第1話 「深淵の世界」
少し時間が押していて、止むを得ず予約投稿になってしまいました。
私、夜久宙が高校入試で落ちたのが2年前。私は前の学校の女子の中でもかなりの馬鹿で、入試の得点はなんと2ケタ。とあるハンバーガーショップのバイトに受かったのはそのすぐ後で、今も続けている。
お父さんの仕送りを拒否し続けた結果、私には天使がついていることを明かされたのは去年の冬。なんでも『盾の天使』で、お母さんが命をかけて契約し、私を守らせているんだとか。だから私の親は、お父さんしかいない。
「おおっ、そこです!ナイスッ!うぉ、
なんでそこジャンプしますかぁぁぁ⁉︎」
このうるさい女の子がその天使。名前はアマネで、私がつけた。真顔でゲームをする私をいつも応援してくれるのはいいけど、ここは団地の一室。たまに苦情が来るのが迷惑で…。金髪、頭の上の輪、脱ぐと背中に翼があるなど本当に天使。ジャージ姿なのを除けばだけど。
「うるせぇ!世界ランク上位の奴と戦ってるんだ、集中させろ‼︎」
同じくらい大声で叫ぶこの男は門矢零士。私の幼馴染で、私とは対照的なエリート。それでも一緒にいてくれる彼は、なんとなく頼れる気がする。普段は、なんだけどね…
「もらったぁぁぁ!」
「あ、そこは…」
私のアバターが仕掛けた地雷を踏みレイジが自滅、決着がついた。
「チックショー、やっぱ生粋のゲーマーには勝てねぇわ。」
「え、私そうなの?」
「バイト以外の時間は?」
「ゲーム」
…。
「だろ?」
中学を出てからはゲームばっかりしてたせいか、このゲームの世界大会で7位になってしまった。誇っていいのか、コレ。まぁバイト以外でも収入源があるのは悪くないかも。
すぐ隣の部屋、自分の家に戻り、レイジは夕食をとる。我ながら上出来のカップ麺だ、特に味が素晴らしい…
少し悲しくなる料理スキルは置いといて、レイジは作業を開始する。
(コイツがあれば、オレもう完璧だよな、まさにチートだぜ)
机に置かれているのは一冊の本と黒い石版。その文章は、どこかの知らない言語で書かれている。
石板の方は何もできないゴミだが、この本は違う。なにせ、実家にあった『魔術の書』なのだ。一緒にしまってあったこのチェーンも、その付属品。この禁忌のために、レイジはその才能を遺憾なく発揮して本を解読した。
今日、ついに実践する。
外に出ると、団地の広場に女の子がいた。いろいろあって迷ったが、やっぱり王道、催眠術を試すことにした。
その子に近づき、声をかける。
「よう、こんな時間にどうした?」
「…。」
その子は何も言わない。
「ちょっと遊びに来ないか?」
「…。」
その子は首を横に振った。
「そうか、なら…」
レイジは気づいていなかった。国同士の戦争など起きたことない平和なこの世、天使や悪魔との契約はそれぞれの国のみが行えるもの。その能力を愚かな叡智のもとに再現した『魔術』は、この世界では禁忌とされている。書の邪悪な力は、すでにレイジを侵食し、悪となることへの躊躇いを消し去っていた。
レイジは念じる。さぁ…
⦅オイデ⦆
レイジの視界は真っ赤に染まり、少女の瞳も赤く変化する。
このまま部屋まで連れていけば、あとはオレの好き放題だ。
周りの注目を耐え抜き、あらゆる欲を我慢してエリートを演じていたレイジ。それも、もう終わりだ。
部屋の前まで来たところで、レイジの思考に妙なものが紛れ込んだ。
(カギ…)
家の鍵か?一体なんのことだ?
(石板、ある)
オレは何を考えている?
⦅石板、ヨコセ!⦆
よく考えてみれば、こんな時間に外を出歩く小学生がいるか?
今やレイジの体は完全に乗っ取られ、あの少女は姿を消した。いや、オレの中だ。『憑依』したのだろう。あの石板を抱え床の影の中に沈む自分。
(オレが消えたら、あいつどんな顔するかな)
意識が途絶えた。
「レイジ!出てこーい!」
ドアを叩いても返事がないし、インターホンも電話もダメだった。
「クッソ、コレ使うか…」
親友の私たちは、互いに合鍵を交換していた。大体はお互いのゲームを借りるのに。友達が少ないのも理由かもしれない。決して付き合ってるわけではないけど…
(それも悪くないかな)
レイジの部屋は荒らされていた。これじゃコントローラ返せなんてとても言えそうにない。そこら中に黒いインクのようなものが撒き散らされ、奥の部屋に続いている。
「ご主人様、これインクじゃないです。多分漏れ出て残留した『影』ですね。」
珍しく(天使の)正装のアマネが説明してくれる。その辺の知識に関しては全くわからないので助かる。なにせ彼ら彼女らとの契約は禁忌。私たち一般人には、本来許されないことだ。私のお母さんは、なにやらすごいことをしでかしたらしい。
「密度からしてなかなか力のある悪魔が通ったみたいです。レイジさん、大丈夫でしょうか…」
レイジの部屋には、一冊の本が放置されていた。
見るからにヤバそうな黒いやつ。でも、ここにレイジがいない以上、手がかりはできるだけ集めたい。
(コイツもとっとくかな)
本に近づいてみる。
「ご主人様、危ない!」
気づいた時には、暗い空間を落下していた。
「気がつきましたか、ご主人様?」
あれ、落下死とかしてない…
流石は盾の天使。
「多分これ、深淵の世界に落ちちゃいましたね。」
「はぁ⁉︎」
深淵の世界。何度かアマネが話していたが、ここは全ての悪魔、影たちの起源となる場所。時々人間が引き込まれ、いわゆる『神隠し』が起きる。まさか…
「どうしますか、ご主人様。私の力があれば、すぐに『物質の世界』に戻れますよ。」
…。一瞬、全て忘れて帰ってしまおうかとも思った。でも、そんなことできない。
していいはずがない。
『深淵の世界』は、私の住む『物質の世界』とよく似た作りだった。アマネ曰くそれは、影たちは『無意味』の中に生きていて、何か物質の形を模すことで始めて実体を持つのだとか。この世界、そして影たちは普通モノクロだけど、力のあるやつは色や光がつくらしい。
「前方、影がいます!」
道路(?)の向こうから、犬頭の人間…の影が走ってくる。真っ黒だ。
「人間の肉体は影たちにとって憧れの品です!ここで死んだら魂まで持ってかれますよ!」
その後一言
「ま、私が帰還させますけど。」
不安要素は少なそうだ。
犬頭は棍棒(これも影)を持っているので、護身用に持っていたカッターナイフを取り出す。
「うぼぁぁぁぁあぁあああぁ」
犬頭が向かって来た。
はっきり言って、圧倒的に敗北。
ゲームの経験と、なぜか軽くなった体を生かし攻撃を避け続けていた。相手の攻撃は、のろくて全然当たらない。ついにこっちから斬りつけてやった
…そして、絶句した。
一見流動しているように見える影はとても硬く、刃は折れてしまった。圧倒的な力の差。勝てる気がしない。こうなれば、することは一つ。
「逃げるぞー‼︎」
「『導きの翼』!」
なんでバケモノ相手にカッターとか使ったんだろ。
だいぶ長くなってしまいました。
ペースが持つかわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。