第11話「変態賢者」
「おおー、おおー、ねぇねぇお兄ちゃーん、なにあれ!かっくいいー。」
スピカのテンションはとどまることを知らず、街に入ってからも、このノリで商業街を駆け回り、その目を輝かせながら冷やかしを続けている。
「あーそうだな、でもな、他にも客がいるんだから居座んのはやめてくれんか?」
装備品店の店主の冷たい視線を浴びながら、俺はスピカをなんとか店頭から引き剥がすための説得を始めた。
「お、久しぶりじゃないか、ウィズ。」
俺が冷やかし幼女を店頭から引き剥がした直後、後ろから突然、馴れ馴れしい声が聞こえた。
「どちらさまでございましょうか、我が頭は、お前のような怪しいものなどとお知り合いではありませんと言っておるのですが…。」
「誰が不審者だ、巡回兵に声かけられたことなんか、両手で数えられる程しかないさ。」
「割とあるじゃん。」
俺は目の前の、全身顔も見えない程のローブを着た、一応友人の賢者に向かって、素に戻ってツッコミを入れた。
ーーー
「でだ、こんなところで話しかけやがって、何の用だよ、ラケル。」
道端でこんな怪しい奴に話しかけられたら、俺まで不審者扱いされるだろうが。
「まったく……君はいっつも会うたび失礼な奴だな、友人に対する礼義っていうものがないのかよ。」
ラケルはやれやれと言った風に溜息をつく。
「そんなことは、その怪しい服装をどうにかしてからの話だ。」
「ねねねー、この人誰ー?」
俺たちがいつもの通り、路上でも関係なしに茶番を繰り広げていたが、今日はスピカが横槍を入れてきた。
「変態詐欺師だ。」
「おい。僕は賢者だぞ、そこらの無能な詐欺師どもと一緒にするんじゃない、僕の品位が下がるじゃないか。」
変なところでプライドが高い奴だな、めんどくせえ。
「あーはいはい、訂正しておくよ、変態賢者。さてスピカ、こんな怪しい奴はほっといて、次の店を冷やかしに行こうぜ。」
露骨に逃げの姿勢をとる俺の肩を、ラケルはかなり強く掴んできた。
「おーい?ウィズくん。せっかく久し振りに会ったんだ、僕の店によっていけよ、なあ。」
「あー、そうだな、しょうがない、寄ってってやるよ。」
招待モードに入ったラケルからは逃げられない、それを身を以て知っている俺は、大人しく従うしかなかった。
ーーー
ラケル・フリューゲルは、怪しい身なりをしているが、正真正銘本物の賢者だ。その魔力総量と技量は、そこらの魔術師を遥かにしのぎ、その学力と知識量も、この国の中でも随一のものだ。
で、そんな天才である賢者ラケルが、今なにをしているかというと、
ー商売である。
なぜそんな道を選んだのかは知ったことではないが、こいつはこの王都の商業街で、魔道具店をやっている。
「いつ見てもきったねえ店だな、掃除してんのか?」
俺達はそのラケルの店、フリューゲル魔道具店に入って行った。店の中はあまり整理されていなく、私物と商品が混ざってんじゃないかというくらい、散らかっていた。
「いいんだよ、ここの魔道具は基本オーダーが多いからね、注文を受けているものはしっかりと店の奥にある。それよりウィズ、ちょっといいか、聞きたいことがある。」
そんなことを言いながら、ラケルは俺の耳元に顔を近づけた。
「君、遂に幼い子に目覚めたのか?」
で、こんな事を囁いた。
俺は無言でラケルを殴った。
「なにをする。僕は君の性癖について真剣に考えてやろうと思っているのに。」
「おい、奥の部屋で話さないか?お前、俺をロリコン呼ばわりした事を後悔させてやる。スピカ、適当にこの店見てていいからなー。俺とこいつはちょっと奥で大切な話をしてくるから。」
「わかったー。」
スピカは笑顔で了承してくれた、さてこのクソ賢者。どうしてくれようか。