ!次から俺の事を鷹くんって、呼んでくれ!」


キラキラと輝いた瞳で見てくる鷹都に、「えっと」っと言葉を探すが、とりあえず素直に答えることにした。


「わかりました…鷹くん」


少し照れて呼んでしまうアキラに対し、鷹都は満面の笑みでアキラをぎゅっと抱き付いてくる。突然の鷹都の行動に、反射的に殴ろうとしたがはっとすぐにその判断を切り捨てる。


「これからもよろしくな!あっくん!!」


「は、はい……鷹くん」


「こさめちゃんにも何か考えよ」


「いえ、私はこのままでいいです」


「え……でも」


こさめの言葉に戸惑う永燐にアキラが助け船を出すように提案した。


「でしたら、お揃いの何かを買ってみてはいかがですか?」


「お揃いの何か……」


「はい、アクセサリーとかキーホルダーとか……一応言いますが、戦闘に邪魔になる物だけは遠慮お願いしますね」


「わかった……どうしようかな」


むむむっと考え出す永燐に、止まっていた足を動かそうと提案するアキラ。

尽きることのない花びら、緑豊かな第二国に誰もが瞳を輝かせる。

第一国よりも住人は少なく、どの道も混雑しておらず、とても歩きやすい道。

白とピンク、黄色のレンガが交互に敷き詰められている。遊び心からピンクだけ、黄色だけと決めて隣を通り過ぎていく子供たち。

誰もが幸せに暮らしている、花の国。

けれどアキラはどうしても感じてしまう違和感。


「………幸せの仮面を被った国民」


ボソッと呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく消えていく。

当然、そんな違和感など感じていない永燐と鷹都は、あちらこちらと(せわ)しなく顔を動かす。

そんな2人を見ていたアキラは嫌な予感がし、とある魔法を2人に使用する。


「離れた者を繋ぎ、共に時を刻め…手錠(トレイス)


永燐と鷹都の手首に光の輪っかが生まれ、その輪っかを繋ぐ鎖が出現する。

それを見ていた鷹都がアキラに訪ねる。


「これは何だ?」


「見てわかりませんか?手錠です」


「なぜ?」


「永さんと鷹くんが離れないようにするためです」


少し不満気でアキラを見ていた鷹都は、アキラとこさめが手錠していないことに対して、不満を言う前にアキラは口を開く。


「ボクとこさめは、離れていてもテレパシーで会話可能ですし、2人をすぐに見つけることが可能です………なので、手錠はいりません」


「………わかったよ、大人しく永ちゃんと繋がれてるよ」


「ちょ、ちょっと待って!………トイレの場合はどうするの?」


慌てた様子の永燐に、アキラは平然と答える。


「当たり前に、1度この手錠を外しますよ……鷹くんを変態にはしたくありませんから」


「よかった……それなら、私はこの手錠を受け入れるわ」


「わかった……自由にできないのは不満だけど、知らない国で迷子になったら困るもんな」


いまだ不満気な鷹都だったが、自分を説得して受け入れてもらう。

第二国に入ってから少し時間が経っており、やっとの事で観光を始めることができる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



太陽の日差しが入る王の間。

玉座に座る女王サメユキは、機嫌が悪そうに鋭い眼光を目の前で討論している家臣たちを見下していた。


「だから!事が起こる前に対処をせねば!」


「貴様こそ!何度言わせる気だ!まず、事が起きた原因を見つけなければ!同様の事が起きる可能性があるんだ!!」


「だが!原因を突き止めるにも時間がかかるだろうが!」


「同じ事を繰り返すよりは!マシだと、私は思うのがね」


こういった具合に、全く進まない会議にそろそろ我慢の限界が近づいていたサメユキは、1度大きなため息はく。

それからすぐに、家臣たちの討論する声を消して、深く思考する。


(原因……それは何だ?最近起きた出来事は……いや、関連がないな……っ

ならば、怪物たちがリーダーを作り出した?我々人間を殺すために?

そんな思考、奴らにはなかったはずだ………

だが、もし奴らにリーダーが生まれてまとめていたとしたら……奴らが統一して動いているのも納得しができる)


「……………つまり、原因は奴らに上位種(リーダー)が生まれたこと……?」


今ある情報をかき集め、サメユキの予測を踏まえてできた答え。

それが正しいか、間違っているのかは判断できないが、下らない討論を続けるより、この答えを信じて作戦をたてた方がマシである。

故にサメユキは、手に持っていた杖の先を強く床に叩きつけ、注目を集める。


「止めよ!くだらぬ言い争いをするな!貴様らが考えを出さぬゆえ!自らまとめて、導き出した答えを貴様らはただ実行せよ!!」


再び杖の先を床に叩きつける。

その命が下るのと同時に、家臣たちは一斉に片膝をつき「はっ」と声を揃えて答える。


「ますは偵察だ!第零級から3名を人選しろ、彼らの報告を待ち、それから第一級に召集をかけるのだ!

作戦には3種類ある、後に資料として渡す」


「陛下、発言の許可を」


「許可する」


「では僭越ながら、陛下の所有するお人形もこの召集に含めてもよろしいのでしょうか」


家臣の言葉にサメユキは「あぁ」と思わず出た言葉に紡ぐ。


「許可する……あやつも余のお人形ではあるが、今の状態はお人形遣いだ……それに、離れていても護衛は可能……

第一級・お人形遣いのアキラにも、召集するがよい、不安ならば許可証を書くか?」


「いえ、そこまでしていただかなくとも平気でございます

……それでは、陛下の大事なお人形をしばしの間お借り致します」


「うむ……これにて会議は終了だ!」


『はっ』


それだけ返事をして家臣たちは素早く行動に移る。

王の間に一人残ったサメユキは、足を組み異空間を開き紙とペンを取り出すと、先程の結論と3種類の作戦を記載していく。


「統一か、知能のない奴らの上に立つものは……恐らく人間又は、人間でない者……か」


真剣な表情で呟き、そして天井を見上げた。

サメユキの頭の中に(とど)まるもう1つの可能性。

ふぅと一息し、そっと目を閉じる。

もし、そのもう1つの可能性であった場合の対処を考えるため、1度脳を休めるため、サメユキは誰もいない王の間で1人眠りについた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

次回も読んでくだされば、幸いです。

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