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スコップ・スコッパー・スコッペスト with魔眼王  作者: 丁々発止
1章 スコッパーと魔眼王
16/65

第15話 レベルアップ

『経験値が一定量に達しました』

『Lv8からLv9に上昇しました』


 この声はステータスタグに付随したスキル【システムログ】の効果で、ステータスに変化が起こった際に、持ち主のみに聞こえる声で、その変化を知らせてくれる便利機能――とは冒険者ギルドの受付嬢であるセレアの言だ。


 無事初めてのモンスター退治に成功し、レベルまで上がった。この上ない結果である――はずなのに、継人つぐとの表情は晴れなかった。

 正直、ゴブリンを舐めていた。明らかに彼が想定していたよりも強くて、狂暴で、恐ろしい相手だった。

 もし、ゴブリンが二匹いたらどうなっていたのか分からない。三匹いたなら、今こうして死体になっているのは、ゴブリンではなく継人のほうだっただろう。


 モンスターを倒して、レベルを上げ、ステータスを強化する。まるでゲームのような流れを想像して、考え自体が甘くなっていたことは否定できない。


 しかし、だがしかし、と継人は思う。

 確かに油断があった。心構えがなかった。そもそも準備不足も甚だしい。反省はする、大いにするべきだ。だが、間違ってはいない。今日、無謀にもモンスターを狩りに来たことは、何も間違ってはいないのだ。

 なぜなら――



名前:継人

種族:人間族

年齢:17

Lv:9

状態:呪い


HP:219/256

MP:2/33(-239)(+10)

筋力:13

敏捷:10

知力:11

精神:14


スキル

【体術Lv2】【投擲術Lv1】【言語Lv4】【算術Lv3】


ユニークスキル

【呪殺の魔眼Lv1】


装備:ステータスタグ【アカウントLv1】【システムログLv1】



 継人は拳を握る。

 ゴブリンの目を突いた指が多少痛むが、そんなことはどうでもいい。力が溢れるようだった。

 ツルハシを握り、持ち上げる。――軽い。先ほどまでよりも軽く感じる。そのままツルハシを二度三度と振り、頭上に掲げる。やはり明らかに軽い。筋力値が僅か2上がっただけでこの効果。

 力を望んで、それが今、継人の手の中にはあった。

 こんなに素晴らしいことが間違いであるはずがない。


 継人はレベルアップという甘い果実の味に、ニヤける口元を抑えられないまま、掲げたツルハシを見上げる。そして、ふと、隣に目を移した。


 ――継人の視界に入ったそれは、まるで絵画に描かれた勇者のような姿だった。

 ドラゴンを倒した偉大なる勇者が、剣を天へと掲げて勝鬨を上げる。…………ただし、実際に倒したのはゴブリンであり、天に掲げられたのはスコップであり、勇者どころかその姿は弱そうな羊そのもの――つまり、ルーリエであった。


 ルーリエが半眼をキラキラと輝かせながら、スコップを掲げてポーズを決めていた。

 そして、そのポーズは奇しくも継人が現在とっている体勢に酷似していた。


 継人は頭上に掲げたツルハシをそっと下ろす。そのままそっぽを向いて一度咳ばらいすると、何食わぬ顔でルーリエに話しかけた。


「……どうした? 随分とうれしそうだな?」


 彼女がどうしたのかは、つい今しがたまで同じポーズで喜んでいた彼には大体分かっていたが、白々しくもそう尋ねた。


「……レベルアップした」


「そうか。やったな」


「やった。わたしはもう最強」


 余程テンションが上がっているのか、ルーリエは目を爛々と輝かせながらありえないことを口走った。しかし継人も大人である――あるいは大人であることをアピールしたいからなのか、彼女の言葉にわざわざ突っ込むような野暮な真似はせずに、黙って聞き流した。


「……ツグトは?」


「ん?」


「レベルアップした?」


「おう、したぞ。無事にMPも増えた。(-239)の表示はそのままだけど、最大MPは上昇してる。多分これからもちゃんと増えていくはずだ。つーわけで、あとで【魔力操作】のやり方教えてくれ」


