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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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43. 賢者の威厳

 


     [2]



 翌日。新しい集落を築く予定地に、朝方からひっきりなしにエルフの人達が集まりつつあった。

 その数はすぐに50人を超え、100人を超える。ナギの視界の端に表示されている時計が『午前9時』を示す頃には、200人を超える人達が集まった。


(エルフの髪の色って、多種多様なんだなあ)


 老若が入り交じったエルフの人達を眺めながら、ナギはそんなことを思う。

 全体的に淡い色味になっている人が多いようだけれど、その彩色は実に様々で。こうして色んな人を眺めているだけでも、少し楽しい気分になった。


 なんとなく、エルフと言えば金髪―――というイメージをナギは持っていたのだけれど。金色の髪を持つエルフは、大体10人に2人ぐらいだろうか。

 一応、最も多い髪色ではあるようだけれど。全体の割合としては、それほど多く無いように思えた。


(……本当に、男性はみんな森から出ていってしまったんだな)


 エルフの人達を眺めながら、同時にナギはそのことを思う。

 200人を優に超えるエルフが、この場所に集まっているというのに。ナギが見て判別する限りでは、その全員が女性であるように見えた。

 危険な場所であるとはいえ、全ての女性が森に残るとなれば普通は男性も相当な人数が残ることを選びそうに思えるのだけれど。―――そうしたナギの考え方は、この世界では一般的では無いのだろうか。


「ナギ。もう全てのエルフが集まった」

「ありがとうございます、イヴ」


 各集落後の代表者から話を聞いて回っていた『小さな賢者』イヴが、そうナギに報告してくれた。

 ナギよりも低く、レビンと同じぐらいの背丈しかない、二つ名の通りの『小さな賢者』であるイヴは。けれども昔、ナギとは別の『稀人(ミレジア)』と会ったことがあるそうなので、おそらく1000年以上の時間を生きている人でもある。

 見た目通りの少女とは、思わない方がいいだろう。


「【拡声(クロール)】」


 イヴはナギにひとつの魔法を掛けてくれた。

 それは【拡声】という魔法で、掛けた相手の『声』を暫くの間、そのままの音量で一定範囲内に拡げて届けてくれるという効果を持つ。そのことをナギは、昨日の時点でイヴから教わっていた。


「―――おはようございます、エルフの皆さん」


 だから、普通の声量でナギがそう話しかけるだけで。

 集まっていた200人以上のエルフの人達が、一斉に私語を停止する。先程までは賑わっていたこの場所が、一気にしんと静まり返った。


「えっと、ごめんなさい。僕の身長が低いせいで、たぶん見えていない方も多いと思いますので。皆さん、その場に座って頂けますでしょうか」


 ナギがそう促すと、200人のエルフが思い思いに地面に腰を下ろす。

 ここ数日で慌てて整地したばかりの場所なので、あまり綺麗な地面ではないが。どうせこの先の作業でもみんなの服は少なからず汚れてしまうだろうから、これについては後で纏めて対処しようと思う。


「既にご存じの方が多いと思いますが、もしかしたらまだ知らない方もこの場にいらっしゃるかもしれませんので、最初に自己紹介をさせて頂きます。

 僕の名前は、ナギと言います。集落の跡地に隠れ住んでいる皆さんのことを憐れまれた主神アルティオの意志により、遣いとしてこの森へ派遣されて参りました、主神アルティオの『使徒』です」


 ナギがそう告げると、その場に居るエルフの口々から感嘆の声が漏れた。

 中にはその一言に、神に祈るような所作をしながら、声を押し殺して涙する女性まで見受けられた。

 それ程に彼女達が、苦労の多い生活を送っていたという事なのだろう。


「続けて紹介します。僕の隣にいる子は―――」


《お姉さま、わたくしの紹介は無用ですわ》


 自分に続けてレビンのことも紹介しようとナギは思ったのだけれど、レビンから念話ですぐに制止されてしまった。

 レビンがそう言うなら、もちろん無理に紹介するようなことはしない。


「―――失礼しました。話を進めますが『使徒』である僕が、差し当って皆さんの為に支援できることが、3つあります。1つ目はここまで歩いてくる間にそれぞれ体験されていることと存じますが、僕は皆さんがもうオークの人達から襲われないように『調停』することができます」


