第13話「予兆」
告げられたラケルの予測に、俺は絶句した。だが、それを否定しようとは思わなかった。あいつが帰らずの理由そのものならば、確かにあいつの異様性に説明が付く。
「まあ、そうだな。」
「なんだ、えらく落ち着いてるな、あんな幼い子が迷宮の殺人鬼だって知って、驚かないのか?」
「はあ、今更知ったってそんな驚くことはねーよ。あいつのヤバさは昨日、散々見せつけられたからな。」
俺は上から目線でそんなことを言ってくるラケルに、あくまで平静を装って応じた。
「一体なにがあったんだ。君はそんな落ち着いた人間じゃないだろう?」
余計なお世話だ。
「ギウスが粉々に砕けたんだよ。昨日な。」
俺の言葉に、ラケルは少し身を引く。
「あのクズついに死んだか、だがそれは興味深いな。あれはあれでなかなかのもんだったからなあ。」
感慨深そうに天井を仰ぐラケル。
「だからお前の見立ては間違ってないだろうよ、それで?他になんか聞きたいこととかあるか?」
「あ、ああそうだな。これが最後の質問だ。君、どうやってあの子を手なずけたんだ?」
最後の最後にくっっだらねえ質問してきやがったが、ラケルの声色は、これまでで一番真剣だった。なんなのこいつ。これがお前にとって一番重要なのか?
「そんなの知らねーよ、なんか言ってたかもしれないけど、もう忘れた。」
「いやいやいや、思い出してくれよ。それが何か重要なことかもしれないだろ?君のこれからに関わるかもしれないじゃないか。」
ラケルのその言葉で、俺は別の、重要なことを思い出した。
「ああ、そうだラケル。近いうちに、国から直々の呼び出しが来るかもしれないけど、適当な理由つけて断っとけよ。」
もしスピカが本当にこの国を征服するつもりなら、王城を直接攻めるだろう。そうなったら、この国の最高レベルの賢者であるラケルは確実に召集を食らうはずだ。それだけは、避けなければならないし、
犠牲者は、少ないほうがいい。
「は?どう言うことだ、説明してくれ。流石の僕も、唐突にそんなこと言われたって、何もわからない。」
流石の僕とか自分で言うのはいかにもこいつらしいと思ったが、今はそんなことに突っ込んでいる場合じゃない。
「こればっかは説明できん、頼む。お前の数少ない友人からの頼みだ。今回だけは、本当に頼む。」
俺は、俺のできる最大の真剣さで、ラケルに頭を下げた。
「はぁ…なんだって言うんだ。何が何だか全くもって理解できないが、そうだな、今回だけは、聞いてやる。賢者としてではなく、君の友人としてな。」
「ああ、助かる。それじゃあな、スピカもそろそろ飽きてくる頃だろうしな。」
俺はラケルに目も合わせずそう言ってスピカの元へと向かった。
ーーー
「うーむ……本当に不可解だな。」
僕はウィズのいなくなった空間に向かって独り言を呟く。今日のウィズの行動は、どう考えても不自然だった。話し方にキレがない。というより僕の方をまっすぐ見ていない感じだった。何か、ずっと別の方に意識が向いていた。
ーそれはやはりあの真っ白な少女に原因があるのだろうか。確かにあの少女は何かか変だとは思っていた。あの子の態度、顔、行動全てには、生物に必要な《警戒心》が一切感じられなかった。あれは、何物も恐れていない目、自分が誰かに傷つけられる、と言った経験が、全くないように思えた。
ーさらに迷宮で拾ったときた。ウィズもウィズだ。なんでそんな怪しい子を、なんであっさりと連れてきてしまったのだろうか……。
とにかく、この件、どう扱うべきなのだろうか、僕はしばらくそのまま、考えていた。