 レベルアップによってMPが増えることが確認できた継人は、【魔力操作】スキルを使って【呪殺の魔眼】をコントロールできるのか模索してみるつもりだった。

 そんな継人からの要請にルーリエは力強く、こくり、と頷く。


「わかった。わたしのことは師匠とよんでいい」


「呼ばないけど頼むな。――それとルーリエ。このゴブリンの死体はどう処理すればいいか分かるか?」


「――む、かんたん。右耳をきりとる。あとはいらないからすてるべき」


「右耳……。倒した証明ってことか? それだけで金になるのか?」


「そう。冒険者ギルドにもっていけばいい」


 なるほど、と継人はゴブリンの死体に向き直る。しかし、刃物もなしにどうやって耳を切り取ったものか。腕を組んで継人が悩んでいると、ルーリエがゴソゴソと服の中からポーチを取り出し、その中から小さな折りたたみ式ナイフを持ち出した。そして、迷うそぶりもなく、あっという間にゴブリンの耳を切り取ると、それを継人に差し出す。


「……おう、サンキュ。……つーかナイフなんて持ち歩いてんだな」


「髪とかきるやつ」


「…………そうか。あとでちゃんと洗っとけよ」


「む、わかった」


 ゴブリンの耳は、既に空になったドライフルーツの袋に放り込む。


「――よし! じゃあモンスター狩りの続きになるわけだけど、今から狩りの行動方針について説明する」


 継人の改まった言葉にルーリエが神妙に頷いた。



 SSS



 棘のように鋭く天を穿つ奇妙な山々が連なる山脈の麓。そんな山々の麓というには、まだまだ勾配は緩やかなその場所にダンジョンはあった。

 傾いた太陽が棘の山脈をオレンジ色に染め始める頃合い。山を広大に切り開いて作り上げられたダンジョン前の広場には、人々の姿が溢れ返っていた。


 そんな広場の一画、バケツいっぱいに詰まった魔力鉱石を都合二度も換金した継人は、手の中の千百四ラークを眺め、満足げな様子だった。

 一方、隣にいるルーリエは無表情の中に不満の色がありありと浮かんでいる。


「――おい。いつまで、ぶーたれてんだ」


「……むぅ、たれてない。わたしはふつう」


 そう言って、そっぽを向くルーリエは完全にへそを曲げていた。


「仕方ないだろ。モンスターが出なかったんだから」


「……もっと奥にいけばよかった」


 継人の立てた狩りの計画は要するに待機だった。

 ゴブリンと戦った五本の道が延びる分岐点で待機し、モンスターを待ち構える。やってきた相手が一匹ならそのまま倒せばいいし、もし複数なら背後の採掘場広間に続く通路にさっさと逃げ込む。待機時間もただ待っているだけでは時間の無駄なので、魔力鉱石を採掘しながら待てば無駄もない。


「闇雲に奥に行くのは危ないって話しただろ」


 ゴブリンが思っていた以上に強く、何より動きが速かった。もし複数匹に出会ったら逃げきることが難しい。ましてやそれが知らない道なら尚更だ。

 そんな思いもあって継人が考えた案であったが、いざ始めてみると、待てど暮らせどモンスターが現れない。その代わりとでもいうように、掘っている壁が普段手付かずの場所であるからか、魔力鉱石だけが大量に出てきて、二人のバケツはあっという間にいっぱいになったのだ。


 石で溢れるバケツを結局は二度も換金したのだから、これでは狩りにきたのか、採掘にきたのか、本当に分からない。

 ルーリエがむくれるのも当然だった。


「……むぅ、でも、モンスターこない」


「俺もあんなに何も出てこないとは思わなかったんだよ。ゴブリンがすぐ出てきたから、もっと続々現れるもんだと……。まあ、帰りにギルドに寄ったとき、ダンジョンの地図が手に入らないか調べてくるから、手に入ったら明日からもっと奥に行く」


「……む、ほんと?」


「ああ」


 継人のその言葉を聞いて、ルーリエもようやく納得したように頷いた。

 彼女はそのまま虚空に目を向けて、スコップを強く握り、キラキラと半眼を輝かせる。きっと明日活躍する自分を想像しているのだろう。


「――じゃあ今日はこれで解散にするか。……と、そういやお前宿はどうする? また一緒に泊まるか、それとも宿舎とやらに泊まるか?」


「……宿舎にする。朝ごはんと晩ごはんがついて銀貨三枚。おとく」


「確かにお得だな。俺も泊まりたいくらいだ」


「ツグトはむり。奴隷せんよう」


 まあそうだろうな、と継人は納得する。奴隷は主人の許可なしには物の売り買いすらできないのだから、彼女が銀貨三枚を支払えるということは、宿舎というのは奴隷から金を受け取ることを許可された奴隷用の施設ということだ。


