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エピローグ

 私が見つめる先――部屋の中央には白い棺が安置されていた。

 白い棺を中心にして、床にも壁にも部屋中に夥しい数の魔術式が刻まれている。

 赤、青、緑、と基本属性色の術式を基礎に据え、複合属性色まで多重に編み込まれた陣は、見ているだけで頭が痛くなりそうなほど複雑怪奇な代物だ。

 これらを全て起動させ維持するとなれば、魔石の消費も莫大なものになるが、そんなものを惜しんでいる場合ではないのだから仕方がない。

 だが、その原因を自ら招き寄せたとなれば、また話は違ってくるだろう。

 棺の中で横たわる少女は、安らかに眠っているように見えた。

 こうして見ると『三大兇紅』などと恐れられる存在ではなく、年相応の普通の少女のようにしか見えない。

 少女の顔を眺めていると、俄かに胸の中がざわついた。今さら後悔しているとでも言うのだろうか。自分自身に怒りを覚える。

 そのとき、足音が聞こえた。

 振り返ると、カツカツと靴音を響かせて歩いてくるのはレーゼハイマとアリエルだ。


「どういうつもりです?」


 語気が強くなるのを抑えられない。

 怒鳴りつけなかっただけ、私も歳を重ねて落ち着いたということだろう。


「なんのことかしら」


 レーゼハイマはとぼけながらクスクスと笑っている。

 神経を逆撫でされるが、なんとか堪えた。


「全て貴女が仕組んだことなのでしょう?」


 問いかけるが返事は来ない。ただ私を癇に障る笑みで見つめるのみだ。


「昨日、買い取るはずだった奴隷を買い取らなかった時点で、何かおかしいとは思っていました。ルーリエの情報をミリアルド商会に流したのも貴女なのでは?」


 今回の一連の出来事。結局全てが終わってみれば、奴隷市場を独占していた目障りなミリアルドが死に、その奴隷は全てレーゼハイマの手の中に残った。あまつさえ――


「この娘をどうするつもりです?」


 白い棺に目を向ける。

【天竜の愛し子】までもが、彼女の手の中にある。

 レーゼハイマは何も答えない。

 黙って、こちらを見つめている。


「ロゾリークでクエストを受けたことで、この娘はミリアルドを狙いました。狙われたミリアルドが対抗しようと思えば、ベルグで戦力を整えるしかない。しかし、ベルグは協力を拒否して敵にまわった。そうなると、ミリアルドは自身でこの娘の討伐を為さなければならなくなり、しかし、だからこそ討伐時の彼女の所有権はミリアルドに渡った。……ミリアルドの資産買い取りの指示が待ち構えていたように早かったのは何故です? この娘の討伐の決め手になったのが【魔眼王】と【スコッパー】だったのは偶然ですか?」


 分かっている。そんなはずはない。闇奴隷商討伐の依頼も、ベルグがミリアルドの敵に回ったのも、あの二人の称号持ちが事態に巻き込まれたのも、全てはレーゼハイマの手のひらの上。

 如何にして、そのような未来を見通すが如き先見で計略を巡らせているかは疑問だが、それでも彼女ならばそれができると私は知っている。


 レーゼハイマはやはり答えない。

 答えない代わりに笑い、そして、


「|この娘(、、、)――なんて、随分と可哀想な呼び方をするのねフリード」


 カッと頭に血が上った。

 反射的にレーゼハイマの首へと手が伸びる。

 そのとき――


「《フリード》」


 それはアリエルの声だった。


「《控えなさい》」


 全身に信じられないくらいの圧力がのしかかった。

 凄まじいプレッシャーに伸ばした手が行き場を失い彷徨う。腕が重い。頭が重い。肩が重い。脚か重い。全身から冷や汗が噴き出した。部屋全体が重圧で歪んでしまったようにすら感じる。

