第5話 森の頂上にいたものは
「エリー! カナ! 右前方 上 木の影に隠れて野鳥が来てるぞ!」
「ハッ」「シャドウボルト」
エリーの弓をいる音と、カナの詠唱が同時に届いた。
「ハヤト!ユウリ!左からゴブリンが2匹だ! ハヤトは迎撃!ユウリは適当に受け流して置き去りにしろ!」
「払い抜け!」「足払い!」
ハヤトがゴブリンとすれ違い様に一撃をお見舞いし、もう一匹に対しては、ユウリが足払いを繰り出して、相手の体制を崩した。
足払いと言いながらも、馬上からかなり勢いをつけて振り下ろしていたから、かなりの威力だったろうなと思いながら、トウマ達はゴブリンを置き去りにした。
馬を駆けながら、指示しているのはトウマ。
高速で駆ける一同を、一番後方で指示を出していた。
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村を出る前に、仮眠から目が覚めた後、一同は、村外れにある酒場の外に集合した。
さすがにお店は閉まっていたが、宿屋などという上等なものが無いこの村で、ハヤトは酒場の奥にある仮眠室を使わせてもらったようだ。
「もう一度戦力を確認する。
エリーとカナは、馬上からでも弓や魔法を放てるか?」
とハヤトが尋ねると、エリーは、
「私はもちろん大丈夫。 むしろそのための弓みたいなもんだわ。 ただし、100発100中は期待しないでよ。馬の上からじゃなくたって、元々命中率は高くないんだから。」
と快活に答え、カナは、
「カナも、どちらも、問題ないです。ただ、弓の威力はあまり期待しないで下さい。」
と、オドオドとしながも、はっきりと答えた。
「次、ユウリとトウマはどうだ?」
「俺は問題ないな。むしろ、槍は馬上からの方がリーチが活きるってもんだろ。」
「僕は剣を振るうこと自体は問題ないけど、馬に乗りながらだと、リーチが短いから戦力的には若干落ちるかな。」
ハヤトの問いに、ユウリとトウマが答えた。
「姫さんは?」
「一応、訓練はしてるわ。自衛程度なら問題ないわ。」
と、腰に下げた細剣をさわりながら答えた。
「わかった。じゃあ、道中は基本的に、俺が一番前を走る。ユウリは俺に付いてこい。
ユウリの後ろに少し離れて 姫さん。姫さんの左右にエリーとカナ。 最後尾にトウマがつけ。
基本的に、一同の指示を出すのは、トウマ、お前だ。お前が指揮官のポジションになれ。
俺は一番前を走る分、後ろの状況が把握できないから、俺も含めて容赦なく全体に指示を出していいぞ。」
ハヤトの指示にトウマは珍しく慌てた様子で尋ねた。
「なぜ、僕が指揮官なのですか?」
「正直、戦闘の中で、姫さんを除くと、お前が一番戦力にならん。
それに、俺と姫さん以外の二人の事は、お前の方がよくわかってるだろう。
俺と姫さんの戦力に関しては、道中で判断しろ。
それから、おそらく、お前は先陣をきって戦うより、後方で指示をする方が向いている。」
そこまで言われては、なかなか断れない。
「わかりました。 それでは出発しましょう。」
「姫さんはもちろん、全員、敵を倒すよりも、無事に森を抜ける事を考えろ。」
ハヤトの号令の後、後ろでアリスとカナの会話が聞こえた。
「アリスの事は私が守るからね。」
「お互いに頑張ろうね。」
アリス姫はどうやら、エリーとカナの部屋で休んだらしい。
いつの間にか、アリス姫とカナはずいぶんと親しげになっていた。
後で聞いた話だが、アリス姫とカナは同い年だったらしい。
お互いに、周りに歳上が多いということで、意気投合したようだ。
こうして、アリス姫の護衛作戦はスタートした。
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結果的に、ハヤトの突破力は凄まじかった。
重そうな両手剣を、馬に負担になることなく、軽々と振り回し、1撃で敵を屠っていく。
ハヤトに触発されつつも、アリス姫を守らなければならないというストッパもあるせいか、体は熱く頭は冷静にという感じで、ユウリの状態もかなり良い。
当然、1撃では倒せなくとも、ユウリの攻撃により態勢を崩した敵は、アリス姫へと攻撃してくることはなく、むしろ、エリーのパンチやカナの杖、そしてアリス姫の細剣によって、モンスターへと着実にダメージを与えることが出来ていた。
アリス嬢も、自衛は出来るという言葉通り、力はなくとも、手早い攻撃で、着実に相手の急所を攻撃し、自分の身を守っていた。
危なげなく森を駆け、しばらく進むと、先頭のハヤトが、
「もうすぐ森を抜ける。 森を抜ければ 残りは緩やかな登り道の後に、急な下り坂だけだ。
下り坂では、こちらも相当のスピードが出せるし、モンスターもそうは襲ってこないだろうから、登り切ってしまえばこっちのものだ。」
間もなく森を抜けた。
思ったより、安定して進めたと安堵の溜息をついたのもつかの間。
戦闘のハヤトが、何かに気付いたかのように、速度を緩めた。
「あれは・・・?」
そこにいたのは、ここまでの森で遭遇したゴブリンとは明らかに色や装備が違う獣人タイプのモンスターだった。
自分が見ているものが信じられないというように、ユウリが小さく呟いた。
「あんな色のゴブリン、見たことねぇぞ!?」
山頂の手前には、そこらへんのゴブリンとは体力にして、10倍近く違うと思われるゴブリンの上位型モンスターが徘徊していた。
森を抜け、ボスとの対戦です。