 他の宿では金さえ受け取ってもらえない奴隷達を、その宿舎に放り込んでおけば、逃げ出すこともなく、あとは生きていくために勝手にせっせと働いてくれるわけだ。

 管理が楽そうなシステムだが、反面管理が行き届かないシステムとも言える。その証拠に、ルーリエのように協力者さえいれば、裏技的に冒険者をすることも可能だった。


(……そういや好きな食い物すら、自分じゃ買えないんだよな、コイツ)


 ふと、宿の部屋でドライフルーツをもりもりと頬張っていたルーリエの顔を思い出す。


「――……ちょっと帰る前に一軒寄るか」


 継人は、首を傾げるルーリエを連れて、もはや馴染みになりつつある露店に立ち寄った。


「やあ、いらっしゃい、お兄さん。そっちのお嬢さんも。元気そうで良かったよ」


「ああ、おかげさまでな」


名前:ラエル

職業:Dランク商人


 継人にとってこの世界で初めて会話した相手。タグ無しの彼に声をかけてきたお人好しの露店商である。ネームウィンドウを確認すると名前はラエルというらしかった。

 昨日、彼にはルーリエの治療のため、バケツ二杯分の魔力鉱石を押しつけた上に、ハイネ魔道具店まで紹介してもらっていた。


「――って、お兄さん! タグがあるじゃないかっ。もう金貨一枚貯めたのかい!?」


「まあ、なんとかな」


 露店商ラエルは、継人のタグを再発行したものと勘違いしているようだったが、訂正するのも面倒なので、継人は説明を放棄して、そのまま適当に話を流した。


「それよりドライフルーツ銀貨一枚分、袋付きで頼む。そっちで適当に詰めてくれ」


「はいはい、まいど。――て、それよりもどうやってそんなにすぐに稼げたんだい? 悪いことかい?」


「違うわ。ほら、あれだ。……エーテル結晶がまた採れたんだよ」


 袋にドライフルーツを詰めながら、ラエルが話を蒸し返したので、継人は適当な嘘で躱す。


「なんだ。それなら僕のところへ持ってきてくれればいいのに」


「あんたには昨日バケツで石を売ってやっただろ」


「あれは押しつけたって言うんだ。あのあと僕が受付まで換金しにいったんだよ?」


 恨みがましい視線を向けるラエルに、継人は首を傾げる。


「自分で捌けば良かったんじゃないのか?」


「勘弁してよ。魔力鉱石の取引はレーゼハイマ商会が全て取り仕切ってるんだよ。こんなレーゼハイマのお膝元の、ど真ん中で商売させてもらってる身で、魔力鉱石を横取りするような真似できるわけないよ」


「でも、エーテル結晶は横取りするんだろ?」


「あっはっは。あれぐらいはここで商売する上での、たまのボーナスみたいなものさ。……エーテル結晶は小さいからバレないしね。――はい、おまたせ」


 ラエルがドライフルーツを差し出す。

 ドライフルーツの袋を受け取った継人は、


「ルーリエ。手ぇ出せ」


「?」


 首を傾げながらもルーリエは素直に手を前に出す。

 彼女のその手の上に、継人はドライフルーツの袋をポンと置いた。

 ルーリエの半眼が袋と継人の顔を何度も行き来し、


「……くれる?」


「ああ、土産だ。――――これで今日は本当に解散な。明日も朝から行くから寝過ごすなよ」


「……わかった。ありがと」


 そう言ってルーリエはふりふりと手を振ると、テテテと木造の建物に向かって駆けていった。


「プレゼントだったんだね」


 微笑みながら言うラエルに、


「そう、プレゼント。あんたが直接奴隷に物を売ったわけじゃない。だから構わないだろ?」


 継人は気取った言葉を返した。これ以上ないほどの、したり顔で。

 しかし――


「え――? この広場にある露店は、奴隷にも商品を売れる許可は貰ってるよ?」


 その言葉に継人はフリーズした。

 そんな継人の様子を見て、彼の勘違いに気づいたのか、ラエルは盛大に笑っていた。


 いらぬ恥をかいた継人は自分の行動を一瞬後悔しかけたが、自分が渡した袋を大事そうに抱えて建物の中に消えていくルーリエを見て、まあいいか、と溜息をつくのだった。

名前:ルーリエ

種族:羊人族

年齢:9

Lv:7

状態:‐


HP:184/184

MP:232/232(+10)

筋力:8

敏捷:8

知力:7

精神:15


スキル

【羊毛Lv1】【聴覚探知Lv2】【無心Lv1】【解体Lv2】【掘削Lv2】【魔力感知Lv1】【魔力操作Lv1】【言語Lv2】【算術Lv1】【料理Lv1】


装備:ステータスタグ【アカウントLv1】【システムログLv1】

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