第1章プロローグ「帰らずの理由」
迷宮「帰らずの神殿」が、とある辺境に出現したのは、今から約9年前のことだ。
この迷宮は、割と新しい部類に入る。
正式に「帰らずの神殿」なんて物騒な名前がついたのは、迷宮が出現してから2年後、今から7年前のことになる。
ーだがこの迷宮は、その名に似合わず、極端に生存率が低い訳ではない。「帰らずの神殿」は、迷宮難度は中級程度で、その程度の迷宮の生存率は大体65パーセント位で、この迷宮の生存率は、60パーセントほどだ。
ならなぜこの迷宮はこんな大層なお名前をいただいたのか、それはこの迷宮の中で起こる、謎の現象から来ている。
ーまあ迷宮なんて魔力の塊のような空間に、謎なんてつきものだが、この迷宮の謎は、迷宮で死んだ奴の霊が出るとか、そんなオカルト的なものではない。
ーこの迷宮で起こる不思議な現象、それは、パーティの全滅率が、異様なほど高いことにある。
それは、この迷宮の出現以来、数多く起きている出来事で、通常なら、パーティが自分達の実力に見合わない魔獣と遭遇し壊滅したとしても、全滅することはそれほど多くない。
ーだがこの迷宮では、度々全滅が起こる。それを不審に思った《Aランク》の冒険者のパーティが、迷宮内で全滅したことによって、この迷宮の名前は正式に決定された。
ー全滅が起こる理由は未だに不明だ。迷宮に一体だけ恐ろしく強い魔獣がいるとか、とてつもなくでかいトラップ系の魔術が仕掛けられているとか、話題は尽きない、だがその真相を知るものは存在しない。なぜなら、それに遭遇したものは、どうなったにせよ、帰ってこないのだから。