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スコップ・スコッパー・スコッペスト with魔眼王  作者: 丁々発止
1章 スコッパーと魔眼王
19/65

第18話 ビッグモス

名前:継人

種族:人間族

年齢:17

Lv:10

状態:呪い


HP:256/296

MP:33/57(-239)(+10)

筋力:15

敏捷:12

知力:12

精神:15


スキル

【体術Lv3】【投擲術Lv1】【言語Lv4】【算術Lv3】


ユニークスキル

【呪殺の魔眼Lv1】


装備:ステータスタグ【アカウントLv1】【システムログLv1】



 筋力と敏捷が2ポイント、知力と精神が1ポイントずつ上がった。

 これに加えて、先ほどレベルアップした体術スキルもある。

 今日一日だけでどれほど強くなれたのだろう。

 継人つぐとはニヤつきながらステータスを眺めていた。


「……レベルアップした?」


 ルーリエが継人のシャツをくいくいと引っ張りながら尋ねた。

 継人が彼女の言葉に頷くと、


「むぅ、ずるい。わたしも戦いたい」


 ルーリエが不満を漏らした。

 彼女がそう言い出すのも無理はない。なにせ、彼女は最初のビッグラット相手に少し戦っただけで、その後の戦いはただ見ているだけだったのだ。

 今日の狩りに臨むにあたって、己の勇姿を思い描いていたルーリエにとっては、ストレスの溜まる展開である。継人だけがレベルアップして、自分が置いていかれたとなれば尚更だった。


 継人はポリポリと頭を掻く。

 ルーリエがそろそろごね出すのは分かっていた。時折、継人のほうをジッと見ながら、やる気をアピールするようにスコップを素振りする彼女の姿に、随分と前から気づいていたからだ。

 だが、モンスター相手に折角通用している必勝戦法を崩すのも怖い。そう思い、あえて無視していた継人だったが、それも限界のようだった。


「分かった。次は少しやり方を変えよう」


 レベルアップした直後なので、やり方を変えるタイミングとしては丁度良いかもしれない。

 それに少し気になることもあった。


 次のモンスター。またしてもビッグラットだった。

 今度はカウンターの蹴りを少し変える。足を突き出す前蹴りではなくて、横からの回し蹴りだ。

 ビッグラットの左側面、左前足の根本から胸にかけてを蹴り砕いた。

 レベルアップの効果もあり、急所を外れても大ダメージを与えられた――が、まだ生きている。


「――ルーリエ! とどめを!」


 継人の言葉にルーリエが飛び出す。

 ビッグラットに向けてスコップをスイング。一撃。二撃。三撃。その攻撃はやはり軽いが、相手は継人の蹴りを受け既に瀕死だ。問題ないだろうと継人は黙って見守る。

 それから三分強、ルーリエは攻撃を続け、ようやくビッグラットの動きが完全に止まった。


「……ふぅ、ふぅ、やった。わたしは勝った」


「時間かかりすぎだけどな。つーか、なんでスコップを振り回すしかしないんだよ。ゴブリンと戦ったときみたいに突きも使え」


「あれは必殺技。ピンチのとき以外はひかえるべき」


「お前な……」


 その後、同じようにさらに二匹のビッグラットを仕留める。そして――。

 ルーリエがスコップを掲げてポーズを取っていた。見覚えがあるポーズだ。継人は自分も同じポーズで喜んでいたことがあるのを思い出し、やや苦い顔をしながら彼女に尋ねた。


「レベルアップしたのか?」


「ずばり。そこに気づくとはさすが」


 どや顔で無い胸を張るルーリエをスルーし、継人はさらに質問を重ねる。


「今日はそれが最初のレベルアップだよな?」


「む? そう。レベル8になった」


 やはりそうか、と継人は顎を撫でた。


 レベルというのは魂の大きさや強度。モンスターを狩ることでレベルが上がるのは、殺したモンスターの魂を己の糧として取り込んでいるから。そういう説が一般的だという話だった。