 ナギの見える範囲にいるエルフの人達が、その言葉に重く頷いた。

 この森に棲息しているオークの数はかなり多いので、今朝どこの集落跡から移動してきた人達でも、おそらく数度はオークの小集団と遭遇していると思う。

 誰もが、オークが『襲ってこなかった』事実を、実際に体験しているのだから。このナギの言葉は否定しようも無いだろう。


「もちろん『調停』ですから、一方が争いを止めるだけでは駄目です。オークの人達がエルフの皆さんに対して武器を向けないのと同じように、エルフの皆さんにもオークに対して武器を向けることはやめて頂きます。

 オークに友人や家族などを殺された方もいらっしゃるでしょうから、オークのことを『恨むな』とも、オークと『仲良くしろ』とも僕は言うつもりはありません。ですが少なくとも、オークの人達と『敵対する』ことは絶対にやめて下さい」


 得てしまった〔調停者〕という神席に因み、ナギは『調停』という言葉を用いてエルフの人達にそう告げる。

 もしもエルフの人達から攻撃を受けたとしても、オークの人達はなるべく交戦を避けてくれるという話だが。だからといって、その言葉に甘えて良いというものでも無いだろう。

 オークの人達に対して攻撃を加えることが無いように、エルフの人達にもしっかりと釘を刺しておかなければならない。


「僕は〔調停者〕という神席を、主神オキアスから与えられています。だからその立場に従い、僕は責任をもってエルフの皆さんとオークの人達との間で長年続いている争いを()めさせます。

 僕は基本的に、エルフの皆さんの味方でありたいと思っていますが。もしエルフの人達がオークを率先して攻撃することがあれば、僕はオークの人達の側に立ち、皆さんの『敵』になります。そのことは覚えて置いて下さいね」


 敵になるとは言っても、ナギ自身には全く戦闘力など無いので、特に何かできるわけでもない。こんなことを言っても脅しになどならないだろうけれど―――。


 とナギが思っていると。各集落跡で代表を務めている人達が、予想外な程に顔を真っ青にしながら、こちらを見ていることにナギは気付いた。

 ……一体何を怯えることがあるのだろう? と、ナギはその様子を訝しく思う。とはいえ、まさかこの場でその理由を問い詰めるわけにもいかない。


「支援の話に戻りますが、2つ目として、僕は食料を提供できます。このあと僕のほうで貯蔵するための倉庫を建てて、その中に充分な量の食料を入れておきますので自由にお使い下さい。食料は減ってきたら何度でも補充しますので。

 とはいえ、もうオークの人達は襲ってこないのですから、ゴブリンや野生動物を討伐できる実力があるエルフの方は、食べ物を探しに出ても危険は少ない筈です。すぐ傍を流れている川で魚も捕れると思いますので、僕の食料の支援など無用かもしれませんが」


 森の中で食料を探すことに関しては、エルフの右に出る者は居ない。そのことをナギは、既にエコーから教わっていた。

 また、エルフは釣りも上手いらしい。特にエルフの女性は水の精霊と会話でき、精霊が水中の様子を逐一教えてくれるので、川や湖に針を垂らすだけで釣果は約束されたも同然だとか。


 なので食料については、支援など本当に無用かもしれないとナギは思っている。

 一応、果物を採るのだけは【伐採】が利用できるナギのほうが得意だろうから、貯蔵庫として『氷室』を建てたら果物を中心に入れておこうと思っている。


「最後に3つ目の支援として、僕は皆さんに住居を提供できます。これから家屋を建てるのに必要な木材を提供しますので、建設はエルフの皆さんの手で各自行って下さい」

「建設を私達の手で……ですか?」


 ナギの言葉を受けて、エルフの人達の最前列に座っていた少女が、どこか不安げな表情をしながらそう問い返した。

 家を建てるというのは、決して簡単なことではない。木材だけ手渡されたからといって、すぐに出来る筈もない―――と少女は思ったのだろう。

 実際問題として、その少女の懸念は、普通であれば全く正しいものだと思う。


「木材と言っても、僕が手を加えてありますので、組み立てるだけで家屋を建てることができるようになっています。組み立て方は各集落跡から来て頂いた代表者の人に伝えてありますので、その方から教わって下さい」


