第4話 固有スキル
「それで、逆にアルトはこれからどうするの?」
「とりあえず、王都とやらに行きたいんだけど……ここって結局どこなんだ?」
無事契約して武器も手に入れた。とりあえず当面は神の謎の紙に従うしかない。書いてあったように王都に行くべきだろう。
「ここは確か王都近郊の森を調査するために作られた駐屯地だよ。でも今はもう危険な魔物もいなくなったから、初心者の冒険者が探索するのに良い森になって、使われなくなった駐屯地がちょっとした武器が買える商業都市として栄えた感じかな」
なるほど、それで小さいし露店が多いのか。
「じゃあ王都から近いのか?」
「んー、荷車でも二日はかかるよ」
意外と遠いな。近郊の定義とは。
だからといって今すぐ荷車で王都、とは言いたくないな。この先何があるかわからないし、できる限り節約したい。
「なあ……あー、えっと、ベルフェゴール」
「ベルでいいよ」
「じゃあベル。これから少し試したいことがあるんだが、付き合ってくれるか?」
「うん?」
サンドウィッチ風の何かを食べていたベルが、きょとんとしながら頷いた。
ベルを連れて東の森に戻ってきた俺は、近くに誰もいないことを確認してステータス欄を開いた。
ベルによると、自分のステータス欄は誰もが見ることができるが、他人のステータス欄は見ることができないらしい。それは魔物も例外ではない。
魔力量が生命の全て。だからHPなどを可視化させる必要がないんだろうな。スキルさえ見れればいいという発想だ。
名前:アルベルト・デュークエンド・シュバルツ
種族:人間
固有スキル『二十面相』
種族ごとにアバターが作成できる。
《一覧》
・人間
・獣人
・エルフ
・悪魔
《現在のアバター:人間》
・固有スキル
・ステータス変化
『全武器適正』
「ん?」
さっき見た時は気づかなかったが、悪魔のアバターが灰色の文字になっていた。つまりはロック状態だ。
なんでだ?
まあ別に好んであの厨二病アバターを今使う必要はないけど。
俺はとりあえず獣人の文字をタップ。
すると俺の体と視界が、光に包まれた。
「うおっ!?」
「あ、アルト!?」
驚いた俺とベルの心配そうな声が聞こえた後、すぐに光は消えた。
「アルト……種族が変わってるよ…………!」
ベルが驚いたように目を丸くしているので自分を確認してみると、まず手が犬のそれに変化していた。
肉球と鋭い爪がついている手だ。
その手で頭を摩ってみると、狼の耳のようなフサフサしたものが触れた。
顔は………人間のままみたいだ。それが獣人たる所以だな。
「これ、どうゆうこと?」
頭にハテナマークがいくつも浮かんでいるのか、怪訝そうな顔で首を傾げているベル。
「これは俺の固有スキル『二十面相』。種族ごとに一つの姿を作ることができる………みたいなんだ」
アバター、という単語は正直通じるかわからないので違う語で説明する。
どれどれ、獣人のステータスはどんな感じか?
名前:アルベルト・デュークエンド・シュバルツ
種族:獣人
固有スキル『二十面相』
種族ごとにアバターが作成できる。
《一覧》
・人間
・獣人
・エルフ
・悪魔
《現在のアバター:獣人》
・固有スキル
『加速』体のすばやさを上げる。
『変身』獣人姿から狼に変身する。
『魔封じ』どんな魔法でも弾くが、自分も全く魔法が使えなくなる。
・ステータス補正
『五感機能上昇』
『身体能力上昇』
『剣不得手』
『魔力低下』
おお!ゲームの設定通りに引き継がれてる!
