実践と決意
うっすらと目を開ける。そこには綺麗な空が広がっていた。夕焼けに照らせた雲が緋色に染まっている。
ゆっくりと呼吸を整えてボロ雑巾並にボロボロの身体を起こす。もう立っているのもやっとだ。
足はフラ付き無数の擦り傷から血がポタポタと垂れる。
だが、意識はハッキリしている。
胸の奥が熱い、今ならわかる..僕の能力。
これなら徹のおっさんに勝てる。
『破村壊斗、貴方が対象とした全てを破壊する能力を手に入れました。マザーBCは貴方の進化を認めます。本日この時をもって貴方はAランクです。
おめでとうございます。』
無機質な機械音が公園に響く。
バカな、俺の大砲を2発も食らったって言うのにまだ生きてるだと!?それにこの土壇場で能力を開花させやがった...このガキただ者じゃないな。
『驚いたな、まさかAランクになっちまうとは。が、俺に勝てるかどうかは別だ、その能力をものにする前に死んどけ』
俺は目の前に立っている破村に向けて手をかざす。俺の砲弾は目には見えない。言わば衝撃波のようなものだ。次はない。この1発で仕留める。
『"掌の砲台"』
パンッ!!という激しい爆裂音と共にあたり1面が吹っ飛ぶ。砂煙が舞い、視界が奪われる。奴の安否が確認出来ない。だが確実に命中している。
しかし、ジャリジャリと地面を歩く音が1歩1歩近づいて来ていた。
『冗談キツイね、いったいどうなってやがる...』
額から冷や汗が垂れる。俺は咥えていたタバコをペッと吐き捨て、息を飲んだ。
『クソったれ、もう1発食らっときな!』
ダメを押しの1発、激しい爆裂音が辺りにこだまする。だが一向に足音が止む気配はない。
『すごい力だ...予想以上だ。これが僕の能力。』
微かだが煙の中から声が聞こえた。
1歩1歩俺との距離を詰めて来ている。
全く...どうなってやがる。
俺の砲台をさっきから完全に無効化してやがる。
奴の能力は破壊系の能力の筈だ。
まさか俺の砲台を正確に破壊してるってか?
デタラメにも程がある...俺の砲台は目には見えず時速80km程の速度だぞ。それに能力を無効化する能力ならまだしも、破壊系能力で人の能力を破壊するなんて聞いたことねぇぞ。
『だがね、俺も仕事である以上お前を殺さなきゃならないんでね。いい加減死んどけ。』
俺が右手を構えたその瞬間だった...
『"楽園崩壊"』
短く放たれた言葉だった。それと同時にパンッと何かが破裂し辺りに純血の赤が飛び散る。
これは奴の血ではない...まさか!?
恐る恐る右手を確認する。砲弾を放つはずだった俺の右手がごっそり消滅し、手首からは大量の血がまるで滝のようにダラダラと流れていた。
『ぐぁああああッ!やってくれたなオイ。』
傷を認識した途端、強烈な苦痛が襲ってきて思わず声を上げる。
『おっさん、冥土の土産に全部教えてあげるよ。
僕の能力、"楽園崩壊"は僕の視界に映る破壊したいと思った対象を木っ端微塵に破壊する能力だ。
もちろん能力者が生み出した物も破壊対象に含まれる。
アンタの砲台が当たらなかったのは僕が砲台を破壊対象にしていたからだ。 』
『俺の砲台の弾は気弾だ。目には見えないはずでは...』
『僕には見えている。
砲台を放つ時、一瞬だがアンタの掌の空間が歪むのが見えた。
その歪みは恐らく砲台の弾を生成する時に出来る歪み、きっと空気中の気体エネルギーか何かを凝縮しているんだろう。
それが弾の正体だ。
後はその歪みの大きさにあわせて一定範囲の空間を破壊するだけ。
それでアンタの砲台を無効かした訳だ。
さて、次はアンタを破壊する番だ。死ぬ覚悟は出来ているか?』
フラフラの足で力強く地面を踏み付ける。1歩1歩確実に距離を詰めて行った。
僕はコイツを殺して前に進む。いずれは十死弾を壊滅させてマザーBCを完璧にぶっ壊す!
