第2話「結ばれた契約」
「ねーお客さーん、せっかくだから、わたしのお兄ちゃんになってよ。」
テンションが落ち着いてきたスピカは、なんの前振りも脈拍もなく、唐突にそう言った。
「ああ、いいよ」
そして俺の口はなぜだか何の迷いもなくそれを承諾していた。言い訳をすればあまりにも自然すぎる流れに乗せられた、ってことだ。
「よかったー、じゃあよろしくねーお兄ちゃーん。」
俺がことの重要性に気づいた時にはもういろいろと手遅れだった。なんていうか……断れる雰囲気ではなくなっていた。俺は心のなかで「おいおい何しちまってんだ俺ぇーーーー⁉︎」と叫んでいたのだが、少し経って、俺はある事に気がついた。
ー別によくね?と。
仮にスピカが俺の妹になったところで、俺にはなーんのデメリットはない、むしろここで断ることの方が、正直言ってまずいと思う。
そんな結論に至ったところで、俺は顔を上げ、何かが吹っ切れたような顔で、スピカと向き合った。
スピカは満面の笑みで俺の方を見て、うれしそうに言った。
「じゃあ兄妹になるための契約を始めるよー」
「へ?」
何だか急に話の方向が変化したような気がして、俺は思わず疑問詞を浮かべる。
「えー?契約だよ契約ー、もしかして知らないー?」
「いやそれ位は…え?でも契約って、人間とかが精霊なんかを使役するために使うもんじゃないのか?」
俺はそう、言われてきた気がするんだが。もっとも、俺は剣しか振ってないので、杖とか振ってる魔術に関しては、全くわからないので俺はそうスピカに聞いてみた。
「いやーそーでもないんだよ。契約ってね、血の繋がりのない人と繋がる事でもあるんだよー。」
誰かに教えられた言葉をそのまま復唱した感じで、スピカは言った。そういうことか、なるほど。と俺は納得した。
「ああ、それはわかった、で、俺は何をすればいいんだ?」
「手を繋いでわたしが言った言葉を繰り返せばいーよー、あとはわたしの魔力と精霊が勝手にやってくれるからー」
…魔術ってそんな簡単なものなのか?俺に子供の頃剣とかを教えてくれた師匠は
「あんな細かくてクソむずいことなんて全くわかんないね」とか言ってたのにな。もしかして師匠の奴、めんどいから触れてなかっただけじゃないのか?
師匠のアホ面を思い浮かべると、何となくそんな感じがしてきた。
「じゃー手、だして。」
スピカが机に身を乗り出して手のひらを出した。
俺はその手のひらに自分の手のひらを重ねた。
ーうぉっ、めちゃくちゃやわらけぇ。スピカの手のひらは、俺よりずっと小さいのに、俺を包み込むような柔らかさだった。俺は思わずにやけそうになる。
ーそういう趣味に目覚めたとか、そんなんじゃないけどな。
「我等の内に眠る精霊達よ。」
そんなことを考えている内に、スピカが幼女らしからぬマジな呪文っぽい言葉を詠唱し始めた。
「我等の内に眠る精霊達よ。」
俺はそれを言われた通り復唱する。
「我等の誓いをその存在に刻み。」
「…我等の誓いをその存在に刻み。」
「此処に契約を行う、我の名に誓って。」
「此処に契約を行う、我の名に誓って。」
瞬間、俺とスピカの身体から光が溢れ出した。その光は部屋中に溢れ出し、俺らを明るく照らした。それは俺らの周りを自由に飛び回っていたが、やがて、俺らの身体の中に、戻っていった。
「……なんだよ、これ。」
俺は正直、ここまで派手で綺麗なものは想像してなかった。俺が、光の溢れていた空間をボーっとながめていると、スピカが俺の顔を覗き込んでいた。
ー近くね?
だいたい3センチぐらいの距離だった。
「どーかした?もうおわったよー?」
スピカとの距離と言葉で、俺は現実に戻ってきた。
「あ、ああ、そうだな、」
「これで本当の兄妹だねー、お兄ちゃーん。」
まあそういうことらしい、俺にはよくわからないが、目の前のこの幼女はもう、俺の妹なのだ。
今はたった一人の俺の家族ってことになるのだが、このことはスピカは知らなくていいだろうな。
ーそういえばなんか忘れてる気がするんだが……
ああ、依頼だ。俺が受けてた依頼、何だったっけな。
「神殿の財宝を漁ってくる。あとついでに、神殿の秘宝、《帰らずの神殿の理由》をできたら暴いてこい。」だったっけな。
まあいっか。今回の依頼はすっぽかしても。
俺はスピカの笑顔に癒されながら、そう思っていた。