第4話「異常な幼女」
俺はその光景をしばらく、軽い放心状態のような状態で眺めていた。今俺の目の前で起こったことは、誰が見たとしても、自分の五感全てを疑いたくなるような異常な光景だと、俺は思う。
ーギウスが死んだ。俺よりずっと強かった憎たらしいクソ野郎が、幼女なんぞに一撃で殺された。何度瞬きしても、その事実は変わらず、さっきまでギウスだったものは、スピカの足元に散らばっている。
「じゃあお兄ちゃん、行こー。」
当のスピカは、ギウスを殺したことをなんとも思ってないようだった。呑気にその足でギウスの死体を踏みながら、俺の方へ寄ってくる。
ー俺は反射的に一歩下がった。俺は、もうスピカをただの幼女とは見れなくなった。この健気そうで、純粋そうな、この顔も、一種の仮面なのではないかとさえ思える。
「どーしたのー?」
だが、この化け物は、なおも親しげに俺に話しかけてくる。お前の正体は何なんだ、という言葉が喉元まで上がって来たが、その答えを聞きたくなくて、俺はあっさりとその言葉を飲み込んでしまった。
「あ、いや、何でもない。」
俺は何とかそう答えた。だがスピカは納得のいかない顔で俺の顔を覗き込んだ。
っ……!近い。スピカは数秒ほど俺の顔を見ていたが、やがて何かに気づいたような顔で、満面の笑みを浮かべて俺に言った。
「そーか、お兄ちゃん疲れてるんだー、しょうがないなー、少し休んであげるよー。」
俺の顔色を見て、そう判断したのか。まあ確かにそうだが、俺の顔色が悪い理由が自分にある事に、スピカは全く気づいていない様子だった。この幼女には、何か大切なものが足りていない、それは明らかだった。
「あ、ああ、ありがと、な。」
だがその気遣いは、受けることにした。実際、精神が持ちそうにない、こいつのせいで。
「じゃああっちで休もう、確かあっちに広い場所があったはずだから、さ。」
俺は、ここからの場所移動を提案した、惨殺されたギウスの死体の前じゃ、休めるわけないからな。