『これでトドメだ..."楽園崩ーー』
『ちょっと全くれないかな!』
僕が能力を使おうとした途端どこからとも無く声がした。思わず能力を使うのを躊躇った。すると空から足に炎を纏った赤髪の青年がおっさんと僕の間に割り込んできた。
すとんっと綺麗に着地しおっさんの方に歩み寄る。
はぁーーーと大きくため息を吐いた。するとその少年は。
『"炎熱魔"』
と小さく呟いた。するとおっさんの右手首の傷を焼いた。悶絶するおっさんを他所に炎でやき続け皮膚と皮膚を溶かしまるで溶接するみたいに傷口を塞いだ。別の意味で真っ赤ではあるが...
『ふっ、これでよし。帰ったら説教だからな』
青年はそう言うとくるっと振り返りこっちらに向かって歩み寄って来た。そしてゆっくりと口を開いた。
『ごめんね、急に割り込んじゃってさー。けど俺、徹に死なれると困るからさー悪いけど今日の所は見逃してくれない?
破村くんがAランクに逆らった事はこっちで無かった事にしておくからさ!それにAランクになったし無闇に殺したりしないからさー
あ、ごめん。まだ自己紹介してなかったね。
九城炎魔。黒の十死弾、九の弾だよ、よろしくね。』
コイツが、九城炎魔!?多分見逃さないと僕はここで死ぬ事になるだろ...まぁおっさんを殺しても殺さなくても別に今は関係ないしいいか。
『わかりました。』
『いやー物分りが良くて助かったよー。じゃあ俺らはこの辺で失礼するよ。』
そう言って僕に背を向けておっさんの方に駆け寄って行く。おっさんの抱え再び足に炎を灯し、その力で徐々に空高くまで上昇していった。
今なら奴は無防備。僕の能力で!
『下手な事は考えない方がいいよ』
そう言われた瞬間、背筋が凍った。背後に熱を帯びた小さな何が出現していた。恐らく彼の炎。
『何かした途端そいつが後ろで大爆発を起こす。死にたくなかったら大人しく見送っててね。んじゃーねー』
そう言うと彼らは飛び去って行った。それと同時に背後の炎も消えた。
『とりあえず、何とか生き残れ...た...』
緊張から解放されたせいか一気に疲れが襲ってきた。意識が薄れ、立っているのもやっとだった僕の身体は限界を超えたらしくその場で崩れ落ちた。
『『壊斗ッ!』』
心配そうに造瑠と鏡花が駆けつけてきた。この2人は恐らく怖くて何も出来なかったのだろう。学園の生徒ならまだしも相手は十死弾だったから仕方がない。
『今治してあげるからね、"逆再生"』
鏡花に膝枕されながら暖かな光に包まれる。あぁ、なんて気持ちの良い光なんだろうか。全身の血や傷口が元通りになっていく。そして地味に鏡花の太ももが気持ちいい。暫くこのままでいよう。
光に包まれながら空を眺めていた。すっかり日は落ち、辺りは闇に包まれたいた。楽園では夜になると空に星が現れる。正しくは階層の天井に星空の映像を流している。遥か昔、まだ日本が機能していた時代に存在したプラネタリウムという技術らしい。
この綺麗な星空も昔は地上で見れたのだろうか...
『ねぇ、二人共。』
沈黙を切り裂き僕はゆっくりと言葉を綴った。
『僕、最上層の第一層に行ってみたいんだ。そこにはマザーBCがあるだろ?あれをぶっ壊してランク制度も解体させて僕はBランク達の英雄になるんだ!
それでさ2人にお願いがあるんだけどさ。僕と一緒に戦ってくれないか?3人じゃ心細いから同じ意思をもった同志を見つけて仲間にしていずれ革命軍を作る。
どう?一緒に来てくれるか?』
2人は少し黙り込んだ。やはり無理か。2人とはここでお別れかな...
そう思った時だった。最初に口を開いたのは造瑠だった。
『俺はいいぜ。Bランク達はこれまで散々酷い目に合わされてきた。俺はこんな世界は許しておけねぇしな!一緒に世界をぶっ壊そうぜ!』
そう言うと僕の胸に拳を当ててきた。
『あーもう。2人だけじゃ心配だから私も付いてくよ!こうなったら私も世界をぶっ壊してやるんだから!』
フンッと軽く怒りながら鏡花も胸に拳を当ててきた。
『2人ともありがとう。じゃあ決まりだ。
第一層に行って、邪魔する十死弾全員をぶっ倒して。
マザーBCを壊して英雄になって。
ついでに世界を変えようか。』
『『おう!!』』
こうして僕達の革命譚が始まろうとしていた...