 各集落跡の代表者にだけ、昨日の内に来て貰ったのはこの為だ。


 エルフの人達のためにナギが【伐採】して用意した木材は、釘一つ使わず木組みだけで家屋を組み立てられるように、事前にエコーと協力して設計してある。

 昨日は実際にこの材料を用いて、ナギとレビンの二人の手だけで、2軒の家屋を組み立てた。

 その際に、各集落跡から来て貰った代表者の人達には、組み立てるための行程をしっかり指導し、観察して貰っている。あとはもう材料さえ揃えて渡しておけば、彼らの手だけで組み立てることができるだろう。


「エルフの皆さんには、事前に『風の精霊』の力を使える方が1人以上含まれるように、3~4人ずつグループを組んで貰っていると思います。そうですよね?」


 ナギの言葉に、エルフの人達が一斉に頷く。

 風の精霊の力を用いると、かなり重量がある荷物でも、短時間だけなら『空中に浮かせる』ことで運搬することができる。

 それこそ家屋1軒を建てるのに必要な量の木材でさえ、軽々と運べるわけだ。


「では、これからグループ毎に1軒の家を建てて頂きます。材料はこの場に並べていきますので、各集落跡の代表者から指導を受けながら、1軒ずつ順番に建設して下さい。今日から皆さんに住んで頂く家なので、丁寧に仕上げて下さいね。

 僕は今からこの場所で食料の備蓄庫を建てる作業に掛かりきりになりますので、何かあれば代表者の方々か、もしくは『小さな賢者』に聞いて下さい。どうしても僕に用事がある時には、必ず少し離れた場所から声を掛けて下さいね」


 これからナギとレビンの二人は、それなりに危険がある作業に取り掛かるので、忘れずエルフの人達にそう警告しておく。

 『氷室』を建てるのは、まず地面に大穴を空ける土木作業からになる。レビンに竜の姿になって作業して貰うので、エルフの人が無警戒に近づくと、レビンの翼や尻尾が当たってしまう可能性があって危険だ。

 その後も木骨を結構な高さにまで組み上げたり、組み立てた小屋組を屋根として乗せたりもするので、やはり付近にいると危険が及ぶ可能性がある。

 できれば『氷室』の建設中は、エルフの人達には近くに居ないで欲しい。


「【拡声(クロール)】」


 すぐ隣から声が聞こえてナギが振り向くと、イヴが自分自身に【拡声】の魔法を掛けているのが見えた。

 すうっと、息を大きく吸い込んでから、イヴは語り始める。


「私はこの場所に居る。何かあれば『使徒』様にではなく、私に言うように。

 ―――安全も、食料も、居住場所も。私達が切望していた何もかもを『使徒』様が惜しみなく与えて下さるからと言って、必要以上に『使徒』様に甘えることは、厳に慎むように。そのような行為は末代までエルフの恥となると知れ」


 エルフの人達を前に、堂々とそう語るイヴの言葉には、威厳が籠められていた。

 流石『小さな賢者』と呼ばれるだけのことはあるのだな、とナギは感心する。


 ナギとしては、エルフの人達が一切の遠慮無しに色々と要望を出して、こちらに甘えてきてくれても構わないのだけれど―――。

 エルフの人達が自助努力を果たさんとする決意を踏みにじってはいけないので。ナギはその思いを、ひっそりと心の内側に仕舞い込むことにした。





 

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お読み下さりありがとうございました。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.12 /掃討者[F]

  〔アルティオの使徒〕〔調停者〕


  〈採取生活〉6、〈素材感知/植物〉3、〈繁茂〉2

  〈収納ボックス〉6、〈氷室ボックス〉3、〈保存ボックス〉1

  〈鑑定〉3、〈非戦〉5

  〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1

  【浄化】4、【伐採】5、【解体】1


  〈植物採取〉7、〈健脚〉3、〈気配察知〉3、〈錬金術〉1


  5,227,812 gita

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