第2話「対抗策」
一度『物質の世界』に戻った私たちは、まず作戦会議をすることにした。このままではいくら突撃したところで無駄になってしまう。
まずは武器の問題だ。
「ご主人様、まずはそれなりの武器が欲しいですね。」
「でもそんなのそこらに転がってたりしないだろ。包丁とかは効かないんだろ?」
「はい、実態のない影は切れませんし、力のある影は硬いので。…まあ、光が影の属性持ちじゃないとダメですね。」
「影って光に弱かったりするの?」
「いえ、種類によります。何かしらの属性を持っていれば、少なくとも攻撃が通るようにはなるんです。」
なるほど、属性持ちね。少し心当たりがある。
「何ですか、それ」
「懐中電灯〜」
「しまって来てください。」
だろうな
「やっぱ包丁しかないな。」
「では、『属性付与』を試してみます?もともと属性持ちの武器にはかないませんが、私の光属性を武器に移せるんです。」
そーゆーのあるんなら早くやっとけばよかったのに。忘れちゃった、とか言ってるアマネに蹴りを浴びせ、さっきの『影門』へ向かう。
『深淵の世界』は相変わらず暗く、不気味だった。
あのとき体が軽かったのは、はっきり言って戦闘能力ゼロのアマネが私に憑依していたそう。運動はできても防御しかできないから、その身体能力を私に付与したらしい。もちろん今回もお願いした。
「何か落ちて来ます、避けてください!」
ガシャンッ
音を立てて落ちて来たのは、なんと黒い金属製の箱。…と思ったら
「うぼぉ、おぁぁ」
出た、犬頭!
今度という今度はフルコンボでフルボッコにしてやる!
私の意思が伝わったのか、犬頭はあのとき以上に荒々しく襲って来た。
「遅い遅い!」
ここまでは前と同じ、さて、属性付与包丁の切れ味は…
「そりゃあっ!」
「ぐぼぉっ」
驚くほど簡単に刃が入り、犬頭を一刀両断した。
「トドメです!」
包丁をつきたてようとして、迷った。襲って来たといえ、コイツも死ぬのは嫌だろう。殺さないとこっちが危ないだろうけど、だからと殺すのも…
気づけば再生したそいつが、私を蹴り飛ばした。
「ご主人様!」
結局、私は相手を倒せない。勝てるはずもないのだ。ここで迷いなく切り捨てられれば…
〈おや、その程度でやめてしまうのかい?〉
〈ガッカリだねぇ〉
…うるさい
〈せっかく『力』は手に入ったんだ〉
〈さあ、やっちまいなよ〉
〈勿体無いだろう〉
突然、私の中に一つの言葉が浮かんだ。
『復讐』
私のことをバカといった奴らへ
私の邪魔をした全てのものへ
私からレイジを奪った奴へ…
突然視界がクリアになり、棍棒を構えたアイツが見える。加速感。アイツの動きがまるでスローモーションだ。
今までと逆に目の前まで駆け寄り、邪魔者の胸に2回切りつける。首を飛ばし、その胴を真っ二つにしたところでバックステップ。
「あーあ、馬鹿はどっちだか。」
それは、犬頭だけに向けられた言葉ではない
犬頭は再生することもなく粉々になり、空間に同化して消えてしまった。
体が灰色に染まったレイジは、なにやら白黒マントの男に向かって深々と頭を下げていた。もちろん操られている。
「シータ、見つけたよ、石版。」
レイジの口から、声はレイジでも全く違う誰かの声が出た。
「…素晴らしい。これで二つ目だな。それに、なかなかいい器を見つけたじゃないか。今後とも励むが良い。」
シータとかいう奴は偉そうに、レイジを、正確にはレイジに取り憑いた影を褒めた。
シータは、満足そうに石版を眺めている。
シータにとって、この石版は何よりも優先するべきものだ。
先程この『深淵の世界』に人間が入り込んだ。石版を守るためにも、早急に片付けたほうがいい。ここへ来る人間となるならば、おそらく文献を見つけ石版の正体を知ったのだろう。もちろん、渡すわけにはいかない。
「イズロ、ウルヴスを『都市』へ向かわせろ。」
「御意。」
イズロは影に消えた。
人間は早速影を切り伏したようだが、『名持ち』の前では無力だろう。
石版を『窓』にしまい、シータは不敵な笑みを浮かべた。
『復讐』とか出てきて、いよいよそれっぽくなってきました。
次回もよろしくお願いします。