第1話「謎の歓迎」
「あ…えーっと」
俺が何を言っていいのかわからず困惑していると、幼女は目を細めて、俺の身体を頭の先から足の先までじぃ〜っと見渡してきた。
「じぃ〜〜。」
なぜか自分の口で効果音を言っていたが…
数十秒俺の身体見渡した幼女は、俺の身体から目を離し、満面の笑みを浮かべて言った。
「うん!やっぱり悪い人じゃなさそうだし、お客さんだねっ。さあ〜入って入ってっ。」
幼女によれば、俺は客らしい。そして何やら歓迎されている感じだ。
特に逆らう理由もないし、長い迷宮潜りで相当に疲れていたので、俺は幼女に続いて部屋の中に入った。
「え、っと。お邪魔しまーす。」
部屋は正方形の一室で、壁は迷宮の壁と変わらず煉瓦造りのような模様になっている。だが、ここは迷宮の中と違って、生活感があった。小さいベッドもあるし、机も椅子もある。どれも簡素で特に凄い物でもなかったが、他にも生活必需品は、意外としっかり揃ってそうだった。
ーこれが迷宮暮らしってやつか。食料さえどうにかできれば全然生きていけそうな、そんな部屋だった。
「ほらほらー、座って座ってー」
幼女はハイテンションな様子で椅子に座り、片方の手でもう一つの椅子を指差し、もう片方の手で、机をバンバン叩きながら、そう言った。俺は言われるがままに椅子に座る。幼女は相当機嫌が言いようで身体を左右に揺らしながら鼻唄を歌っている。リズムはなんか変な感じだが。
「なあ。そう言えば名前ってなんだ?」
いつまでも心の中で幼女幼女と呼ぶのもアレなので、俺はとりあえず名前を聞いた。
「?」
幼女は首を傾けるだけだった。アレ?俺なんか変なこと言ったか?俺は初対面の人に名前を聞いただけな気がするんだが…?
「え…もしかして名前ないのか?」
「うん、ずっと一人でいたからねー。」
それが本当かどうかはともかく…
「名前がないって…じゃあ俺はなんて呼べばいいんだ?」
「なら今つけてよー、せっかくだから。」
え…名付けろと来たか…これ何気に責任重大じゃないか?ここで変な名前は付けられないし、そんなことしたら、一生罪悪感に襲われる気がする。
……ちらっと幼女の顔を見てみる。目を星のように輝かせて、俺によほど期待しているようだった。
ー俺の中でさらにハードルが上がった。
ーーー
「スピカ」
考えに考えた結果、こうなった。まあこれって、少しマイナーなお伽話で、主人公をサポートした小さい女の子の名前からとったんだけどな。
「スピカ…スピカ…ほぉーこれがわたしの名前?」
「ああそうだよ。」
目の前の幼女改めスピカは、しばらくほーとかへーとか感心してるような態度を取っていたが、やがてテンションが上がってきたらしく、両手を挙げて喜び出した
「わわわわ〜い、お客さんあーりがとー。」
「どーいたしまして」
こんなに喜んでくれて恐縮だなぁ。
俺はしばらく、以来の件とか、ここが魔獣の住む迷宮だということも綺麗に忘れて、スピカの喜ぶ顔を見て和んでいた。