第10話「カプリスト王国王都」
朝起きたら、死体と添い寝していた。なんて経験のある奴は、きっと俺くらいだろう。それくらい、起きたら目の前に肉塊が転がっているというのは、衝撃的な光景だった。
「んで、あれ、どうしたんだ?」
目覚めた瞬間の俺の慌てようは、それはそれは情けないものだったと思うが、あれは多分仕方のないことだと思う。とりあえず落ち着いた俺は、死体添い寝事件の確信犯を問い詰めていた。
「えー?なんか夜にはいってきたからさー、悪い人だろーなって。」
人が入ってきた、それは少し気になるが、それよりも今は、この容疑者に、動機やらなんやらを聞かなければならない。
「で?なんで俺の真横に死体があったんだ?おかしいだろ。」
「いやー、お兄ちゃんあんなに驚くとは思ってなかったよー。」
スピカに反省の色はなかった。だがこれ以上問い詰めて面倒なことになるのも嫌だし、ここは引くことにした。
「じゃあ質問を変える。なんで結界内に死体があるんだよ。」
「え?普通に入ってきた人を殺しただけだけどー?」
「え……」
俺は慌てて荷物を確認する。リュックに入っていた地雷式の魔石は、そのままの状態で、リュックの中に入っていた。
「うぉいマジかよ……やらかしたじゃん……。」
結果的にスピカに助けられてしまった。という事実が割と辛い、なんていうか、納得がいかないというか、複雑な気分だ。
「ねーねー、お腹すいたー。」
俺がどうにもならない気分を味わいながら空を眺めていると、スピカにそんなことを言われた。
「あーそうだな、そろそろ飯の時間なのか。」
俺はそう呟き、二人分の朝飯を作るための用意を始めた。
ーーー
カプリスト王国。この世界の東の方に位置する、小さくも大きくもない国。だがこの国は、他の国からは非常に恐れられている。その確固たる理由はただ一つ、宮廷魔術師の絶対的な強さにある。さらには、強力な騎士団も存在し、そこの団長の指導力とカリスマ性は、それは凄まじい者だった。
「おおー、あれが王都って言う所ー?すごーい!あの中には、沢山の人間がいるんでしょ?」
だがこの幼女の前でも、その実力は発揮されるのだろうか。というかここまできてしまったはいいものの、これを連れて街に入って大丈夫だろうか。いや、大丈夫な訳がない、こいつはどうにかして、街での殺人を禁止しないと、下手したら俺が捕まる。
「えーっと、、スピカ、ちょっといいか?」
俺は、元気にはしゃぎまくるスピカの肩に、手を置いた。
「なにー?」
「街の中では、人を殺さないでくれるか?」
俺はとりあえずストレートに、そう提案した。だがスピカは、なんとも難しそうな顔をして、首を傾げている。やっぱり、人を殺すことを禁じられることに、疑問を持っているようだった。
「なんでー?」
ここまでは予想通り、ここからどうスピカを納得させられるかで、王都の命運が決まってしまう。たぶん。
「えっとな、スピカは、面倒なことって好きか?」
「面倒なことってなにー?」
「沢山の人に追いかけられたりとか、変な人に話しかけられたりとか、殺されそうになったりとかかな。」
俺は具体的なことは言わずに、なるべく簡潔に伝えられるように言葉を選んだ。だが。スピカはまだ難しそうな顔をしながら唸っている。
「んー、そいつらも全員ぶっ殺しちゃえばいいんじゃないの?」
ダメだった。スピカには、自分が誰かに襲われるといったビジョンはないらしい。俺は、高速で頭を回転させ、さらなる策を練った。
「んー、でもなぁ、スピカが死ななくても、俺が死ぬと思うんだけどな。」
「なんでー?」
「スピカが襲われても大丈夫かもしれないけどな、俺は沢山の人に襲われたら流石に死んじまうよ、なぁ、俺が死んでもいいのか?」
若干押し付けがましい言い方かもしれないと、言った直後に気づいたが、スピカは少し、難しそうな顔を緩めた。
「お兄ちゃんが死んじゃうのは困る。わたしひとりじゃ、生きていけないよー。」
スピカは上目遣いでそんなことを言ってくる。なにこれ超可愛い。だが俺はなんとか理性を保ったまま、言葉をつないだ。
「じゃあ、街では人を殺さないでくれるか?」
「うん、それはいいよー……だけど誰も殺さずに、どうやってこの国を手に入れるのー?」
おい、世界征服ってやっぱり本気だったんかい、忘れてんのかと思った。さてどうするか、ここはどう答えるべきなんだろうか、ヤバいヤバい、なんも思いつかねえ。世界征服をやめさせるのが一番良いんだろうが、征服願望がある人を止める方法なんて、知らん。
「じゃあさー、王様みたいなのは殺してもいいー?」
「あ、うん、まあ、それくらいなら……。」
妥協点として、王が犠牲になることとなった。