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スコップ・スコッパー・スコッペスト with魔眼王  作者: 丁々発止
1章 スコッパーと魔眼王
29/65

第28話 悪い知らせ

 結局、この広間では宝箱以外のものは見つからなかった。

 何か外に繋がるヒントぐらいはあるのでは、と継人つぐとは期待したのだが、いくら探し回ってもそれらしきものはなかった。


 もう、これ以上は調べても仕方がない。そう結論を出した二人は広間を後にした。

 スコップを嬉しそうに振り回し、足取り軽く水を蹴るルーリエとは対照的に、継人の足取りは重い。


 しばらく通路を引き返しているとY字路が見えてきた。

 二人がやって来たのは右の道からである。

 故に、未探索の左の道へと足を向けた。


 歩を進めながらも、継人の中を焦りが支配しつつあった。

 ゴミ穴に飛び込み、水没した広間に落ち、その広間から脱出し、Y字路に行き当たり、そこでルーリエと再会し……と、今まで辿ったこの階層の道を頭の中で整理し、地図を作るようにイメージを固めていく。


(……やっぱりこれはまずい)


 予感が確信に変わりつつある。

 その確信をなんとか振り払おうと、より慎重に辺りを調べながら進んでいく。

 何かあるはずだと目を凝らし、白い岩壁を触り、どんな小さなことでも見逃さないとばかりに慎重に歩を進める。

 しかし、彼のそんな努力を嘲笑うかのように何も見つからないまま――


 分かれ道に行き当たった。


「………………」


 左斜め前方へと延びる道と、右斜め後方へと延びる道である。見覚えのある造りの分かれ道。当然だ。全く同じ造りの分かれ道をもう三度も見ている。

 継人は辺りに視線を巡らせた。探しものがあるからだ。

 だが、もしこの探しものが見つかってしまったら、はっきり言って最悪の事態である。見つかってほしくない。そう思いながらも探してしまう。見つかったらどうしようと思いながらも、探すのを止められない。

 そして――――、


 継人は見つけた。見つけてしまった。


 それは道に数多く転がる岩の一つに付着していた。

 赤い跡だ。

 赤く小さな模様が岩の側面に付いていた。

 それは血に濡れた手で岩に触れた跡だった。

 それは血で押された小さな子供の手形だった。

 つまりそれは――ルーリエの手形だった。


「――……最悪だ」


 ルーリエの血痕が残っているということは、今いるこの場所は、継人がはじめに行き当たったY字路――つまり、二人が再会したあの場所だということである。

 出口を求めてY字路の左の道に探索に入ったはずが、今、Y字路の右の道から出てきてしまったのだ。


 継人が辿ってきた道は、それぞれの広間に続く通路以外には、脇道一つない一本道だった。その一本道を進んだ結果、一周して戻ってきてしまった。


 それはつまりこういうことだ――


 この階層には出口がない。



 *



『魔鉱窟』一階層にある落とし穴の底に広がる謎の階層。

 この階層の全容を説明するのは容易い。

 まず、この階層には三角形を描く形で一周する通路が存在する。そして、その三角形の三つの頂点の位置からは、また別の通路が延びていて、その先はそれぞれ三つの広間に繋がっている。

 一つ目はゴミ穴が通じていた水没した広間。

 二つ目はサイクロプスが暴れていた広間。

 三つ目は宝箱のあった広間。

 以上、これがこの階層の全てである。


 あれから、継人達はもう一度この階層を一周し直した。もしかしたら、何か見落としがあるかもしれないからだ。

 歩いて一時間かからず一周できる道のりを、今度はタップリと二時間以上かけて探索した。

 その結果、継人はこの階層の全容を把握するに至ったが、だからこそやはり頭を抱えざるを得なかった。


「…………ルーリエ、“悪い知らせ”と“悪い知らせ”があるんだが、どっちから聞きたい?」


「む、どっちもいっしょ。しゅ、しゅ」


「そうか、なら悪い知らせから教えてやろう。たぶん、というか、ほぼ間違いなく――この階層には出口がない」


 深刻に構える継人とは裏腹に、どこか余裕のある雰囲気でスコップを素振りしていたルーリエ。しかし、彼女も継人の言葉の意味が呑み込めたのか、その余裕が見る見るうちに萎んでいく。


「……た、たいへん」


「そうだ、今めっちゃ大変なんだ。だから素振りはまた今度にしとけ。……それから、ぼちぼち声と足音抑えめにな」


「わ、わかった」


 素振りを止めて、足音を殺しながら歩き始めたルーリエに、継人は抑えめの声で続ける。


「それで、もう一つの悪い知らせなんだけど――……」


 さらなる悪い知らせということに構えるルーリエだったが、継人の口から出たのは思いがけない言葉だった。


「――出口はないけど、外に出る方法がないわけじゃないと思う」


 一瞬、言葉の意味が分からず、固まったルーリエだったが、


「………………でられる?」


 と、時間をかけて、なんとか理解した。


「……たぶん、だけどな」


「む、いいしらせだった?」


 確かに継人は悪い知らせを――と話し出した。

 なのに、蓋を開ければ脱出の可能性を告げる良い知らせ。

 ルーリエは、くりん、と首を傾げた。


「まあ、最後まで聞け。と、その前にちょっと話し変わるけど――」


「?」


「お前、ダンジョンのモンスターがどこから生まれてくるか知ってるか?」


 今までの話題と一体なんの関係があるのか。継人のそんな質問だったが、ルーリエは元来の素直さで質問を受け取り、ふむ、と考え込んだ。


「モンスター……どこから……むぅ……そとから、ひっこしてくる?」


「それも正解の一つだな。つっても俺も本で読んだだけだから、ちゃんとは分かってないんだけど、おおまかに言うと三つの事例が確認されてるらしい。一つはお前が言った通り、外のモンスターが勝手に住み着く場合。もう一つは住み着いたモンスターが繁殖した場合。で、最後が…………モンスターが攫われてきた場合だ」


