第17話「とある雇われ兵器の言葉」
兵士長が反撃の余地なく一瞬にして殺された。
その事実は、光よりも早く城内に響き渡り、もちろん、それはシャウラの耳にも迅速に伝達した。
「何ですって……城裏の兵士は全滅……?一体何が起きたのですか……?」
普段は冷静で無表情なシャウラも、この通達には思わず息を飲んだ。
「侵入者……その方達はどんな方なのでしょうか…?これは緊急事態……ですよね……早急に情報を…。」
それでも、動揺したのはほんの数秒で、彼女はすぐに普段の調子を取り戻し、報告に来た兵士に穏やかな声色で尋ねる。
「それが……にわかには信じ難いですが……侵入者は、たったの二人で、一人は20歳前後くらいの青年、そしてもう一人は、銀髪の、幼い少女だと……年齢は、10歳にも満たない可能性もあるとのことです。」
「幼い女の子……ですか、と言うことは、実質侵入者は一人、と?」
シャウラは常識的な判断で、兵士に尋ねる。だが、彼から帰って来た返答は、今度こそ彼女を絶句させるに足るものだった。
「いいえ。裏の兵士を全滅させたのは少女の方です。私もいまだに信じられませんが……。城の上階から一部始終を見ていた者によると、その少女は、兵士を次々に結晶化させ、その身を砕いて行ったそうです。」
シャウラは無言で兵士の横を通り抜け、ゆっくりと歩き始める。
「あ、あのっ。もう一つ、ご通達があるのですが…。」
「何ですか…?」
「兵士長が死した今、我々は混乱状態にあります。どうか、我々の指揮をとってはいただけないでしょうか。」
そう行って彼は頭を下げた。城内は今、最高指揮者を失い、本来ならば小隊をまとめている者も、一部が乱れている。
彼は、どこの部隊の指揮もとったことのない新米兵士だった。
そしてこの発言は、誰に指示されたものではない。彼が、彼なりに状況を判断しての、行動だった。
だが、シャウラは彼の方を向きもせずに一言言い放つ。
「私は只の兵器であって、指揮官ではありません……私にそんなことを言うくらいなら…貴方が皆の前に立った方がマシだと思いますよ?」
「ふ…不可能です…私のような新参者が指揮をとるなど…。」
兵士は頭を下げたままシャウラの背中に、呻くように零す。一方シャウラは立ち止まって振り向き、兵士に向かって穏やかな微笑を浮かべた。
「沢山の人間が平静を失っている中。こうして冷静に私の所に来てくれた貴方なら、きっと大丈夫です。」
それ以上の言葉はかけずに、シャウラは廊下の闇に消えて行った。
シャウラの浮かべた微笑を、彼は見てはいなかったが、それでも彼女の優しい囁きは、彼を奮い立たせるに足るものだった。
「よしっ…やるしかないか…どうにでも慣れっ!」
彼は走り出した。沢山の仲間がいるであろう、侵入者の入ってきた、裏口の方へ、その背中に、迷いなどなかった、根拠のなき自信が、彼の身体中を駆け巡っていたから。
新米である彼は知らない。
毒牙のシャウラの励ましの言葉は、一歩間違えれば死を簡単に招きかねない、危険なものであることを。
そして本人は、過大評価で人を危険な状態に追い込む行為を、無意識のうちにやっていることも…。