獣人は他にも猫とか犬とか羊とかいるが、俺はゲームでアバターの個体種を狼にした。
だって人狼とかかっこいいし。
獣人は正直ゲームではネタ装備扱いというか、ネカマの方が好んで利用していたというか………その存在自体にそこまで戦闘力は望めなかったが、固有スキルの『加速』や『身体能力上昇』はなかなか良さげだ。
その代わり『剣不得手』のバッドステータスにより刃のついた近接戦闘武器は持てない。
『魔力低下』や常時展開型のスキル『魔封じ』もあるので、詰まるところ獣人の攻撃手段は、殴る、蹴る、引っ掻く、噛み付くという動作のみというわけだ。
まあこんな肉球がついた手で剣を持てと言われても難しいが。
ただそうなると、後衛みたいなもう一つの攻撃手段が必要になりそうだな。
「なあベル。魔剣の外に出て魔法は使えるのか?」
「うん、それが契約における適合者側の最大メリットだからね。ただ、私が魔剣の外に出てる間は透化はもちろん攻撃力すら普通の剣並みに低下するよ」
ベルを魔術師として運用するか、自分で殴りに行く時の攻撃力を優先するか。そういうことらしい。
「了解。じゃあ次に行こう」
俺はステータス欄のエルフの文字をタップ。
すかさず俺は光に包まれて、そして段々体が縮んでいく。
「わ、小さい!」
光が収まった後、上の方からベルの声が聞こえてくる。
俺の目線は、目の前に立っているベルの胸だ。
いやそういう意味ではなく、身長が縮んだのだ。
見た目設定の時、よく見る金髪長髪の優男系エルフを考えたのだが、悪魔アバター以上に黒歴史になりそうだったので仲間に止められた。
その後仲間の女子が鼻息荒く「どうせならショタにしよう!」と勝手にカスタマイズした結果がこれ。
金髪の短い髪に長耳、翡翠色で、少し生意気そうにつり上がっている目。
まあエルフなんでどの道美少年にはなるのだが。
名前:アルベルト・デュークエンド・シュバルツ
種族:エルフ
固有スキル『二十面相』
種族ごとにアバターが作成できる。
《一覧》
・人間
・獣人
・エルフ
・悪魔
《現在のアバター:エルフ》
・固有スキル
『魔力結界作成』
『召喚魔術』
『錬金術』
『治癒魔術』
『工房作成』
・ステータス補正
『魔力上昇』
『知能上昇』
『遠距離武器補正』
『物防減少』
エルフは人間や獣人に比べて魔術に長けた種族だ。
もちろん弓など、つまり遠距離武器も得意としている。
ただせっかくこちらには悪魔ベルフェゴール様という専門の魔術師がいるので、活躍の場はあまり無さそうではある。杖も弓も買ってないし。
「ちなみにエルフってどんな感じなんだ?」
「エルフはね、長耳で妖精族と近縁種だけど、割と珍しいかな。人間界では世界樹の根元にあるレヴィアステ公国にしか住んでないし」
あ、一瞬記憶喪失設定忘れてた。危ない。
まあいずれにせよあんまりエルフの姿はしない方がいいかもな。
俺はステータス欄で『人間』をタップし、元の姿に戻る。
一応悪魔以外のアバターは試してみたが、スキル説明からすればさらに増やせるのだろうか?
「えっと、じゃあとりあえず荷車で王都に____」
「あ、ちょっと待って!」
突然ベルが俺の言葉を遮り、辺りを見渡す。その顔は真剣だった。
「どうしたんだ?」
「なんか、あっちの方から妙な気配が強まって………」
ベルが指さしたのは、さらに森の奥。木々が鬱蒼と茂っている場所だった。
植物の種類も違うようで、不気味な雰囲気を醸し出していた。
そういやこの森危険な魔物がいたとかなんとかベル言ってたな。その生き残りだろうか。
「えっと、この森って確か昔は危険な魔物がいたんだよな?二十年前とか?」
するとベルはバツが悪そうに視線を逸らす。
「………………に、二百年くらい前」
「……………あー……ちょっと行ってみようか」
女の子の年齢はトップシークレット。追求しないのが紳士というものだろう。
紳士アルトの称号を得た結果、俺は話題転換のためにあまり気乗りしない森の奥への探索を余儀なくされた。
ま、まあ二百年前ならそんな生き残りもいないだろうし?