 その説が正しいとした場合、モンスターの魂を取り込むためには、モンスターを殺す行為に、かなり直接的に関与しなければならないのかもしれない。


 例えば、ルーリエは狩りの貢献度でいえば、索敵だけしていたときのほうがむしろ高かった。継人の手加減の手間が減るし、なにより戦闘時間が圧倒的に短くて済むからだ。

 しかし、そのときは貢献度は高くても、ルーリエのレベルは上がらなかった。彼女よりもレベルが高く、レベルが上がりづらいはずの継人のほうが、先にレベルアップしたくらいだ。


 これは索敵という行為が、モンスターの死に直接関与しておらず、そのせいでモンスターの魂を取り込めなかったからではないだろうか。その証拠に、手負いのモンスターにとどめを刺し出した途端――つまり、モンスターの死に関与し始めた途端に、あっという間にレベルアップした。


 もちろん、まだまだデータが少ないので確かなことは言えないのだが、それでも、一緒にパーティーを組んで狩りをすれば勝手に経験値が均等に分配されるような、そんな単純なシステムではないことだけは間違いない。


「――まあ、ゲームじゃないんだし、当たり前っちゃあ当たり前か」


「げーむ?」


「いや、なんでもない」


 とにかく、レベルアップに切った張ったの直接戦闘が必要だというのなら、ルーリエに索敵だけを任せるという選択肢はもうない。狩りの目的は二人でレベルアップすることなのだ。

 そう考えたら、継人が削って、ルーリエがとどめをさす。この戦法は最適解だと言っていいだろう。

 ビッグラットから尾を回収した二人はさらに先に進む。


「――む、あっちにビッグラット一匹」


 ルーリエの尖った耳がぴくぴく動き、報告が飛ぶが、今までと少し違う。

 モンスターの姿が見える前から、それがビッグラットだと断定していた。


「また鼠か。出会いすぎて、遂にビッグラットの足音でも覚えたのか?」


「そう。それと【聴覚探知】がレベル3になったら、もっと聞こえるようになった」


「マジか。いつ上がったんだ?」


「さっき。レベルアップのとき、いっしょにあがった」


 そんなことを話しながらも、継人の蹴りからルーリエのとどめ、と余裕を持ってこなしていく。

 レベルが上がった効果でルーリエの攻撃力も上がっている。その上索敵もさらに向上したとなれば、もはや隙はないと言っていい。ビッグラット限定の話ではあるが。


「――なんか鼠ばっかりだな」


 ビッグラットの尾をナイフで切り落としながら、継人がぽつりとこぼした。

 すると、継人のその言葉を聞いていたようなタイミングで、


「む。……しらない音」


 ルーリエの索敵に新たなモンスターが引っかかった。

 継人は尾を放り出すと素早くツルハシを拾う。


「何匹だ?」


「一匹……。もさふぁさぼふぁって聞こえる。あっち」


 謎の擬音はともかく、一匹ならビッグポイズンスパイダー以外は迎え撃つ算段である。


「蜘蛛なら逃げるからな」


 と継人が確認の声を上げたところで現れた。

 空気を揺らしながら、洞窟の壁から壁へ。そいつは不規則に飛び回っていた。

 大きさ一メートルに僅かに満たない茶色い体。バタバタと羽を羽ばたかせる度に粉のようなものが宙に舞う。――蛾。それは蛾だった。『魔鉱窟』に現れる蛾のモンスターは、


「――ビッグモスだ! 鱗粉を浴びるなよ!」


 継人は声とともに手の中のナイフを投擲する。先ほどまでビッグラットの尾を切り落とすのに使っていたナイフを、本来の用途で使用したのだ。

 しかし、両者の距離はまだ二十メートル以上ある。

 ナイフは壁に外れて、キンッと高い音を立てるにとどまった。

【投擲術】のスキルが仕事をしてくれるかと期待したが、スキルレベル1ではこんなものかもしれない。


 継人は舌打ち一つ、しかし、すぐに今度は地面から適当な石を拾うと、ビッグモスに向けて投げ始める。


「ルーリエ、お前も投げろ」


「む、わかった」


 二人でガンガン石を投擲していく。そのうち幾つかの石がビッグモスの柔らかい体に当たり、その度に蛾は派手にばたついて、鱗粉を振り撒く。その鱗粉から逃れるために継人達もジリジリと後退し、下がりながらも次々と石を投擲していく。