 声が出ない。息もできない。耐え切れず膝を着いた。


「ふふ。虐めては駄目よ、アリエル」


 レーゼハイマが愉快そうに言うと、アリエルは「失礼致しました」と頭を下げた。

 途端にプレッシャーが嘘のように消え去る。


「はあ、はあ、はあ」


 相変わらず信じ難い力だ。

 何も変わっていない。彼女たちとの関係は出会ったころから何も――。


「……こんなモノを呼び寄せた目的はなんなのです。まさか貴女は私との契約を違えるつもりですか……ッ?」


 私が疑問をぶつけると、レーゼハイマはまるで聞き分けのない子供を見るような目で、こちらを見てきた。


「【天竜の愛し子】は私が呼び寄せたわけではないわ。彼女がベルグに帰ってくることは、あのときから定められていたということよ」


 噛み締めた奥歯から血の味がする。

 握り締めた拳はどこに振り下ろせば良いのか。


「因果を断ち切ろうとしても、決して切れはしない。“水”は比較優位的に在るべきところに流れて行くように出来ている。私はその流れに少し手を添えたに過ぎない。受け入れなさいフリード」


 受け入れられるはずがない。だったら私は何のために――……。


「…………貴女は『天竜の卵』を割るつもりなのですか?」


 そう聞くと、レーゼハイマはより一層不気味な笑みを貼り付けた。


「ふふふ、あは、安心なさいフリード。私は『天竜の卵』に興味はないから。そもそも――」


 一度言葉を切ると、レーゼハイマは棺に歩み寄り、眠る少女の頰に指を這わせる。


「これは『天竜の卵』なんて、ちっぽけなものではないわ」


 放たれた言葉に知らず唖然としてしまう。

 何を言っているんだ、この女は――?

 呆ける私を意にも介さず、レーゼハイマはまるで謡うように言葉を紡ぐ。


「【魔眼王】の降臨で迷宮は奥へと開かれた。天竜の帰還で因果はさらに重く沈む。ふふ、全てはこれからよフリード。貴方の願いも、私の望みも、これから始まるの」


 レーゼハイマがニタリと口を裂いた。


 甘く、悍ましく、聞く者を不安にさせる声で、女は謡い、笑っていた。



 *



 流れ着いた先に待っているものは必ずしも悲劇ではない。

 しかし、流されている自覚がないままであれば、悲劇にすら辿り着けないだろう。


                             橘央弘 著『玄い泉』より抜粋。

二章終了時のステータス


名前:【魔眼王】継人  HP:797/797

種族:人間族      MP:781/781(+34)(+10)

性別:男        筋力:39

年齢:17       敏捷:35

Lv:25       知力:32

状態:         精神:40


スキル

【体術Lv3】【投擲術Lv3】【食いしばりLv2】【魔力感知Lv2】【魔力操作Lv3】 【言語Lv4】【算術Lv3】【極限集中Lv2】【毒耐性Lv1】


ユニークスキル

【呪殺の魔眼Lv2】【真理の魔眼Lv3】【重圧の魔眼Lv1】


装備:達人の鋼鉄のナイフ+1【見切りLv2】

  :ステータスタグ【アカウントLv1】【システムログLv1】



名前:【スコッパー】ルーリエ  HP:713/713

種族:羊人族          MP:617/617(+34)(+99)(+10)

性別:女            筋力:30

年齢:9            敏捷:38

Lv:21           知力:16

状態:             精神:40


スキル

【羊毛Lv2】【聴覚探知Lv3】【無心Lv2】【解体Lv2】【掘削Lv3】【魔力感知Lv1】【魔力操作Lv2】【言語Lv2】【算術Lv1】【料理Lv1】


ユニークスキル

【スコップ術Lv1】


装備:力漲るアイアンスコップ+1【剛力Lv2】

  :宝物庫の金貨の指輪+2【アイテムボックスLv3】

  :ステータスタグ【アカウントLv1】【システムログLv1】

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― 新着の感想 ―
[良い点] 個性的なキャラに深まる謎、作り込まれた独特の世界観に魅了されます。とても面白かったです。 [気になる点] 書籍を読んで、こちらで継続されていないかと… 2章までで休止されているようで、残念…
[気になる点] 続きをwebか書籍かで読めるのか告知してほしいです!!
[良い点] 続きを書いて欲しい。 [一言] 続きを読ませて欲しい。
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