「……さらわれる?」


「そうだ。そもそもダンジョンには不思議な性質があるらしくてな。例えば、外から見れば小さな洞窟なのに、中に入ればとてつもなく広かったり。地下にあるダンジョンの真上から、どれだけ穴を掘り進めてもそのダンジョンまで辿り着けなかったり。そんな辻褄の合わない“空間の歪み”みたいな性質がダンジョンにはあるらしい。で、その空間の歪みが稀にダンジョンの外にまで広がることがあって、その歪みに呑まれると、強制的にダンジョン内部に引っ張り込まれる。その現象を“ダンジョンが攫う”って言うんだ」


「むむ、ふしぎ」


 二人は岩陰に身を隠しながら足を進めていたが、先頭を歩く継人がふいに足を止めると、ルーリエの手を引いて岩陰にしゃがみ込んだ。

 そのままヒソヒソと続ける。


「今の話は外から中に攫われるって話だけど、この現象には逆のパターンも存在する。つまり、ダンジョンの中から外への強制移動だ。こちらの場合はダンジョンに攫われるのとは違って、空間の歪みを人為的に発生させる方法が見つかってて、それが――」


「ボスをたおす」


 ピッと挙手したルーリエが、継人に先んじて得意げに答えた。


「――なんだ、知ってたのか。そう、ボスモンスターっていう特殊なモンスターを倒した場合、空間の歪みが発生してダンジョンの外に繋がる扉が開くことがある。つまり、俺達もボスを倒せばここから出られるかもしれないって話だ」


「むむ、やっぱりいいしらせ」


 確かに、脱出の可能性というその一点だけを見れば、今の話は良い知らせに聞こえるかもしれない。しかし、実際はどうだろうか。

 継人は岩陰からそっと顔を出し、そちらに視線を向ける。


 水面に単眼を落としながら広間をうろつく黒い巨人。

 もっと弱っていることを期待していたがそんな気配はない。毒で吐血までしていたはずだが、そのダメージはどこに消えてしまったのか。いや、毒だけではない。ブルーキラーフィッシュに喰いちぎられたはずの傷が一つも見当たらない。

 この短時間で傷が完治したのだとすれば、それはもう傷の治りが早いなどという次元ではない。


 身の丈四メートルを超える化け物を見つめながら継人は思う。

 この知らせは、はたして良い知らせなのだろうか?


「あいつがボスだ。あの化け物、二人でブッ倒すぞ」


 静かに響いた継人の言葉に、ルーリエはスコップをギュッと握ると、神妙に頷いた。


 *


 普通であれば、サイクロプスを倒すことで本当に外に出られるのか、確信を持つことは難しいかもしれない。

「ダンジョンには空間の歪みという性質があるらしい」

「ボスを倒せば、空間の歪みが発生して外への扉が開くことがあるらしい」

「もしかしたら、あの黒いサイクロプスがボスモンスターなのかもしれない」

 らしい、らしいと、本で少し学んだだけの薄い知識の上に、もしかしたら、と、かもしれない、という希望的観測をトッピングした、半ば妄想に近い考えである。確信を持てというほうが無理がある。

 だが、継人には確信があった。

 その理由は、宝箱の発見があったからだ。

 継人はこれまでダンジョンというのは、異世界特有の超自然的に形成された魔法の洞窟のようなものだと思っていた。

 実際に『ダンジョン学入門』にもそう書いてあったし、壁が自動修復されるような不可思議な洞窟に、人が関与しているなど思いつきもしなかったからだ。

 しかし、宝箱を目にしたことで、その考えが変わった。

 この洞窟には間違いなく人為的な力が働いている。そして、それを前提として考えた場合、ここから出る手段が存在しないはずがないのだ。

 なにせ宝箱を見つけたのはこの階層である。ここが脱出不可能な場所であるなら、そんなものが設置される理由がない。

 故に、継人は確信していた。ここを出る手段はあるし、それらしいものはサイクロプスしかない、と。


「――つっても、勝てるヴィジョンが全然浮かばんな」


「だいじょうぶ。たおせそうなきがする。まかせてほしい」


 あんな化け物相手にどう戦えば、と頭を悩ませる継人とは対照的に、ルーリエはスコップをギュッと握り、鼻息荒く、自信満々に言い放った。

 この部屋には近づかないほうがいい。そう言って、継人の服をグイグイ引っ張って止めていた少女はどこへ消えてしまったのだろう? スコップを装備した影響なのか、やけに強気である。

 なにやら、今にも巨人に向かって駆け出しそうな危うさを感じたので、継人はすぴすぴと鼻息荒いルーリエの手からスコップを取り上げる。


「――あ。か、かえしてほしい。それがないとたいへん」


「いいか、よく聞けルーリエ。あれは普通に戦って勝てる相手じゃない。いま倒せそうな気がしてるのは気のせいだ」


「そ、そんなことないとおもう」


 スコップを手放したせいで急に自信がなくなってきたのか、反論しながらも若干目が泳いでいる。


「とにかく、勝手に突撃とかするなよ。分かったか?」


「……むぅ、わかった」


 渋々頷くルーリエに、溜息をつきながら継人は腰を上げた。

 何も考えずにぶつかって勝てる相手とは思えない。

 確かな策がない限り、戦いにすらならないだろう。


 広間をうろつくサイクロプスに背を向けると、勝つ算段をつけるため、二人は一旦その場を後にした。

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