 ビッグモスは『魔鉱窟』に存在するモンスターの中でも最弱である。継人の蹴りどころか、ルーリエのスコップスイングでも一撃で仕留められるだろう。しかし、継人はできることならこのモンスターには近づきたくなかった。なぜならビッグモスの鱗粉には毒があるからだ。

 毒といっても強力なものではない。万が一喰らっても命を落とす心配はない。だが――痒いのだ。その毒を一度浴びれば、掻いても掻いても引かない痒みに丸一日は悩まされることになる。そんな毒鱗粉を振り撒く、まさに嫌がらせみたいなモンスターがビッグモスなのだ。


 鱗粉から二人してわーきゃーと逃げ回り、それでも気合いで石を投げ続けること十分弱。

 壁に止まったビッグモスの背に、継人が投擲したソフトボール大の石が直撃した。

 石と壁に挟まれ胴体が潰れたビッグモスは、最後は暴れるでも、もがくでもなく、呆気なくぽとりと地面に落ちて動かなくなった。


「…………はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


「…………ふぴー、ふぴー、ふぴー」


 戦いが終わったときには、二人とも息も絶え絶えだった。

 ある意味強敵だった。


「……はぁ、はぁ、できるだけ、ビッグモスはなしの方向で頼む」


「……ふぴー、気を、つける」


 息を整えてから、ビッグモスの討伐証明部位である触角を二本とも切り取る。一本だけだと半額しか報酬を受け取れないと聞いているので、忘れずに二本切り取り、ビッグラットの尾が入った袋に一緒に入れておく。そして、途中で放り出した尾と最初に投擲したナイフを回収し出発する。


 そこからはまたビッグラットが続いた。

 蛾と無駄な激戦をしたせいで、継人は鼠の顔を見るとホッとするようになっていた。

 ルーリエのおかげでビッグモスは事前に察知して避けられたので、ひたすらビッグラットとの戦いが続く。

 そして、もう討伐証明の尾で袋が重いから、一旦引き上げようかと考え始めたときだった。


「――む、むむ」


 ルーリエの耳がせわしなく動く。継人は、もうお馴染みの光景だ、とツルハシを構える。が、ルーリエは「む?」と首を傾げるだけで、索敵結果の報告をしない。


「ん? どうした、モンスターじゃないのか?」


「……むぅ……なにかいる……気がする……?」


 その言葉に、継人は警戒して辺りを見回すが――少なくとも彼には何かいるようには見えない。


「じゅさってしてから、ざざって聞こえた。ちょっと」


 要領を得ないルーリエの説明だが、今まで見事に索敵をこなしてきた彼女の言葉だ。信用しないわけにはいかない。

 継人はもう一度、ゆっくりと周辺に視線を巡らせていく――……やはり、何も発見できない。

 どういうことだ? と考えながら、うーん、と悩むように視線を上げた、そこに――


 いた。


 洞窟の天井に張り付いた赤黒い巨大な蜘蛛と目が合う。

『魔鉱窟』に存在する蜘蛛のモンスターは一種のみ。

 しかもそれは、このダンジョンに二種存在する危険度の高いモンスターの片割れ。


 ビッグポイズンスパイダーだった。

名前:ルーリエ

種族:羊人族

年齢:9

Lv:8

状態:‐


HP:224/224

MP:256/256(+10)

筋力:10

敏捷:10

知力:8

精神:16


スキル

【羊毛Lv1】【聴覚探知Lv3】【無心Lv1】【解体Lv2】【掘削Lv2】【魔力感知Lv1】【魔力操作Lv1】【言語Lv2】【算術Lv1】【料理Lv1】


装備:ステータスタグ【アカウントLv1】【システムログLv1】

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